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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・人間の領地ガヴィメズ編

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聖女シンの神聖魔法

 翌日、アリエス院長に挨拶をして馬車の護衛で街を後にした。

 彼女から小さなお守りを貰った。

 ノーリム様のご加護がありますように、と言っていたので多分このエリアの賢者の名前だろう。

 

 暫く海沿いに街道が走っていて見晴らしも良い。

「この辺りってユベリーナと雰囲気が似てるね」

「アドリンスは落ち着いていて過ごしやすい街が多いそうですわ」

 僕とカトリーヌの会話を聞いていた雪村が教えてくれた。

「流幻ってユベリーナが最初の街だっけ?アドリンスは族長が会議に出ない領地だから発展が少し遅いんだよ」

「え?でもユベリーナもセイルーンの街も、のどかな感じだけど発展が遅い感じはしないよ」

「ユベリーナは近くに武神様の住居があるし、セイルーンは族長夫人のメグ様の出身地だからな。少し前から一気に発展した感じだよ」

「そう言えば昔、お父様と行ったイデ……何とかという街は街道も無くて建物が古い物ばかりでしたわ」

「イデクーンの街か、アドリンスの最も西にある街だな。まともな街道が整備されたのも数年前じゃなかったか」

 首都から離れていると整備も後回しになるんだろう。

 

「ちょっと来い雪村!街道を進んだ先に魔物の影が見える」

 走って先頭で警備をしている哲の元に向かうと確かに大きめの影が見えた。

 ピーフェが確認するとコカトリスが9体いると言っている。

「ちょっとマズいな、俺たち3人でも相手できるのは2体が限度だぞ」

 2体相手に出来るのか、出会った時は1体だったけどかなり強くなったんだな。

「それならお前らで1体、俺っちが1体、幻妖斎が7体でちょうど割り切れるな。カトリーヌは馬車の護衛だ」

 真面目な顔でピーフェが言っている、割り算が滅茶苦茶すぎるが7体なら問題ないだろう。

「お前が先行して1体ずつ時間差をつけて2体をこっちに誘導できるか?と言うか無理でもやれ」

 2体を雪村たちとピーフェの所へ誘導すれば良いんだろうけど、魔物の動きって制御できるのかな。


 新しいオリハルコンの短刀を構えて、瞬間移動でコカトリスの手前に移動する。

 足を付いて無くても目視できる半径100メートル以内なら移動は可能だ。

 ただ、距離が長くなると誤差が生じる可能性もあるので注意が必要になる。

 気が付いたコカトリスが纏まって襲い掛かってきた、1体だけを衝撃魔法で雪村の方に吹き飛ばす。

 

 哲が攻撃を開始してターゲットを自分にがっちり固定している。

 以前見た時と違って雪村にターゲットが向かない。

 シンは何かを詠唱しているが、聖女であるシンは確か攻撃魔法が使えないはず。

 次の瞬間、コカトリスの下に光が現れて爆発した……王冠のように見え綺麗で見惚れてしまった。

 ちょっと待て、哲と雪村も巻き込まれたんじゃないか?


「あいつらの事は心配しなくて良い。1体を俺っちの方に流せ」

 攻撃を受け流した反動で1体を後方に飛ばした。

(ピーフェの力なら全く問題ないだろう、雪村たちが心配だ。一気に片付ける!)

「光の風よ、集いて全てを切り裂く刃となれ」

 手に持っている短刀に光る風が集まって吸い込まれていった。

 妖精の力とも親和性が高いようで天と地の短刀が薄く発光している。

 コカトリスが直線上に5体いたので(閃)で一気に切り倒した。

 横方向に居る2体をスパパッと攻撃する。

 オリハルコンと風の刃の力で硬いコカトリスの皮を抵抗もなく切ることが出来た。


 瞬間移動でシンの元に移動するとピーフェがコカトリスを炎魔法で丸焼きにし終わったところだ。

 巻き込まれた2人を心配する僕にシンが優しい言葉で言う。

「あれは神聖魔法『ホーリークラウン』と言う魔法よ、2人なら大丈夫」

 哲と雪村が戻ってきたが怪我をしていない。

 食事の肉確保だぜ、と浮かれながらピーフェがこちらへ飛んできた。

「アレって聖女が訓練して習得できる魔法だろ?その若さで凄いなお前」

「前の厄災の終わった後、マーサ様にお願いして修行したの」

 シンが言うには神聖魔法で魔物を攻撃できることは知っていたが、哲と雪村が居るから必要ないと思っていた。

 厄災の際に乱戦となり逃げ遅れていた子供が襲われていたが魔物を倒せなかったと言うのだ。

 魔物は別の冒険者に倒され子供は無事だったが攻撃が出来ない自分の無力さを痛感してしまったようだ。


「私ね、人を守るために聖女は攻撃の必要はないと思っていたの。でも違った。私が真面目に神聖魔法を学んでいたら、あの子をもっと早く助けられたのにね」

 聖女という地位で四肢欠損まで治せるのだから、それだけで十分すぎる力だと思うとシンに伝えた。

「あの時気が付いたの、自分の心が傷つきたくないから魔法を覚えないんだって」

 シンは魔物とは言え傷つけることは好きじゃ無いようだ、もちろん討伐自体の必要性は感じている。

 哲と結婚した後に雪村とパーティを組んだ時も2人を守りたいと参加した。

 聖女は回復に特化しているため神聖魔法以外の攻撃魔法が一切使用できないという制約もあるそうだし仕方ない気もする。

 ただ彼女は厄災の時の体験で『神聖魔法が使える資格もあるのに覚えないのは自分の身勝手』と痛感したようだ。


「そんな事があって厄災の後に俺たち3人で頼みこんでエルフの宮殿で神聖魔法を学んだんだよな」

「魔法はエルフに学ぶのが良いけど、ちょっと変だったよな……対応が……なぁ?」

 哲と雪村が言った後にシンが少し説明してくれた。

 聖女と言うのは各種族の族長が任命する5名しか居ない、そのため他種族のエリアでの活動には制限があるようだ。

 緊急の時、エリア内に聖女が居ないと言うのは確かに困るから制限されても仕方ないのかなと思った。

 エルフの宮殿で神聖魔法を学ぶにあたって、人間の族長であるテイルの許可が必要という事で断られるだろうと思いながらマーサが連絡をしたそうだ。

「花矢シンは我がエリアの聖女であるが異世界人なので他エリアでの活動に制約はかけていない、回診の儀の任務だけは忘れないように言っておいてくれ」

 テイルからの返事はそれだけで簡単に許可されたようだ。

 

 許可も下りて、マーサの紹介もあり宮殿で学べるようになったのだが。対応が変と感じたのは教官の態度と言う。

「神聖魔法を教えても無意味と思うのですが……学んでみますか?多分使えないと思いますよ」

 3人揃っている前でそう言われたので、他種族には教えたくないんだろうと思っていたそうだ。

 訓練が始まると、その不安とは正反対の厳しいながらも真摯で誠実な訓練をしてもらい無事に習得できた。

「まさか本当に使えるようになるとは思いませんでした」

 訓練終了時に教官から、そう言われたと言うが聖女だから神聖魔法を使える可能性は高いので変だと感じたようだ。

 

「なー、お前本当に異世界から来たのか?」

 ピーフェが突然シンに聞いた。

「花矢シンなんてグリアの名前じゃないだろ、孤児だとか異世界人だとか嘘をつく必要もない。ピーフェ様は疑ってるんですか?」

 雪村がちょっとムスッとした感じで言い放った。

「異世界から来た人間が聖女になった事例は過去にもあるが、誰も神聖魔法を使用できなかった。異世界人には神聖魔法が使えないってのが魔法を学ぶ者の常識になってんだ」

「前に流幻には言ったけど、私は元の世界の記憶が無いんです。着ていた服からの推測です」

「そっか、悪い事を聞いたな。エルフの教官が『教えても無意味』って言ったのは、そう言う理由があるからで種族差別じゃないからな」

 本当はもう少し学びたかったが、回診の儀があるため2つしか覚えられていないそうだ。

 ホーリークラウンとディバインシールドと言うらしいが高位の神聖魔法のようでピーフェが驚いていた。

「シンに才能があったって事だろ。俺たちは元の世界に戻る気は無いし何処の世界の人間でも問題ないさ。魔物倒したから護衛に戻るぞ」


 倒したコカトリスをマリスのポーチに収納して馬車に戻る。

 食事に時間なので休憩と食事をしたが丸焼きにしたコカトリスは誰も欲しがらなかった。

 コカトリスの肉は高級らしいんだけど味付け無しの丸焼きは……。

 ピーフェが美味しそうに1人で食べていた。

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