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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・人間の領地ガヴィメズ編

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披露の宴

「披露の宴と言うのはですね――」

 カトリーヌが説明してくれたのは規模は大きいが大体思っていた内容だ。

 広場に設営された舞台にスピリエとセリアージュが座り祝賀を受ける。

 会話をしても問題ないのだけど主役の2人は席を立ってはいけないと言う決まりだけがあるようだ。

 親族の参加は自由だが基本的には参加しない。

 種族関係なく参加可能らしいが他種族の友人が居るのは珍しいので同種族がほとんどだと言う。

 スピリエの場合は次期族長なので他種族からも祝いに来るはずという事だ。

 ただ、他種族の族長が来ることは無い。

 参加自体は問題ないが、新郎新婦が立ち上がって挨拶できないと言う決まりがあるため暗黙の約束になっている。


「族長が来て座ったままってのも決まりとは言え非礼になるんだろうね」

 僕がそう告げると違う理由だった。

「族長も決まりを知っているので非礼にはならないんです。でもあの種族は族長が来たのに、この種族の族長は来なかったって言う揉め事を無くすためだと聞いてますわ」

 あぁ、参加する人の役職で揉める事もあるのか、お祝いの場で政略的な事は控えるって言う配慮だろう。

「親族は基本的に参加しないって事だけどスピリエは『よろしく』って言ってたよね?まだ婚約段階だからって事かな?」

「え?お聞きになってないんですか?警備をお願いしたいそうですわ」

 警備と言っても見回り程度だと言うから問題ないが聞いていなかった。



 数日後、会場の準備も終わり明日はいよいよ本番だ。

 スピリエが警備の依頼をしていなかった事を謝罪に来ている。

「家族は参加しなくても良いんだけどさ、幻妖斎が居たら安心できるから頼めないかな?」

 拒否する気も無いので快諾した、家族と言われてちょっと嬉しくなったのは内緒にしておく。

 ドタバタと慌てて走る足音が聞こえて轟鬼が入ってきた、スピリエを探しているようだ。

「スピリエ、お前明日は絶対立つなよ!」

「俺だってそこまでバカじゃないから決まり位は守るよ。叔父さん心配し過ぎだぞ」

 決まりと言っても立たないだけだし、疲れなくて良いと思うので流石に心配し過ぎだろう。

「お前の結婚を知らせに行った時、冗談で参加をするかと聞いたんだが……ジジィが来るからな……」

 ジジィって師匠のことだよね、轟鬼の甥の祝いだし報告されたら出席するのは普通なんじゃないかな?

 そう思っていたが、立ち上がれないと言う決まりが問題なようで失礼すぎるのではないかと心配している。

 面識はほとんど無いそうで、何度か挨拶をした程度のようだ。

 師匠が披露の宴に参加したのは過去に一度しか無いらしい……。

 その話も眉唾物で、ギルド職員の小さな家での宴にあの礼装を身に着け『恩人の祝いに来た』と言って入ってきたとの噂レベルの話だ。

 そんなの本人に聞けば分かるんじゃ?と思ったが誰の宴に参加したかを聞くのは失礼な事のようで轟鬼すら聞いてないと言う。

「僕と師匠は異世界の同じ国の出身ですが、友人などから祝い事に誘われれば参加します。それに誘われて喜んでいると思いますよ」

 グリアでもそうじゃないのかな?

「師匠も決まりは知ってるでしょうし、立たないからと怒る性格じゃないのは轟鬼殿も分かってるんじゃないですか?」

「確かにそうだ……。そう言う事だ、スピリエ良かったな。武神の礼装は着て来ないように言ってあるから安心しろ」

 轟鬼は安心したのか悠然と立ち去って行ったが、今度はスピリエが慌てて駆け出していった。



 翌日は朝から街が騒がしい。

 広場に点在している屋台での飲食は無料だと言うので食べようとしたら行列で諦めた。

 スピリエの席の近くに厳重に警備された区画があり、その中には各種族の来賓が来ている。

 知らない人も居るが知った顔が混じっている、。

 エルフ族からはサリエ、人間からは雪村たち3人だがシンは東の大陸の使者、雪村と哲は西の大陸の使者として来ている。

 ドワーフ族は初めて見る人だが、ゾック・シモブクーレと言う副大臣で亡くなった大臣の息子という。

 領地へ行った事が無い小人族からも見た事が無い人で、エケット・ルオスと言う鉱石店の店主のようだ。

 サリエは高位神官でシンは聖女、雪村と哲は勇者パーティとしてかなり有名と聞いている、ドワーフのゾックは副大臣。

 小人から来てるのは鉱石店の店主だけど、もう少し偉い人が来ても良かったんじゃないかな?

 そう思っていたが、丁寧にあいさつをしていたサリエが僕を呼んだ。

「ご紹介します、こちらは流 幻妖斎殿。武神様のお弟子で、ある事情で各族長に面会を望んでいる者です」

「こちらはエケット・ルオス殿。ルオス鉱石店の店主で小人族においてその名を知らぬものは無いと言われる豪商です」

 僕を上から下まで品定めするかのように凝視されてしまった。

「なるほど、あのオリバーが全てを掛けて協力すると言っていたのはこいつか。族長への面会は取り付けてやる。首都オレエストルへ来たら声を掛けろ」

「ありがとうございます!でも良いんですか?僕の素性も分からないのに族長と面会させて貰っても」

「お前の評判は俺の耳にも届いている。サリエ様とオリバーの紹介や武神様の弟子という事を差し引いても信用して問題ないと判断した」

 エケットは言い終わると用意されている食事の方に向かって行った。

 それを見た雪村たちが近づいてきて羨ましがられた。

 西のオリバー・キュレリー、東のエケット・ルオスと言えば『商人界の双頭の龍』とまで言われる凄い人のようだ。

 

 スピリエとセリアージュが到着して宴が正式に開始を告げた、今回は2人の後ろにアルベール夫妻も居る。

 来賓から順に挨拶をしていく、僕は警備と言っても人の誘導や整理係と言う感じだ。

 誘導中に1人の小柄な青年に目が行った、年齢は30歳前後かな?着ている礼服は人間族の物だけど、この人どこかで見たような。

 人間が珍しい訳ではなく、優しそうな外見と違って見るからに強いのが分かる……確実に僕より強い。

 隣には可愛い子供が……あれ?シュバイツだ……という事はまさか。

 僕も若返ってるけど師匠って特別な不死者だから年齢を変えることが可能なんだよな。

 駆け寄って声を掛けると間違いなく師匠その人だった。

 

 話を聞くと、武神と言われる自分が来るとスピリエに迷惑が掛かるかも知れないが轟鬼の甥なので祝ってやりたい。

 それで若返って参加したが、特別な能力は隠して魔法で見た目を変えているという事としたいためシュバイツにお願いしたそうだ。

 2人をスピリエとセリアージュの前に案内すると師匠が話しかける。

「スピリエ殿、セリアージュ様、ご結婚おめでとうございます。2人の幸せを願っております」

「あれ?その子供って確か幻妖斎の魔法の先生だっけ?隣の兄ちゃんは誰だ?」

「えっと僕の師匠の疾風 流妖斎です」

「いやいや、武神様はもっと老け……お年を召している。祝いの場で冗談はよくないぞ」

「お前の結婚を祝いたいからと流妖斎に頼まれて我の魔法で見た目を変えている。すぐ帰るのだ、もう解いても良いだろう」

 次の瞬間、師匠の姿がいつもの見慣れた姿に戻ったがスピリエたちの前に居るのであまり気づかれていないようだ。

 その姿を見たアルベール夫妻は即座に立ち上がりお辞儀をする。

「息子達は立ち上がれない決まりなので座位のままでご容赦ください」

 族長夫妻が後ろに控えていたのはこの為だったのか。

 アルベール夫妻の態度でさすがに会場中が気が付いたようで少し騒ぎになりかけている。

「こちらこそ祝いの場を乱してしまい申し訳ありません。私はこれで失礼いたします」

 スピリエに対して深くお辞儀をしてシュバイツの転移魔法で帰って行った。

 

 轟鬼との関係は知れ渡っているので、師匠の参加は思ったほど問題にならなかった。

 披露の宴は無事に済んで解散になった。

 若い頃の姿を見ることが出来て僕も少し得をした気分になった。

 

 カトリーヌと相談して次は小人領を目指すことにしようと思っている。

 帰ろうとした時、雪村に声を掛けられた。

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