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3 訓練と誕生日

「そう。ここは、もう少し軽くていい。足は肩幅に広げてバランスをとれ。」

 翌日から、俺はセイアッド・ソードの見守る中、中庭でユウリに剣を習っていた。

 どうやら前世とは違う剣の型が主流らしく、それがなかなか興味深い。

 ユウリもかなり心を開いてきたらしく、以前のような態度は見られなくなった。

「こうですか?」

「そうそう、ソメイユはうまいな。だが、まだまだ俺には及ばなさそうだ。」

 

 すると、中庭に面した棟の中から声が聞こえた。

「おーい、ソメイユ、ユウリ―!団欒室で父上と母上が呼んでるぞー!」

 俺たちを呼ぶのはセシルだ。

「わかりました、兄さま。すぐ行きます!」

 訓練を切り上げ、ユウリとは別で支度をする。

 仮にも王妃と王に会うのだから、ある程度の身支度は必要だ。

 急いで部屋に戻り、侍女たちの手を借りてドレスに着替える。

 走ることは許されないので、早歩きで団欒室へ向かう。


「失礼します。ソメイユです。」

 団欒室には、すでにユウリやセシルが到着していて、両親にジークもいた。

 いつもは開かれているカーテンが閉じられていて、妙な圧迫感があった。

「席につきなさい。」

 席に着く過程で、みんなの席の後ろにおそらくプレゼント箱とみられるものの山脈が見えた気がしたが、これは反応しないほうが無難だろう。

 心なしかみんな目が泳いでいるように見えた。

(これは確信犯だな。)

 確か、俺の6歳の誕生日が近かったのできっとそれだろう。

「で、何の御用ですか?」

「「「「「ぎくっっ!!!!!」」」」」

 俺は目を細め、母様に習った相手を探るときの眼をする

 するとなんということでしょう。みんなお互いに視線で会話を始めたではありませんか。

 会話の内容は手に取るようにわかる。

「ねえねえ、どうする?いっちゃう?もうソメイユわかってるよね。

えー、でももうちょっとじらしたーい。それは聡明なソメイユにとって逆効果です。」

 俺が解説がてら言ってみると、家族たちはぎょっとした表情で俺に注目した。

(はあー。この家族、ほんとに王族でいいのか?単純すぎるぞ。)

 すると、ついに父様が口を開いた。

「みんな、せーので言うんだぞ?」

 まさか...

「せーの!」

「「「「「ソメイユ、誕生日おめでとー!」」」」」

 それと同時に、使用人たちの手元から紙吹雪が舞い、カーテンが開かれる。

 カーテンの外には花火が上がり、昼間ながらも空で大きな存在感を放っている。

 団欒室は王宮の広間に面した3階にあり周りがよく見える。広間にはイベント会場とみられるものが設置されており、貴族などの多くの人々が集まっていた。


「ソメイユ。俺たちからのプレゼントだ。」

 各々が自身の持ち寄ったプレゼントを誇示し、俺に差し出す。

 俺は、この家族で迎えられた俺の6回目の誕生日を、とてもうれしく、これからも忘れることは無いだろうと思った。

 

「はい、ソメイユ。これが私の用意したプレゼントよ。受け取ってくれる?」

「はい、ありがとうございます。お母様!」

 母様からのプレゼントは、大きな宝石の埋め込まれたネックレス、ブレスレット、ピアスの三点セットだった。

 俺の好みを知っているのか、とてもシンプルなデザインで俺でもつけやすそうだ。


「ソメイユ、俺からはこれをやろう。」

「ありがとうございます!セイアッドも喜びます。」

 妙に大きな箱の中身は、エンチャントされた剣の鞘だった。

(この大きさなら、元の大きさのセイアッド・ソードでも入りそうだな。父様は、セイアッド・ソードがいつもそのままの状態でいることを気にしてくれていたのか。)

 普通の鞘ではセイアッドの刃に触れるだけでバラバラになってしまうので、エンチャント付きの鞘であればいけるのかもしれない。


 シリルからは軽くて丈夫な防具を。ユウリからは魔法使いの杖を。ジーンからは髪飾りを送られた。

 すべて売ったらいくらになるのかと考えていると、自然と口角が上がってくる。

「そしてこれは、家族みんなからだ。」

 代表して父様が俺に何かを手渡す。

「何ですか、これは?」

「あけてみなさい。」

 真っ白の小さな箱を、少しずつ丁寧に開けていく。

 中には、真っ白でオパールの取り付けられたティアラがあった。

「これは…」

「王家の証のものだ。王家では代々、オパールのついたものを身に着けることで、魔のものから身を守っているという伝承がある。これでお前も王家の一員だ。」

 皆それを示すかのように各々が自身のオパールを掲げていた。


 この時、俺は正式に王家の人間となり、それと同時に呪われ人となった。



「それでは、ソメイユの6度目の誕生日と、王家の一員となったことそして月の神セレーネの加護を受けたことを祝い、カンパーイ!!!」

「「「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」」

 

 俺は今、広場で行われているパーティに出席している。

 まだ6歳という理由で父の膝の上でいることはとても恥ずかしいが、その分周りがよく見える。

「ソメイユ、ほら。」

 ユウリ兄さまが俺の正面を指さすと、そこには俺への贈り物と見られるものを手に持った貴族たちの列ができていた。

(これ、全部対応しないといけないのか...?)

 そう考えると、どんどん気が遠くなっていく。

「ソメイユ、そんなに重く考えなくていい。気軽でいなさい。」

「ありがとうございます、父様。」

 その後、俺は貴族らの相手をこなした後、やっとご馳走にありつくことができた。


(うま!このケーキ、甘くてしゅわしゅわだ。)

 バイキング形式で料理を取り、円卓で友人や知り合いと食事を楽しむスタイルのものだが、今はまだみんな知り合いという知り合いがいないのか、親の紹介が多い様に見える。

 俺の場合、親の紹介という概念がないので気楽に一人で一つの円卓を占領している。

 すると、王族だからか周りに令嬢やら令息やらが群がってきた。

 ある程度予想で来ていた展開だが、一人で円卓を占領しているところで来られるのは少し恥ずかしい。

「姫殿下、お隣失礼してもよろしいでしょうか。」

 最初に一人、侯爵家の令嬢が俺の隣にすわった。

「姫様、俺もお隣よろしいでしょうか。」

 その次に、伯爵家の令息が逆隣りに座った。

 その後も続々と増えていき、俺の占領していた5人席はすべて埋まり、俺は突然にも窮屈さで死にそうになっていた。

(ヤバイ、さっきまでの解放感とのギャップで苦しい...!!)

 

「姫殿下。私はリージェ・レデラードと申します。どうかお見知りおきください。」

 ふんわりとした雰囲気をまとったその少女は、最初に声をかけてきた侯爵令嬢だ。

 確か儀式のときに俺ほどではないがそれなりに大きな痣を発現したとして父様が話しいてた。

 仲良くなっておいて損はない。将来お前の補佐になるかもしれないから、と。

(確かに、他の令嬢やらとは違い薄いレースの手袋をしているだけで、しっかり隠しているわけではないな。大方侯爵にでも言われたんだろう。)

 貴族たちは痣を隠すために手袋をすることが常識だ。痣は権力に直結する。貴族のマナーとして、それを隠すことは基本だ。

(まあ、大きな痣を見せびらかすってことは、札束の詰まったケースを見せつけるようなもんだからな。) 

 この場合は、多くの人が集まる場で痣を見せているため後継ぎとなる娘の力を周知させて政治を有利に進めようという思惑があるだろう。

 かく言う俺は、痣が大きすぎて隠しきれないため痣と同じ青の長手袋をつけてカモフラージュしている。

 俺が加護を受けたことは司祭が大声で叫びやがったので、多くの貴族らに知られているが、念のためだ。

(ま、最近攻撃系の魔法を使っていないから、うまく俺にたてついて攻撃してくる馬鹿を期待しているような気もしなくはないな。)

 それ以前に王族にたてつくということはすなわち死を意味するも同じ。よほどの馬鹿でもない限り、そんなことはあり得ないだろう。

 2人目の令息が挨拶をしている最中に、そいつは来た。


(うわ、コイツってたしか、ブラックフォード男爵家の一人娘 リズ・ブラックフォードだったっけ。儀式のときに足を引っかけてきやがったこと、ぜってー忘れねえ!!)

 リズは、ずかずかと俺の方に来ると、取り巻きから受け取ったドリンクを俺に差し出し、かけた。

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