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7 友達と学園

 父様の言う通り、3年など一呼吸する間もなく過ぎるもので、俺は王立学園グラディウスへの入学が目前にあった。

 皆も疑問に思ったであろう。

 え?学園の名前、おかしくない?

 それは当然のものであり決しておかしくなどないのだ。


 ここ3年で、驚きの事実が発覚した。

 この国の起源はどうやら俺が死んだ後に俺の生涯を記念して建てられたようなのだ。

 正直、「生涯を記念して」の意味が分からない。

 だが、そんなバカみたいな理由で出来た国が数千年も続いていることがそもそも驚きだ。

 そして、ただ歴史書に載っている程度だと思っていた俺は国父として祭り上げられており、いまも重加工を施したかのようなイケメンの俺が王宮に飾られているようだ。


(なにそれ!はずかちぃ!!!)

 

 少しの乙女心を含めたが、我ながら今のは恥ずかしい。


 まあ、そんなこんなで、王立学園グラディウスは俺の仲間たちが引退後教師となって建てた学園だと分かった。

 分かりたくなかった事実だが、俺は恥を忍んで入学しなくてはならない。

 「お友達」となったリージェとの仲は良好で、今では気を遣うこともなく気軽に呼び合っている。リージェは敬語が抜けないらしく、いつも丁寧語だ。

 リージェは最近髪を切ったらしく、いわゆる「タッセルボブ」とやらになり、より一層その可愛さを増した。

 俺は髪を伸ばし続け、今やお尻のあたりまで髪が付く。



 各々の成長を感じつつ、俺たちは春、学園の門をくぐる・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ソメイユー。父さん寂しいよ。まさかこんなにも早くお別れが来るなんてぇーーー!!!」

 情けなくも俺にすがる父様を苦笑しながら見下ろす。

 学園は寮制なので、次の休暇までは家族と会えないだろう。

 兄さまたちは一足先に入学を済ませているので、父様たちよりは容易に会える。

 頼りになるメシスも学園までついてくることはできず、鼻水を垂らして涙をぼろぼろ流している。

 みんなを慰める母様は、顔を赤くしている。

(んな一生の別れでもないのに。)

 俺は大げさな家族たちに呆れながらも、王家の紋章の入った馬車に乗り込む。

 こういうのは思い切ってバサッと切るのが一番なのだ。

 みんなは何か言いたげな顔をしていたが、俺は手を振るだけにとどめた。


 学園に着くと、案内役の教頭が待っていて、会場まで案内された。

 俺は制服がスカートなことを不服に思いつつも、静かに席へ向かう。途中でリージェが見えたが、今は無視だ。

 もう儀式のときのようなへまは起こさないと誓い、護衛がいないことを言い訳にセイアッド・ソードを腰につけている。

(つぎあんなことがあったらぶった切ってやる!!)

 俺の心は燃えていた。


 そして予想通り一番目立つ席に座ると、式が始まった。

 皆は保護者席に身内がいるが、俺の場合は公務で忙しいとのことで無理だった。


「では式を始めます。まず初めに、校長のセイド先生から一言。」

 どうやら校長の特殊能力 長話が始まる予感がする。

 そして、おれの勘は当たった。

 ふかふかの椅子に座っていても尻が痛いと錯覚するような長さで、皆眼だけ開けて寝ていたのではないだろうか。

「・・・ということで、私の話を終わります。」

 約8分に及んだ話は、この時をもって終わりを告げた。


「続いて、皆さんの生活指導を担当します、ジルム先生より一言。」

 またかよ!!

 俺たちが半ばあきらめかけたときだった。


 ドゴォォォォォォン!!!


 会場の大扉が破れ、外からは禍々しい瘴気を漂わせる()()が一体堂々と入って来た。

 俺は、本来ここにいるはずのないその存在に驚きを隠せない。

 会場の警備兵は既にぼろぼろで、必死で止めようとしているのが分かる。

 貴族の子供らは突然現れた魔物に驚きつつも、さすがというべきかある程度の理性は保っているようである。

 だが、ここにいる戦力と言えば警備兵と保護者席の貴族の護衛がほとんど。護衛達も魔物を倒す余裕などないだろう。


木々の守護(ネイチャーバリア)!!」


 どこからともなく発生した木々が魔物に絡みつき、動きを止める。

 声の主はリージェ。あの日、友達になってからはよく一緒に訓練をしていた。

 

 リージェの魔法を見て、各々が驚愕の表情を見せる。

 だれかが「今の内だ!」と言ったのを機に、一斉に扉とは反対にある裏扉から保護者やら子供たちやらが流れ出る。

 冷静ではあるが、やはり自分の命は自分で守る本能は残っているようだ。

 俺はその間に校長たちの去った壇上の卓上に上がり、辺りを見渡す。

 裏口のある付近は人が多く。逆に入口らへんには警備兵と少し離れたところにリージェ含む数人の生徒がいるのみ。

 その数人の生徒達も、各々で出来ることをしているようだった。


 だが・・・・・・・。


 相手はめったに現れない魔物である。人間でもなければ、彼らの知る限りの者でもない。

 想定通りの動きをするわけがないのだ。

(俺は前世で何度も魔物と戦っているし、あいつとも何度が対戦してる。たしか...そうだな。名前は魔侵牛鬼(キャトル・オウガ)とかそんな感じだった気がするな。アイツは力は強いが知能が低いから、攻撃を読むことができれば簡単に倒せる。だが、気を付けなくてはならないのは…)

 リージェは魔物の動きを止め、そのすきに警備兵や残った生徒たちが攻撃する。

 だが少なからず反撃はされ、疲労と傷が足を重くしているようだった。

 なかなかいい連携だ。

 だがキャトル・オウガの本当の恐ろしさは、知能の低さ故に弱小な魔物に利用されやすいことだ。

 弱小な魔物は、強い魔物の背に張り付き、安全を得る。弱小な魔物は、やっと見つけた安全な場所を渡すまいとキャトルオウガを守る。

 ”数は力なり”

 その数は小ささゆえに多く、そして狂大。


 ゆっくりと背を下りるその弱小なる魔物は、居場所を守るために・・・・。

 そして、それは警備兵へ、そして、生徒、そして、リージェhと向かう。

「なんだ!?」

 警備兵が叫ぶ。それは20人ほどいる兵すべてが思っただろう。

 ひざ元までの大きさもない、小さな生物たるそれが自分たちの足元をすくい、そして、明確な敵意を以て攻撃してくるのだから。

 

 瞬間、空間に夜の帳が下った。


 それは宇宙のような深さを秘め、何より淡い。


 コツ。コツ。


 生徒や保護者が避難し、静かな空間に足音が響く。


 手には夜の闇より尚深い剣を持ち、その銀髪は結われることなくただたなびいている。

 紅い瞳はどこか先を見つめ、揺るぐことなく据えられる。

 

「ごめんな。ちょっと遅かったかもしれない。」

 

 俺は、一歩一歩ゆっくりと優雅に歩く。


(大事なお客様へのマナーだから、な。)

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