2 儀式
会場に着くと、家族とは別行動となり、ついてきたのは護衛のメシスのみだ。
(まあ、おれについた時点でコイツの出番はないだろうな。)
今も、俺の腰には元のサイズに戻ったセイアッド・ソードが輝いている。俺の容姿とセイアッド・ソードの輝きが相まって、周囲の目を引いていた。
中は大きなドームのようになっていて、保護者席と子供席に分かれていた。
すでにほとんどの席は埋まっていて、皆俺を凝視している。
(え、なに。王族だから?おれを観察してるのかな。ならば、母様からの教授の成果みせてやろう!!)
ここ数年で、母様直々に マナーや貴族の勉強が始まった。
元男の俺にとって、最も不必要なことである。
だが、今の俺は姫。必然的に学ぶ運命というものなのだろう。
案内の神官(脳天が輝いてる)の後に続いて歩いていく。
歩幅と歩調は一定に、手は常に腹でそろえて。いつでも笑顔は絶やさずに。背筋は伸ばして。
すべてを完ぺきにマスターした俺には、もはや敵など存在しない。
その時、横から足が出てきた。
俺が歩いていたのは、座席と座席の間にある通路。横から足を出されれば、マナーで精一杯な俺はよけることも出来ずに・・・
「うおわ!?」
コケる寸前で、俺の体は宙にふわりと浮いた。
体はセイアッド・ソード特有の青い光を放っており、どうやらセイアッド・ソードが助けてくれたのだと察した。
(ありがとな、セイアッド!!んでもって、誰だ?俺に足を引っかけたのは。)
出された足は、どうやら金髪の女...ブラックフォード男爵家の一人娘 リズ・ブラックフォードのものだったようだ。
彼女は俺の視線に気づくと、顔を反らして足をひっこめた。
(ほんとうなら今とっちめてやりたいところだが、今回は人の眼が多い。個々は見逃してやる。)
代わりに思いっきり威圧しておいたので、しばらくはおとなしくしているだろう。
会場の眼は、全て俺に集中していた。
それも当然だ。王女が突然青い光を放って浮いたのだから。
(どうしよう、ほんとの事を言うわけにもいかないしな。)
うーんと悩んだ結果、おとなしく降下することにした。
(いや、何も思いつかなかったわけではないし?ただ、どうしようかなって考えたら、なんか...、ね?)
俺は自分のことを説得することも出来ないのか...。
「案内を続けてください。」
適当にはにかんでやると、戸惑っていた神官もおとなしく案内を続けていた。
メシスは何も言わず、ただ後ろについてくれていた。
案内されたのは、やけに目立つ金の椅子。
(父様が用意したのかな。純金だし。)
儀式は、席の順番...つまり位の高い人間から行われる。
初めに王である父様の挨拶があり、その後に俺から儀式が行われる。
父様が無駄を嫌う性格でよかったとつくづく思う。挨拶は短くすみ、一瞬で俺の番となった。
「ソメイユ・ドゥ・ガルゼジーク。」
名前を呼ばれると、舞台の上にあがり、水晶に手をかざす。
(おれに素質なんてあるのかな?武闘派だし。)
水晶は光り、碧い光を放っている。
その瞬間、俺の意識は何か別空間へ移動されたような感覚におそわれた。
〘グラディウス。あなたは、グラディウス?〙
久々に呼ばれた名だからか、一瞬反応が遅れた。俺の体は昔のなじみあるグラディウスの形をとっていて、ここがあの儀式会場でないことを悟るには十分だった。
「ああ。俺はグラディウスだ。」
〘やった、やっと、会えた。〙
なぜか顔を認識できない。
靄がかかっているようだった。
「おい、お前は・・・」
〘ごめん。時間がないの。でも、代わりに、加護を・・・!!〙
水晶は、碧い光をより一層強め、俺の手の甲に碧く大きい痣を刻みつけた。
(碧い痣...。そんな話、聞いていないんだが?)
すると、そばにいた司祭が痣を見て声を上げた。
「こ、これは…、月の神 セレーネの加護!?」
その声を聴いた会場は、一気に騒がしくなった。
ユウリ兄さまなど立ち上がって口を開けている。
「で、どういうことか説明してもらおうか。」
「そ、そんなに気迫のある顔で問い詰められましても...ソメイユ、困っちゃう!」
「ぶりっこしたって無駄だ!」
「ああ、我が子がかわいい...」
「ほんとに、天使だわ...」
「母上、父上!」
王宮に帰ると、父が「家族会議だ!」と言って家族全員を集めた。その中には、鍛錬が終わったばかりの長男セシルと、寝ていた三男ジーンも含まれているわけで。
長男と三男は俺の両腕に抱き着く形で座っていた。
長男は14歳で、最近騎士団の鍛錬に参加し始めた。三男は7歳で、まだまだお眠のようである。
(だらしねーな。)
そうは思いつつも甘えん坊の兄を少し可愛く思う俺であった。
「実のところ、俺にもはっきりとした理由は分からないんです。ただ、もしかしたらセイアッド・ソードとの契約も関係しているのかもしれません。」
「そもそも、なんでお前にセイアッド・ソードのような伝説の剣が付いてるんだ。つくべきは俺のような力ある剣士に......」
「お兄様。それは私の力量がセイアッド・ソードに見合っていないと言いたいのですか?
「ああ、そのとおりだ。よくわかってるじゃないか。」
むきーーー!!
英雄王グラディウスに、弱いという言葉を使うということは死を願うということだと習わなかったのか?
俺とユウリの間に火花が散る。
もちろん、俺は笑顔を絶やさない。マナーだからな。
「まあまあ、いったんそのくらいにしておけ。ユウリ、セイアッド・ソードは自我を持っているということを忘れたのか?今もソメイユが抑えていなければ、お前の首はないだろう。」
父様はよく周囲を見れている。
現に、俺は腰にかかっているセイアッド・ソードのために両腕を振りほどいて刀身を
撫で続けている。
「なっ......!!」
ユウリもそれに気づいたのか、何も言えない様子だ。
(たかが13のガキが、俺にたてついたのが運の尽きだな!)
そもそも、どうしてユウリは俺が加護とやらを手に入れたことに怒っているんだ?
「……体調がすぐれないので、もう失礼します。」
ユウリは、不貞腐れたように去っていった。
「きっと、ユウリはプライドが強いんだわ。だから、年下のソメイユに越されそうになって、焦ってしまっているのよ。」
「ああ。ユウリの儀式のときは、天才だとか、逸材だとかって褒められまくってな。それをあっけなく超えてしまうお前が、怖いんだろう。」
そうか、嫉妬か。確かに、嫉妬は人を殺してしまうほどの威力を持っているからな。
嫉妬で狂った人間を、俺は今までに何人も見てきた。
(だから、その分どうすればいいのかもわかってるんだな!)
「まあ、ユウリは去ってしまったが、この場を設けた理由はみんなでソメイユの誕生日を祝うためだ。今度王宮でパーティを開こうと…」
「ちょっとあなた、それは本人の前で言ったらいけないやつでしょ!?」
「あ、ほんとだ。」
(ほんとだ。じゃないわーい!!しっかりしてくれよ、父様!)
俺は、空気を読んで「では、俺は失礼しますね。」と言い、その場を離れた。
その後、俺は部屋にある魔法や剣についての本や道具を持ってユウリのもとを訪れた。
窓の外はもう暗く、満月だけが夜空を照らしている。
扉をノックすると、「誰だ。」と不機嫌そうな声が返ってきたので、「ソメイユです。」と言うと、警戒したように「何の用だ。」と返事が来た。
「実は、聡明なお兄様に聞きたいところがありまして。魔法学と、剣術についてなのですが...」
しばらく間を置いた後、「入れ。」と返事があった。
「失礼します。」
「さっさとしろ。言っておくが、俺は聡明だから教えてやるんだ。決して、頼られてうれしいだとか、そういうのではない。」
「ええ、分かっておりますよ、お兄様。」
ツンデレなのか、かわいい所もあるなと、微笑ましく感じる。
それからは、ユウリはぶつぶつ言いながらも丁寧におしえてくれた。
どれも俺はとおの昔に把握していたことだったが、ユウリの好感度は確実に上がっているはずだ。
「ありがとうございました。また頼りにしますね。」
頼りにしているは、男が言われてうれしいランキング上位5つには確実に入るであろう禁断の言葉だ。
現に、ユウリは部屋の外まで俺を見送ってくれた。