天使と悪魔の見分け方
階段を上って行くと転移魔法を使用した感覚に襲われ妖精界エッセンへと着いた。
目の前には神樹トニミマーナを模した誕生の樹がある。
妖精が沢山いるが襲っては来ない、ヱーヴェと言う結界内の妖精は属性が定まっておらず未成熟なのだそうだ。
約1年を結界内で過ごし光と闇どちらの神に仕えるかを決めて結界を出る。
この情報はもちろんピーフェに教えて貰った。
結界内は攻撃や魔法が無効化される安全な場所になっていて地面にある階段を下りると地上へ好きな時に戻れる。
再入場は出来ず、受けた傷も完治するが入場前にあった傷は治らない。
自分の参加している属性の妖精は襲ってこないが参加している人類は属性関係なく襲ってくる。
死なない、と言う決まりを利用して対人戦を行う者も少しだが居るようだ。
そう言えば1つ聞いてなかった事がある、聖魔戦争の終了って基準はなんなんだろう?
とりあえず今回は、光属性に所属して少しだけエッセンを見学してから悪魔を倒しに行こう。
闇の神を信仰する妖精の事なんだけど、悪魔って響きは僕も抵抗がある。
ピーフェも信仰を変えて今は闇の属性と言ってたから広い意味では悪魔なんだよな。
途中で信仰する属性を変えたレイスと呼ばれる妖精は聖魔戦争では戦わないと言ってたからピーフェと戦う事は無い。
誕生の樹の真ん中に空洞があり空洞を見るように立ち左が光、右が闇の領地だったな。
所属を決める方法は結界ヱーヴェを出た時の場所で決まるので左側の光属性の領地へ歩いて行く。
結界を出ると空気がピリついているのを感じた。
寒くないのに背筋に緊張が走り、一瞬で危険な場所だと直感的に理解する。
最も危険なのは結界を出た直後だと教えられている。
長方形の世界エッセンの北の端にあるが、光と闇の領地の中間点にある。
つまり双方の勢力の妖精の争いが激しく、対人戦を望む冒険者も多い場所だからだ。
天と地の短刀を腰に装備して準備しておく。
「光の風よ、集いて全てを防ぐ衣となれ」
僕の体が激しく光って風が激しく周りを覆う。
地上で使った時と桁が違う事は見た目で分かる。
(これが上位妖精の本当の力?)
少し歩くと対人戦を望む数名が襲い掛かってきたが風の衣に触れると体が切断されて消えた。
防御技と言いながら反撃の威力でこれか、消えた人が地上に戻ってるはず。
数時間ほど光の領地の奥の方へと歩いた。
妖精が近寄って来てお願いされた。
「ここから先はまだ戦場になっておらず天使の数が多くなります、風の衣は解除していただけませんか?巻き込む可能性が高くなります」
巻き込むとその妖精は攻撃して来るようになるから、それは困るので解除した。
「愚かな人間よ。無力さを呪って死ね!」
突然頭上から巨大な雷が落ちて来て直撃を受けてしまった……。
(普通に死亡程度の攻撃なんじゃないか?これで今回の参加は終わりか)
「どうしてあの魔法を受けて死なない!ほとんど無傷じゃないか」
軽い痛みはあるが怪我をしている個所はなさそうだ。
天と地の短刀の鞘がパチパチと音を立てて放電している。
僕が生きている事に驚いて動きが完全に止まっている。
素早く抜刀し妖精を切ると雷属性の魔法剣のような威力で一撃で倒せた。
完成した時にコデルが、納刀時に鞘が魔法攻撃を緩和すると言っていたな。
なぜ納刀時だけなのか疑問に思っていたが、受けた魔法を鞘を通してオリハルコンの刀身に移すのかな?
今の威力をほぼ無効化できるなら地上の魔物の魔法は問題ないだろう。
相手の魔法を使ってカウンターアタックも可能そうだけど、柄と鞘は壊れる可能性があると言っていた。
でも妖精に嘘をつかれるとは……。
戦場で言われるがまま解除した僕も悪いけど注意しないとな。
どっちの勢力の妖精かを見極める方法があれば良いんだけど、何かないんだろうか。
いつ終わるか分からないしのんびりしすぎてもダメだ。
闇の領地へ妖精を倒しに行く事にして、歩いて来た道を引き返していく。
結界ヱーヴェに近くなった時、雪村とシンが後ろから走ってきた。
「あれ?流幻、まだこんな所に居たのか」
「光の領地で妖精に襲われて、闇の領地へ行こうかと思って帰って来たんだけど……哲は?」
「倒されて消えた。地上に戻るだけと言っても悔しいぜ」
妖精に木の陰から不意打ちを受けてシンが狙われたのを哲が庇って倒された。
雪村とシンでなんとか襲ってきた妖精は倒したそうだが哲の安否を確認するために今回は帰るつもりのようだ。
僕も妖精に襲われたことを話した。
「妖精が不意打ちとかして来るなんて思わなかったぜ」
「天使と悪魔を見分ける方法があれば良いんだけど困るよね」
「え?流幻、もしかして知らないの?」
僕の言葉に雪村とシンが同時にそう言って教えてくれた。
「一部例外はあるが天使は髪が銀髪で悪魔は黒髪だ。パッと見てすぐわかるぞ。カトリーヌさんが居れば知ってたと思うけど、流幻が知らないとは思わなかった」
ちなみに例外と言うのは上位妖精の事らしい。
急ぎ足で結界の中に戻る、そこに居る妖精の髪は真っ白だが雪村とシンが理由は知らないと言っている。
僕は疲れない体なので、そのまま闇の領地に向かう。
雪村とシンは哲が心配で、すぐにでも帰りたいがいつものメモを取ってから帰るそうだ。
「初参加だから帰った後に記憶が曖昧になっても困るしな」
「哲の顔を見たら安心してメモどころじゃなくなりそうだしね」
2人は他の人の邪魔にならない場所へ移動してメモを開始した。
闇の領地へ入ったら体が気だるい感じに襲われた。
ラルドが言っていたが入ったばかりで、これだと奥に進むと大変そうだな。
風の衣を使用してみたが体の負荷は改善されないから我慢するしかなさそうだ。
妖精を1000体倒す必要があるので風の衣を解除して風の刃に変える。
カウントが大変そうだ、さっき1体倒したので後999体だけど数える余裕はないだろう。
チェインは条件を達成すれば強制で解除されるので問題ない。
移動しながら数体を倒したが、思ったよりも数が居ない。
道中で会った冒険者のパーティに教えて貰ったのは北部には数が少ないという事だ。
エッセンの中央ラインへ近づくと数は増えて行くが危険度が増すと言われた。
危険度は高くなっても数が多い中央部を目指した方が良いんじゃないか?
そう思って、中央部へルート変更をしてみる事にした。
確かに遭遇率は上がったが、どんどん危なくなっている。
単体の強さは変わらないのだが複数体を同時に相手する場面が増えてきている。
今の所は最大で3体を同時に戦った。
魔法を避けて攻撃しようとすると別の妖精が突進してくる。
豊富な魔力を身に纏い突っ込んでくるので当たると大怪我、下手をしたら死ぬ威力だ。
体への負荷も徐々に増してかなりの重さの錘を身につけて動いている感じだ。
それでも対応できているのはピーフェと居た時間が長く、妖精の動きを見ていたからだと思う。
動きを予測して最低限の動作で捌く、それが出来るのはフォーゲルや轟鬼、それに師匠との手合わせの経験だ。
闘志が沸いているのに心は冷静で戦えている……正確に数えてないが100体は倒したはずだ。
これなら何とか1000体倒せるのではないかという希望が出て来た。
カサカサ……木の影から物音がする。
妖精の不意打ちか?
僕はその方向へ注意を向けた。




