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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・人間の領地ガヴィメズ編

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悪魔の囁き

「あれ?ヒー君、こんな所で何をしてるの?」

 物陰から聞き覚えのある懐かしい声がして、可愛い少女が姿を見せた。

 僕の事をヒー君と言うのは1人しか居ない。

「……カスミくん?……いや、そんな訳があるはずない」

 そこに居たのは中学時代の恋人だ、でも姿が当時のままなのは何故だ。

「私ね、あなたの事が嫌いなんだ。だからここで死んでよ、私のためにさ」

 彼女はこんな事を言う子では無い、妖精が魔法で化けているんだろう。

 笑顔で短剣を握りしめて向かってくる。

 偽物だと分かっていても、恋人だった子を攻撃することは出来ない。

(今回の聖魔戦争は残念だけど、ここまでだな)

 死ぬわけじゃないし……僕はそっと目を閉じた、このまま刺されて終わりだ。


「そいつは偽物だ!騙されるな!」

 背後から大声で走ってきた男が僕の目の前でカスミくんを切り倒した。

 その男は雪村だった、シンも一緒だ。

「なんで?地上に帰ったんじゃないの?」

「幻妖斎の事が心配で後を追ってきたんだ、そうしたら殺されそうになってたから」

「危なかったわ。妖精って思い出から幻覚を見せる魔法を使えるのよ。気を付けてね、幻妖斎」

「偽物だって分かってた。でも恋人だった子を切り倒すのは……」

 言い淀んでいた僕の前で雪村が頭を下げて思いもよらない事を言った。

「すまなかった。ここでなら死んでも地上に戻るだけだ。俺を切ってくれ。でもこいつは許して欲しい」

 武器を捨て両手を広げているが、そんな事が出来るわけはない。


「倒したのは妖精だし仕方ないよ。偽物だって事は僕も分かってるしね」

 僕は雪村に背を向けて切り倒されたカスミくんに化けていた妖精の方を見た。

 倒された時点で居なくなるけど思い出すように……。

「それじゃ俺の事は斬り殺さないのか?」

「そうだね。悪魔だと分かってても大切な友達の姿をしてるから切れないよ」

 移動加速で背後に回り込み短刀をあてがうと諦めたようだ。

「クソ。恋人を友達に目の前で殺されて、その友達を憎しみで殺す。お前がもし許したら友達に殺されるってシナリオだったのに、いつ気が付いた」

 悪魔って性格も悪いのか?吐き気のする程くだらないシナリオだ。

「初めから気が付いてたよ。大切な仲間のために雪村とシンは帰るって言ってた。追いかけて来られる速さで移動してない」

 哲のために帰ると言っていたし、かなりの速さで移動したので移動加速魔法が使えない2人は追い付けるわけがない。

「それに……雪村もシンも僕の事は幻妖斎って呼ばないんだ。とりあえず、今すぐどこかに消えてくれ」

 妖精が化けているとは言っても雪村とシンに切り掛かりたくはない。

 シンの姿をした妖精はすぐ逃げて行ったが、僕の姿を観察した雪村の姿をした悪魔は囁くように小声で話しかけて来た。

「あんたグリア人じゃないな。その強さは特別な者か、それなら礼に良い事を教えてやるよ。神の世界の扉の事だ」

「妖精のあなたが神の世界の扉を知ってるんですか?また騙そうとしているんじゃ?」

「妖精が大昔は神の世界に居たのを知らないのか?神の世界の扉だが今は封印されていて鍵が無いと開かない」

 この話はシュバイツの所で学んでいる。

「大昔から上位妖精に伝わる歌を聞いたことがある、すべてを覚えていないのでゴミのような情報だが無いより良いだろう」

 そう言うと雪村の姿をした悪魔は歌を口ずさみだした。


『ラララララ~、封印されし命の宿で~、ララララララ~、ララララの強き意思持ち~、ララララで共鳴すれば~、ヴァルガの扉が開かれる~』

 

 ラララと言う場所にも言葉が入るが覚えて居ないと言っている、これは信じて良いだろう。

 上位妖精でも長く存在する者か、妖精王が知っている程度の歌らしい。

 この悪魔は上位妖精に仕えていたことがあって、耳にしたのを覚えていたようだ。

 光の風の上位妖精シルフなら知ってそうかな?と思ったがシルフは代替わりして間もないので知らないだろうと言われた。

 ヴァルガと言うのはシュバイツの所で最初に学んだ歴史で聞いた『神が消えた捨てられた神の世界』の名前だ。

 シュバイツは、ヴァルガと言う名前の意味を現在のグリアで知る人類は居ない、と断言していた。

 正直、歌の意味は良く分からないが忘れないようにメモしておこう。

 去り際に、これ以上は中央ラインに近寄ると悪魔の数が増えるため引き返した方が良いと忠告された。


 神の世界への扉については調べたが何の情報も無く、ウェイズとシュバイツは制約があり教えてくれない。

 僕を騙そうとした悪魔から希望を貰えるとは……運が良かった。

 本当はもっと正確に覚えていて欲しかったな、とは思ったが何かのきっかけになればいい。


 中央へ行くと数が増えると言ってたし中央付近へ移動して妖精を倒しに行こう。

 意を決して進んでいく、一気に妖精の数が増えて来た。

 休む間もなく襲い掛かって来る、逃げようとしても退路に大量の妖精が見えた。

 疲れは感じてないけど不死者の特性である超回復は機能していない。

 傷が貯まって動きが鈍くなる上に、痛みが軽減されているので回復が遅くなってしまう。

 見える範囲に居る妖精を倒して、状況を確認するために木陰から周囲を見回していた。


 バチーン


 魔法で胸を打ち抜かれている。

 この距離で気が付かれたのか?と思っていたが僕を狙っている妖精は居ない。

 遠くの方で争っている妖精の魔法が逸れて、偶然いた僕に直撃したようだ。

 まさか……こんな終わり方をするなんて……。


 気が付いたらセントスのヱーヴェの階段前に居た。

 倒せたのは200体位かな?

 あれだけ騒がしかったのに周りにほとんど誰も居ない。

 カトリーヌが泊っている宿は知っているのでそこへ迎えに行った。

 雪月花の3人も待っていてくれたようで哲も無事だ。

「遅かったですね、かなり心配してたんですよ」

「結構頑張ってたからさ。1日くらい過ぎたのかな?」

「妖精の世界と地上では時間経過の感覚が違うみたいなんだ、開始してから50日くらい過ぎてるぞ」

 雪村の話では彼らが戻ってきた時点で30日近く過ぎていたそうだ。

 カトリーヌは寂しいからあまり参加して欲しくないと言っている。

 僕が帰るためにもう少し必要と言って我慢してもらう事にしたが正確な理由を言えないのが辛い。

 雪村たちは僕の帰りを待っていてくれたようで、明日にでも出発するようだ。


「あ、そうだ。ラエルさんが会いたがっていましたよ。面会に行きましょう」

 イリジーンの娘のラエルは体調を崩して静養中だ。

 一度だけ面会に来たが楽器の演奏が上手くて驚かされた。

 療養所に着いて中に入るとカトリーヌが受付で話をしてラエルの部屋に通された。

「幻妖斎様、カトリーヌ様。お久しぶりです。おかげで病気も治り家に帰ることが出来るようになりました」

 部屋が綺麗に片付いているのは隊員だからか、ラエルは少し暗い顔をしているのは帰りたくないんだろうか?

「良かったですわ。お迎えはいつ来るんですか?」

「それが……来ないんです。仕事が忙しいから良くなったのなら自分で帰って来いって……父や兄らしいですけどね」

 ロイドは順番待ちが多いし、イリジーンも同じだろうから仕方が無いのかな。

「カトリーヌ、せっかくだし僕たちで送って行こうか。ミューマ大陸に入れば転移魔法ですぐ行けるし雪村たちも誘ってさ」

「そうですね。雪村さん達も居るなら安全ですし、ちょうど良いと思います。」

「マジアルに着いたらラエルさんの演奏を、また聞かせて欲しいな。宮殿の演奏者になったら簡単には聞けないだろうから」


 雪村たちにも聞いて貰いたいし、演奏をしている指の動きも凄いから多分驚くだろう。

 ラエルは何かを考えているようだ。

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