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#7

 次の日、リズの家に行ってみた。ふたりはもういないのだと自分に言い聞かせながら。


リビングにひとがいる! ソファに座っていたのはブレダ・バークリーだった。肩を落としたぼくにダイニングを指し示している。


いつも3人で勉強したテーブルにラッピングされた小箱がのっていた。『ノイへ 中を見て』と書かれたカードがそえてある。


あの日、リズを探しに来たときにはなかったはずだ。つまり、あの後ここに戻って来たんだ。


軍警察が見張っているかもしれないのに。ぼくにこれを渡すため、危険をおかしてまで。


小箱にふれた瞬間(しゅんかん)、満開の笑顔で手をふるリズが見えた。すぐそこにいるかのようなリズは本当にうれしそうに笑っているから、つられてしまった。久しぶりに笑った気がする。


「どうかした?」


 ブレダがいぶかしげな顔でぼくを見ている。


「リズが、別れのあいさつに来てくれました」


「君が触れると見えるように仕掛けてあったのね。ティアンと名乗っていた男は特殊能力者(ヴァイオーサー)だから」


そんなこと、わざわざ教えてもらわなくても知ってる。ぼくだってこの目で見たんだ。大人のティアンを。



「情報を持って来たわ」


 ブレダの言葉はうれしいはずなのに。なぜだろう。そんな気分じゃない。


ブレダにしてみれば、ぼくとの取り引きなんてすっぽかしてもよかったんだ。それでもこうして来てくれたんだから、感謝しないといけないんだろうけど。


取り引き―――ぼくの知っていることを全部話すかわりに、ブレダが調べてわかったことをぼくにも教えてくれるように頼んだのだった。


リズがぼくにかくしていることが何なのか、どうしても知りたかったんだ。あのときは。


ぼくはハーラのことを打ち明けたのに、リズがぼくにかくしごとをしているのは許せないと思った。リズのことをちゃんと知って本当の友だちになりたいと思った。


 軍警察に秘密を打ち明けたりしたら、こうなるかもしれないと思わなかったわけじゃない。それでもかまわないという気持ちがぼくの心の片隅にはあったんだ。


リズはティアンしか見ていなくて、ぼくの入りこむすきなんてなかった。それが悲しくて、くやしくて。そんな今を変えたかった。


結局、何もかもだいなしにしてふたりともいなくなった。友だち以上の友だちだったのに! ばくは約束を破った。最低の裏切り者じゃないか。


友だちなもんか!!



「リスベット・エステル、ティアン・エステルという姉弟(きょうだい)は実在しない。偽名(ぎめい)だったのよ。そもそも姉弟でもない。調べがついたところでは、」


「もういいんです。」


 ブレダの言葉をさえぎっていた。軍警察の女はだまってぼくの顔を見ている。


「ひとつだけ教えてください。あの後、ふたりはどうなったんですか」


「逃げおおせたわ。軍警察が総力を挙げて捜索しているけれど(つか)まらないでしょうね」


そうか、よかった。

ほっとしている自分がいる。ぼくはまだふたりの友だちでいるつもりらしい。


「悪い夢でも見たと思って忘れることね。それとも、いい夢だったかしら?」 


そう言い残してブレダは帰って行った。



 ひとり取り残されたぼくは小箱を開けてみることにした。


中には万年筆が入っていた。ハイスクール生たちが制服の胸ポケットにさしているのはシルバーだけど、これはゴールドだ。すっごくクールだ。


リズは覚えていたんだ。ぼくの何気ないひとことを。


「学校に行きたいとは思わないけど、あの万年筆はかっこいいよね」


ハイスクール生とすれ違ったときにそのようなことを言ったのだった。


「ノイって意外とかっこつけだよね」とからかわれて「そんなことないよ。いいなと思っただけ。ただの感想だよ」なんてむきになったことまではっきりと覚えている。


 リズはぼくとすごした時間を大切にしてくれていたんだ。そのことにぼくは気付いてさえいなかった。


ああ、リズ! 会いたいよ。会ってあやまりたい!!


せり上がってきた後悔(こうかい)と涙をおさえきれずに声をあげて泣いた。どうせぼくしかいないんだ。かまうもんか。



 今なら言える。今だから言える。


どうでもよかったのに。リズがいちばんに誰を思っていたって、どんな秘密をかかえていたって、リズはリズだ。ぼくの目の前にいるリズがぼくのリズだったのに。


ぼくの知っているリズはちょっと気が強くて、ちょっとわがままで。思ったことをはっきり言える子だ。でも、、こんな言い方は、しないんじゃないかな。


ふと、メッセージカードの言葉に違和感があるような気がした。


『ノイへ 中を見て』


 命令口調はいかにもリズらしいけど、中を見てなんて、わざわざ書く必要があるかな? そんなこと言われなくても中身を確かめようとするのに。


中って、箱の中という意味じゃないのかもしれない。だとしたら・・・・・・


わかったかもしれない!


やっぱり!! 万年筆の継ぎ目をひねってはずすと白いものが見えた。シンに紙が巻き付けてあるんだ。


高まる心臓の音を聞きながら小さく折りたたまれた紙を開く。そこには文字がぎっしり並んでいた。リズの字だ。



『よく見つけたね。ほめてあげる。ノイならきっと気付いてくれるって信じてた。


最初にあやまらなくちゃならない。わたしうそをついていた。たくさんうそをついていた。


本当にごめんなさい。


覚えてるかな? 

ノイがブーケをくれた日のこと。


あのとき、本当は気づいていたんだ。ブーケを抱えてわたしを見てるのが、落とし物を拾ってくれた男の子だってこと。


ても、知らんぷりをした。はじめて会ったときにはもう、ノイのことを気に入っていたから。友だちにはなりたくなかった。


いつか必ずサヨナラしなくちゃならないのら友だちなんていらない。悲しい思いはしたくない。そう思ってた。


わたしは臆病(おくびよう)だった。


ノイは違ったね。勇気があった。無視したわたしを追いかけて来てくれた。あのときのノイの勇気がわたしたちを友だちにしてくれたんだ。


今こうしてサヨナラすることになって、やっぱり悲しい。すごく悲しい。それでも、ノイと友だちになれてよかった。悲しいよりたくさんの楽しいをもらったから。


わたし、忘れないから。

思いやりがあって、まじめで、勇気ある男の子、トー二ノイ・ルフト。


友だちになってくれてありがとう。


          あなたの親友リスベットより』



 ぼくの胸には熱いものがこみ上げていた。

リズは約束を破ったぼくを、まだ友だちだと言ってくれる。 


思い返してみると、リズはよくぼくをほめてくれた。


信じてやっても、いいのかな。リズが信じたぼくのことを。


急に目の前が開けてまっすぐに伸びる道が見えたような気がした。


この道がどこまで続いているのか、この先に何があるのか、わからない。わからないのにリズの笑顔があると思えた。






 スポットライトを浴びた僕はやっと願いが(かな)ったことを知った。


自信はあったさ。この7年間、できる限りの努力をしてきたんだから。それでも、トロフィーを授与されてフラシュを浴びていると夢の中にいるようだ。



 リズがいなくなった時、僕はひとつの決心をした。


そのために何をすればいいかははっきりしていた。だからすぐにアルバイトを始めたんだ。アルバイト先はママン・マニ。まずはショコラティエになる必要があった。


ハイスクールを卒業するとショコラティエとして正式にママン・マニで働き始めた。


そこからが長かった。ママン・マニ主催(しゅさい)のコンペティションに参加するものの、毎回ライバルたちに拍手を送ってばかりだった。


そんな時、くじけそうな僕を支えてくれたのは他でもない、リズの言葉だった。リズに背中を押されてここまで歩いて来た。



 僕には作りたいものがある。届けたいひとがいる。

 伝えたい言葉がある。伝えたいひとがいる。



 いくつものチョコレート菓子をつくってきたけれど、名前はどれも同じ。


「リスベット」


ありたっけの思いを込めたチョコレート菓子だ。


リズはどこにいてもママン・マニには行くはずだ。そして、コンペティションで優勝した菓子はどこの支店でも売られることになる。


ガラスケースのいちばん目立つところに並べられた、「リスベット」を見た君はどんな顔をするだろう。



 僕はショコラティエになったよ。リズが勇気と自信をくれたからここまで来れたんだ。伝えられないままだった言葉は届いたかな。


あの時、君が僕を外に連れ出してくれなければ、僕は今でも部屋に閉じこもったままだった。そして、いつかは秘密の重さに耐えきれなくなっていただろう。


「そんなのただの偶然だよ」って君は笑うかもしれない。確かにお菓子を落としたのは偶然かもしれない。でも、それが君でなければ僕は部屋から出たりはしなかった。


()ねまわる光みたいな君がまぶしくて、僕の中の恐怖を真っ白にしてくれたから外に出られたんだ。大袈裟(おおげさ)じゃなく、今こうして僕が生きていられるのは君がいてくれたからだ。


ぼくはこれからも最高のチョコレート菓子を作り続けるよ。

ぼくが作ったお菓子をおいしそうにほおばるティアンと、そんなティアンを見つめる君の笑顔を思い浮かべながら。



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