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9 Sクラス

 後日、特に大きな問題はなくして学園の始業式が行われた。

 当日は寮に生徒たちが溢れ、今までの静かさを吹き飛ばした。

 

 クラス分けは痣の大きさと能力別で行われ,俺とリージェ、エドガーは言うまでもなくSクラスだ。

 S~Dのクラスで,Sは少数精鋭。痣の大きさに,それを使いこなせる技量を兼ね備えた者のみが配属される。

 リージェと同じクラスだとわかったときは思わずハイタッチをかましたものだ。

 

 始業式のあと、俺たちは事前に知らされていた通りに教室へ向かった。

 すでに何人かは席に座っていて、俺とリージェも同じように適当に座る。

 席は全部で10席用意されている、そのうち今埋まっているのが7つ。

 ざっとみるが、誰もが貴族やらの特殊な身分に見える。

 

 それから数分して、クラスの席は9つ分埋まり、担任らしき男が入って来た。

「はーいはい、皆さんはじめましてー!担任の、アルセンでーす。よろぴく☆」

 アルセンは、扉をくぐってからノーストップで自己紹介を済ませた。

 一見オレンジの髪に、水色の瞳と陽気な印象で、親しみやすそうな口調だ。

 だが、短い自己紹介を済ませると、様子は一変して下を向いてなにかぶつぶつと呟き始めた。

 突然やって来た奇妙な男に、俺含め生徒たちは引き気味である。

(なんだ、こいつ...。)

 シーンと静まり返った教室内に、アルセンの呟きが響く。

「やっぱり俺がこんなキャラなんて無理な話だったんだそうだそうなんだ世の中俺の思う通りに行くことなんてないもんなそうどうせ俺は見た目で明るいって言われる割に陰気でうさん臭くて信用されない。そういう運命なんだ受け入れようこういう時には深呼吸だよな。すーはあ゛ずーばーむりだ俺には無理なんだ……」

(何言ってんだこいつ!?)

 おれは何とか理解しようと頭をフル稼働するが、一向になにも思いつかない。


「先生。ぶつぶつ言ってないでなにか指示を出してください。うるさいです。」

「ガーン」

 淡々と言い放ったのは、センター分けで赤髪の気の強そうな男子だ。

 すこし口角が上がっていて、馬鹿にしているのがわかる。

(いじめっ子タイプだな。よく自分中心に世界が回ってるとか考えてるおこちゃまにありがちだ。)

 俺も前世で子供の頃はよく馬鹿にされてたななんて懐かしんでいると、赤髪は突然俺を指さした。

「おい、そこのお前!今笑っただろう。俺がだれだかわかってるのか?いや、分かってないからそんな品のない育ち方をするんだな。」

「あ”あ?」

 反射的にしかめっ面で睨みつけると、赤髪は少したじろいだように見えたが、すぐに威勢を取り戻して鼻で笑われた。

「俺は伯爵家の人間だぞ?お前はどうだ、男爵か、子爵か?それとも平民とか?」

 おやおや、何やらリージェがいる方向とエドガーがいる方向からとてつもない殺気を感じるんですけど?

「姫様、貴方のそばに立つ前に少し手を汚してもよろしいでしょうか。」

「姫殿下、目をつむっていてください。」

 静かに呟いた二人の視線は明らかに赤髪にむけられている。

「は、姫殿下?こんな奴が麗しのソメイユ様なわけないだろ......」

「「姫様を名前で呼ぶな―――――――!!!」」

 二人は激昂して短く詠唱し最小限に抑えられたウォーターボールを放った。こんな時でも一応気遣いができる二人は実に頼もしい。

 だが―――――

「そこまでだ。二人とも。ありがとな、俺の為に怒ってくれて。だけど魔法はだめだぞ。」

 俺は無詠唱でバリアを張り、二人のウォーターボールをはじいた。そして熱を起こして地面に水が散る前に蒸発させた。

 その反動で俺の周りには仄かな風が吹く。


 しばしの沈黙を挟み、赤髪は徐々に顔を青くしていった。

「まさか、本当に…………!?」

 まじまじと俺の顔を見つめ、情報を照らし合わせていったのだろう。自身に満ち溢れていた表情は、何かを砕かれたかのように沈んでいった。

「姫様、甘すぎです。こういうのはきっちり躾けておかないと後々後悔します。」

「そうです。姫様は本当に心が広い。」

 二人はまだ満足していないようで、頬をぷっくり膨らませている。

 俺はそれを微笑ましく思いながら、ひれ伏した赤髪に目を向けた。

 さすがに確信したのか、額まで地面についている。

「申し訳ございませんでした!!!まさか本人とは思わず...」

「俺じゃなかったらあんな態度とっても良かったのか?」

「い、いえ、そういうわけでは......」

 俺はコイツの正体を最初から知っていた。

 ガイアーズ伯爵家長男 ジルフォン・ガイアーズ。最近子爵から上がったばかりの新米で、まだまだ資金が足りずに王室に多額の借金がある。また父様から個人的にも借りがあるようで、伯爵としての地盤は緩い。

 まだ子供とはいえ、ここは貴族の世界。安易に物事を考えると痛い目に合う。

「いいか。身分とは盾だ。身分の高いものは大きな盾で人々を守り、戦う。その役目を背負うのが貴族、そして王族だ。俺たちはその力で過ちを犯さぬようにしなくてはならない。」

 俺は一呼吸おいてから続けた。

「そして、正しい力の使い方を学ぶのがこの学園だ。これを機にお前が変われることを願うよ。」

「どんな罰でも受けます。ですが、叙爵だけはどうか......!!父上が必死に努力した成果なんです!」

 ジルフォンは意外と親思いなようだ。もとより罰を与えるつもりはなかったが、「ああ」と何もしないことにした。

「いいから、頭を上げろ。お前はまだまだ成長の機会があるんだから。一緒に頑張ろうな。」

 手を差し出し、握ったジルフォンの手を引き上げる。

 リージェたちの「なっ!」という声が聞こえた気がしたが気にしない。

「は…はい!!」

 ジルフォンは頬を赤く染め、元気に頷いた。

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