孤児院の院長先生
「流幻ってこの後は予定とかってある?俺たち久しぶりに明日セイルーンへ戻るんだけど一緒にどうだ。その後は首都に宴の報告に向かう」
小人領に行きたいけど、3人の育った街も気になるし式や宴で気が張っていたので気分転換にいいかもしれない。
「カトリーヌに聞いてからで良い?結婚式って初めてだから、この後に何か予定があるかが分からないんだ」
3人が言うには普通はこれで終わりだけど族長家の結婚は分からないので了解してもらい、同行するなら明日宮殿前で待ってると言われた。
宮殿に戻ってカトリーヌとピーフェと合流してセイルーン行きの話をした。
結婚式などは全て終わって、出発はいつでも大丈夫なようで安心した。
「セイルーンってかなり田舎だし距離もあるぜ?馬車でも移動だけで1か月以上はかかるけど大丈夫か?」
「雪村さん達は招待の来賓ですから帰還魔法を宮殿から頼めると思いますわ」
帰還魔法と言うのは転移魔法の一種で、出生の街に移動できる魔法で異世界人の場合は初めて訪れた街になるそうだ。
あまり実用性が無い魔法と言われているそうで、転移魔法より発動に時間が掛かり魔力消費も大きくかなりの高位魔道士しか使えないと言うのが理由らしい。
ノックがあってジュリアが入ってきた。
警備についたお礼を言いに来てくれたようで僕たちが明日出発する事を告げると冒険者の彼女は何となく分かっていたようだ。
確認したい事があるので質問してみる。
「カトリーヌとの結婚って確か後1年は出来ないんですよね?」
「そうね。その間に心を決めておいて欲しいわ」
「出来るようになったらすぐにでも正式に結婚したいと思っています、式はこの街でしたいのですが可能でしょうか?」
「それは問題ないけど、あなたの生まれた街で……あっ、異世界の人間でしたね。分かりました、娘をよろしくお願いします」
真面目な顔になってそう告げた後は笑顔になって部屋を出て行った。
ピーフェに『もう結婚してるようなもんだろう』と茶化されたが、その辺りはシッカリしておかないと皆に悪いしね。
僕たちは雪村たちと同行してセイルーンの街に来た。
海が見える漁業の街と言う感じの田舎という風情を醸し出している。
案内された孤児院の建物は古く年期が入っているが汚くは無い。
多くの子供たちの声が聞こえて元気そうに遊んでいる中に50歳くらいの大人の女性が居た。
「院長先生、お久しぶりです。お元気そうで安心しました」
雪村が僕たちを紹介してくれたが丁寧な言葉で話しているのは違和感がある。
院長はアリエスと言う中年の女性だった、孤児院の院長と言うから老婆を想像していたので思ったより若い。
片腕が無いのは聞いていたが、シンの力で治せないのだろうか?という疑問があったがピーフェとアリエスの会話で理由が分かった。
「院長、あんたのその傷は厄災の時に受けたな?傷に瘴気が纏わりついてるから普通じゃ治癒できないだろ」
厄災時の魔物から受けた傷には瘴気が付与され時間が経ち過ぎると治療できなくなるそうで田舎町という事もあり治療できなかったそうだ。
「それに瘴気の傷は時が過ぎても、かなり痛むはずだ。孤児院で子供の相手を出来てること自体が信じられないぞ」
「フフフ、痛みがあるのは私がまだ生きているから。この痛みをこの子達が受けないように守りたいだけなの」
「俺っちがお前の望みを叶えるとしたら、痛みを無くすことを望むか?」
「願いが叶うならそんな事ではなく、私の意思を継いだ人が現れてこの孤児院がいつまでも存続する事を望みます」
「孤児が居なくなるという事は願わないのか?」
「妖精様、人間は命があるからいつかは死ぬの。死がある限り孤児は無くならない。それならその子が幸せになる素地となる場所を作りたいのです」
「お前自身の幸せを犠牲にしてか?」
「幸せは自分で掴むものと思います。私は幸せをもう掴んでいますよ、子供たちの笑顔が毎日見えるんですもの」
「妖精に人の心は操れないからな。後継者は自分で探せ。俺っちの出来る事はこれだけだ」
矢継ぎ早に会話を交わした後、ピーフェの体が眩しい光を放ってアリエスを包み込んだ。
「回復魔法は得意じゃねーから疲れちまったぜ。ちょっと寝るから起こすなよ」
僕のコートの中へと隠れるように入って行った。
アリエスを包んでいた光が消えると腕が再生している。
「腕が……これでまた子供たちを両手で抱きしめることが出来るわ」
再生した腕を見つめて涙を流しながらも笑顔で呟いている。
「お客様に院内の見学でもしてもらって、用事が終わったらすぐ行くから」
そう言って子供たちの方へ走って行った。
案内されて中を見ていると掃除をしている子が居た、当番制だと教えて貰った。
雪村たちが言うには、学校生活みたいで嫌な事もあるけど楽しいらしい。
職員が院長を入れて3人で優しいが、悪い事をするとすごく怒られるようだ。
院長室で待っているとすぐに彼女はやってきた。
「院長先生これを……」
哲がそう言って幾つかの袋を取り出した。
中身は筆記用具や日用品と金貨で結構な枚数がある。
「いつも助かるんだけど、こんなに渡して貴方たちの生活は大丈夫なの?」
「大丈夫です、きちんと蓄えもあります。こう見えても俺たち結構有名なんですよ」
「異世界人の私たちが生きて幸せにいられるのも先生に拾って貰えたからです。せめてこれ位の恩返しはさせてください」
院長にこの街の事や雪村たちの昔の話を聞いたりして時間が過ぎて行く。
「ゆっくりしたいんですが明日首都に向けて出発します、ルルド様に無理を言って参加した宴の報告がありますので」
院長も、それが良いわと同調している。
ルルドって誰なんだろう?雪村の言い方だとかなりお偉いさんだなと言うのは分かる。
孤児院に泊まっても良いと言われたが、門限があるため3人が街の人に挨拶をしたいと言うので宿に泊まる事にした。
帰り際に、妖精様に感謝をと言っていたがピーフェは顔を見せなかったが聞こえているだろう。
この街で育っているので顔見知りが多く社交的な雪村は人気者のようだ。
宿についてルルドと言う人について質問したが、ゼルディア大陸側の人間の族長だった。
スピリエの披露の宴には別の人が参加予定だった。
ミューマ大陸側の使者が聖女であるシンになったため、哲が自分たちを遣わして欲しいと頼み込んだそうだ。
ルルドの妻のメグがセイルーン孤児院の出身な事もあって彼女の協力もあったから助かったと言っている。
僕たちを誘った理由と言うのがセイルーンを見せたいという事と族長のルルドに会わせたいと言う理由もあったらしい。
人間の族長には会っていて雪村たちも知っているのだが、こちら側の人間エリアも族長と言う肩書なので面会して欲しいという事だ。
武神の弟子……つまり僕が族長に面会を望んでいるのは、そこそこ知れ渡っていて来ているそう。
ゼルディア大陸側の人間領アドリンスには、まだ来ていないと言うのも噂になっていると教えて貰った。
「ルルド様は気にしていないと思うけど、武神の弟子が族長として認めていないという噂を耳にしてしまったんだ」
そこまで気にしていなかったけど、確かにそう思われても仕方がない。
帰還に承諾が必要ないと言っても族長だ、セントスでフォーゲルにも会ってるのでアドリンスだけ来ないと言うのは失礼だ。
雪村たちに族長への面会が出来るように取り計らって貰う事にした。
首都ルビエーンはセイルーンの街から近いようで馬車で数日で到着できる。
ギルドから馬車の護衛依頼を受けて来ていたようで僕とカトリーヌも護衛で行くことにした。




