5 狂言
更新遅れてすいません!ワザトジャナインデス......
今日は、突然のことだがブラックフォード男爵が尋ねてくることになった。本来ならありえないことだが、娘のことで謝罪がしたいとのことだったので特別に許すことになった。
(昨日聞いた話ではブラックフォード男爵はかなり怪しげだ。だが俺たちがそう思うことくらい、男爵にもわかるはずなんだが。)
俺は当事者として出席を余儀なくされ、絶賛準備中(強制)である。
なんで俺がこんなにめんどくさいことに巻き込まれなくちゃならねえんだなどと考えていると、どうやら男爵が到着したらしい。
少し早めの到着で、俺の準備もあと少し残っている...らしい。まあ、俺はそういうことは気にしないので、メイドたちにお任せである。
「お待たせいたしました。ソメイユでございます。」
俺が到着したときには、部屋には男爵とリズ、そして長男のセシルが座っていた。
「これはこれはソメイユ王女。貴重なお時間をいただき、感謝します。」
男爵は、俺が入ってくると立ち上がり、リズもたどたどしく腰を上げた。
一応マナーは守っているようで、俺はほんの少し安心した。
(セシル兄さまは基本に忠実。つまり基本を守れていなければ明日は無いと思わなくてはならない!いやこえー。)
一度ジークが遊んでいて花瓶を割ったことがあるが、その時は二人とも幼くて踏んだり蹴ったりだった。
一瞬なぜセシル兄さまが居るのかと思ったが、これは時期国王となるであろう長男を試す試練だろう。
(この程度の問題、自分たちで解決して見せろってか。)
セシル兄さまも、緊張したおもむきで構えている。
「ご着席ください。」
男爵らは礼を言うと、静かにその場に座った。
「ブラックフォード男爵。単刀直入にお聞きいたしますが、この報告書の内容はすべて真実だと断言できますか?」
「はい、神に誓いましょう。」
セシル兄さまがリズを見ると、リズはうつむいて震えた。
男爵はリズに目配せをすると、リズは下を向きながらゆっくりと立ち上がり、恐る恐るという様子で俺の横に突っ立った。
そして数秒。俺たち4人と使用人合わせて4人ほどの部屋を沈黙が満たす。
そして、リズがゆっくりと口を開く。
「......ください。...どうか、お許しください。こ、この度は、私めの、勝手な行動で、王女殿下及び...皆様に、ご迷惑を...。ほ、本当に、申し訳ございませんでした......!!」
ドレスの裾をぎゅっと握りしめ、時々詰まりながらもリズは謝罪を述べた。頭を下げたとき、厚く下ろされた前髪の隙間に入れ墨が見えた。
(こいつ、やらされてるな。)
俺は6歳とは思えない言動と態度を見て確信した。
セシル兄さまは、魔眼を発動し、嘘の有無や真偽を視ている。
魔眼とは、所持者の特性に合わせて自在にその能力を替える。また、魔眼と魔力は反発し合うため、魔眼を持つ人間が魔法を使おうものなら反動で心臓が圧縮されて死に至る。
兄さまの魔眼は相手の考えていること、思っていることを見抜く性質を持っている。将来王となる器故なのだろうと予想しているが、すごく稀なため詳しくは判明していないようだ。
俺の時代でも魔眼使いはいたが、主に裏方で活躍していたイメージである。
セシル兄さまは魔眼の特性を理解し、うまく使っている。気味悪がられたり避けられたりもあるらしいが、自分の見方でいようとしてくれる人のこともわかる。
だから、セシル兄さまはいつも明るい。
ちなみに、俺はそれを知った瞬間に干渉を遮断したので、不審がられているとは思うがぎりセーフである。
「私はあなたの謝罪を受け入れましょう。ですが、ブラックフォード男爵。あなたにはこの後聞きたいことがあるので、リズ嬢には少し席を立っていただきます。」
男爵は謝罪を受け入れると聞いてほっとしていたが、聞きたいことがあるといわれた途端に表情が変わった。
セシルはこの機を逃すかと魔眼をふる活用して情報を頭に叩き込んでいた。
きっと彼には見えているのだろう。この男の思うすべてが。
リズは別室で待機。男爵、俺、セシルはそのまま残った。
俺が聞きたかったのは、言うまでもなく事の真相についてである。
セシルが、確信を持った表情で男爵に問う。
「失礼ですが、この件は先ほどの謝罪...それも子供のものでは済まないほどのものでしょう?」
セシルの能力は公にはされていないため、男爵はきょとんとした表情で対応する。
「王子。この件は所詮子供のじゃれ合い。まさか、その程度のものに文を提出し、謝罪文を書けというのですか?それとも、地に額をつけ、心行くまで謝罪を述べろというのでしょうか。」
どうやら男爵は子供のじゃれ合いでことを始末するつもりらしい。
(こいつなめてるな?ま、俺が万能で天才ってことを知らなかったからこそのミスだな。)
「男爵。あなたは私たち王族の血。そして呪いを舐めている。あなたは我々の呪いをもっと警戒するべきだった。」
王家の呪い。
それは、王家の血を継ぐ者だけが引き継ぐ、唯一無二の存在。
〃王家の者は、民を守ることを放棄せず、正面から向き合うこと。命を落としてでも、自身を支える者を守り抜け〃
これは、王家に伝わる伝説。
昔、この国を興した王は、国民から慕われ、また王も国民を愛していた。
国民は増え、国の規模も拡大し、富は滝のように流れてきた。
王は富に溺れ、女、ギャンブル、酒に尽くす日々を送るようになってしまった。
そんなとき、国を魔物が襲った。
当時、魔物と人間の暮らす場所は完全に隔たれており、子供たちは魔物の存在を知らずに育った。しかし、それを越えて国を襲った魔物は強大で、国民は逃げることしかできなかった。
そんなとき、王は酒瓶を割り、自ら立ち上がった。しかし魔法を使う敵相手にまだ魔法の普及していない国はなすすべもなかった。
王は神と取引し、後に王家の呪いと呼ばれる呪いと引き換えに、強力な力を手に入れ、魔物を撃退した。
かなり省略しているが、大まかな内容としてはこれだ。
この伝説で王家にかけられた呪いは、民を守ること。それを破ると、力が暴走し、死に至る。
判断基準は、守れる状況であったか否か。
守れる状況で守ることをためらったならば、それは死を意味する。
神は寛大なようで、守ろうとした意思を感じれば許してくれるようだ。
まあそんなわけで、俺含め王族は普通ではありえないほどの力を持つ。
「私の能力は、貴方の首から上を消滅させることができます。何の証拠も残さず、そして苦痛を味わうことなく。」
俺の能力は虚無。全てを虚無に還し、存在を消滅させる。
男爵は、少し驚いたようだが、すぐにポーカーフェイスを保ち始めた。
「男爵。この資料を見てください。これは、貴方のお屋敷で働いているとある侍女のお話です。彼女はいつも、男爵の部屋からリズ様の泣き声を聞き、心を痛めていたそうです。また、とある地下牢のごはん係の男性のお話では、たまに一人分多くご飯を用意することがあるそうなのです。心当たりはありますか?」
「いえ。まったく御座いません。そのようなことがあったことも知りませんでした。こんど執事に確認を・・・」
つらつらと嘘を流す男爵に、かすかな呆れを覚える。
できれば大事になる前に自白させたかったが、それは無理そうだ。
「失礼ですが、王族はリズの粗相を私の責任だとおっしゃるのですか?それも、確固たる証拠もないというのに。」
「ありますよ。」
俺はにやりと不敵な笑みを浮かべて言う。
「ありますよ。確固たる証拠がね。」