#6
何もかもが疑わしくて何を信じたらいいのかわからない。何も信じられないのにいつも通りなんて無理だ。
体の中をムカデがはいまわっているような気持ち悪さをなんとかしたかった。それには、ぼくの知らない何かが何なのかを知る必要がある。
リズにきいても話してはくれないだろう。話す気があるのならあんな風にごまかしたりはしない。
「あの女が軍警察だとどうやってつきとめたの?」とたずねたら、「最高機密」とはぐらかされていた。
こうなると・・・・・・
その軍警察だ! まだこの島にいるかな。
母さんにあの女を見かけたかきいてみた。ないと言われた。それから連絡先ならわかるとも!
家に来たとき、探し人の写真を置いていった。その裏に電話番号と名前が書いてあったのだ。
ブレダ・バークリーは女の名前だろう。電話番号は女が泊っているホテルのものだ。島にホテルは一軒しかない。
これはかけだ。女がいれば何もかも話す。いなければ何もかも忘れる。
リズが何をかくしているのか知りたい。でも、それは「誰にも話さないで」と言ったリズとの約束を破ることになる。だから、運にまかせることにした。
どのくらいたったのだろう。ホテル脇のベンチに座って待っていると声が降って来る。
「起きて。こんな所で寝るのは不用心よ」
目の前に女が立っていた。ブレダ・バークリーだ。いつの間にか眠ってしまったらしい。ここのところよく眠れない夜ばかりだからしかたない。
「私に用があって待っていたんでしょう?」
ブレダに言われてぼくの決意は固まった。
「ぼくが知っていることを全部話します。その代わり、ひとつだけ条件があります」
ブレダはぼくの目を見て「いいわ」と言った。
それからはいつも通りを意識してすごした。ぼくが取り引きしたことをリズに気付かれないようにするために。ブレダからの連絡は、まだない。
このまま何もかもときの彼方に置き去りにして、夢の中でのできごとみたいになるんじゃないか。そんなことを考えはじめたころのこと、それは唐突にやって来た。
その日は週に1度の恒例行事、ママン・マニで買い物をする日だった。けれども約束の時間になってもリズは来なかった。約束をすっぽかすような子じゃないのに。
待ちきれなくなったぼくはリズの家まで迎えに行くことにした。
夕焼け空の下にリズの家が見えてきたそのとき、
「「ドッゴーン!!!」」
全身をなぐりつけるような大きな音と振動に何かが爆発したのだと思った。どこにも煙は上がっていないようだけど。
その辺の家から飛びだして来たひとたちも何が起きたのかわからないみたいだ。
不安をかかえたままたどり着いたリズの家には誰もいなかった。
どこへ行ったのだろう。どこかですれ違ったのかな? それならティアンが家にいないのはヘンだ。ママン・マニに行くのはいつもリズだけだから。
また大きな音がした。空が光っている。秘密の入り江のあたりだ。
ふたりはそこにいる!
なぜかそう確信したぼくは、火が付いたように走りだしていた。
町をでてすぐに違和感を感じて歩をゆるめた。なんだか景色がちがう気がする。道をまちがえたのかな。
立ち止まって振り返る。町の姿はいつも通りだ。ということは、こっちであってるんだ。
じゃあなぜ、タウリラの木がないんだろう? 秘密の入り江の入口に3本並んで立っているはずなのに。果樹園も今見えている倍の広さはあったと思う。
わけがわからずに立ちつくすぼくの目にチカチカする何かがうつった。入り江の方角の空に光の矢が飛び交っている。
とにかく行ってみよう。何が起きているのか確かめるんだ。そこにリズもいるはずだから。
海!!!
どうなっているんだ?! まだまだ続くはずだった果樹園が途切れていきなり海にでた。当然秘密の入り江は影も形もない。
リズはいた。荒れ狂う海に浮かぶ球体の中に。
きれいな球体は透き通っていてリズが上を向いているのが見て取れる。リズの視線の先は光の矢が飛び交っている空だ。空中で戦っているひとがいる。
どうしてそんなことができるのか。空に浮かんだまますごい速さで動きまわっている。その中のひとりが誰なのがすぐにわかった。
銀色の長い髪。
見まちがいじゃなかった。あのとき、ティアンのベッドで寝ていた男だ。
そうじゃない。 あれが、ティアンなんだ!
ああ、そうか。そうだったのか。
弟のティアンに甘えるリズ。
「子供のままでいて」という言葉の本当の意味。
ずっと心にひっかかっていたものが溶けていく。
ティアンと戦っているのはふたり。ひとりはブレダでもうひとりは知らない男だ。ブレダの仲間ということは軍警察なんだろう。ふたりが必死なのがぼくにもわかった。
一方のティアンはふたりがかりの攻撃をこともなげにかわし続けている。
光の矢が海に落ちるたび、海原が光ってまるで別世界だ。
リズの球体に矢がささった! ように見えたけどなんともなさそうだ。荒れ狂う波と光にもてあそばれながらもリズが転ぶことはない。中は水平のままなんだ。
ティアンが両手を上げる。空をかきまわすような仕草をすると急に雲がわいてきた。
いまの今まであんなに晴れていたのに、あっという間に暗くなっていく。黒い雲の中では稲妻が走りまわっている。
あれは何?!
ティアンへの攻撃の手をゆるめないふたりそれぞれの上空に、金属の棒のようなものが現れた。避雷針みたいだ。
軍警察のふたりは一瞬戸惑ったようだけど次の行動ははやかった。
すぐに頭上に浮かぶ棒を壊しにかかった。簡単には壊れないとわかると、今度は棒から離れようとした。
ところが、棒はぴったりふたりの頭上を付いて来る。どんなに動きまわってもずれることもない。
こうなるともう、雷雲のないところまで逃げるしかない。頭上の棒に雷が落ちたら無事ではすまない。
軍警察のふたりがどこかへ行ってしまうと、リズの入った球体がゆっくりと浮かび上がって行く。ティアンの待つ空へと。
目の前で止まった球体にティアンがふれるとそれはシャボン玉みたいに消えてしまった。
ティアンに飛びつくリズ
リズを受け止めるティアン
お互いを強く強く抱きしめるリズとティアン
胸がつまるこの思いは何だろう。
あふれた涙をぬぐって目を上げたときには、もう、ふたりの姿はどこにもなかった。
やがて雷雲が散らばって青空が戻って来た。目の前の海と空はどこまでも広くて、、ひとりで向き合うぼくは自分のからだを抱きしめて、泣いた。。