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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・人間の領地ガヴィメズ編

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スピリエの結婚

 背後から微かな殺気を感じた。

 振り返るとさっきの男が襲い掛かろうとしていたが僕の顔を見て一瞬止まった。

 ひったくり犯と言っても大怪我させるとこっちが罪になっても困るしな……。

 アゴをかすめるように叩き足払いをすると、その場に座り込んで動けなくなったようだ。

 騒ぎを聞きつけた警備隊が礼を言って犯人を連行していった。

 

 僕は何故か食堂の中で料理を食べてる、結構な繁盛店だ。

 お金に入った袋が重いので店内まで運んであげると、食事に誘われた。

 満席だし最初は断ったのだが、客が詰めて席を作って着席を促されてしまった。

 さらに老人がカトリーヌの婚約者と言ったものだから一層帰ることが出来ない雰囲気になる。

(スピリエの結婚祝いで盛り上がってるのもあるようだしな)

 アルコールを勧められるのかと思ったが、明日が式だとみんな知っているので逆にアルコールはダメと止められた。

 客の多さの理由は食事をして分かる、かなり美味しい。

 最も驚いたのはスピリエの子供の頃の評判だった、今もまだ子供だけど……。

 族長の息子という権力を振りかざして力も無いのに威張っていると言う評判、これはカトリーヌが教えてくれたので僕も知っている。

 弱い者を助けている心優しい子供と言う評判も同じか、それ以上に上がっていた。

 話を聞いて行くと、族長の息子と言う権威を使いイジメられてる子を助けていたようで、その助けた中の1人がセリアージュらしい。

 良い噂よりも悪いうわさの方が広がりやすいと言う典型的な話だな。

「ゴブリンキングを獣化して討伐後から人が変わったみたいに頼もしくなって驚いている」

 全員が口を揃えて言っている、今の評判はすこぶる良好のようだ。


 食堂を出たら日も暮れ出していて夕日が綺麗だ。

 宿へ近道の裏道を歩くと夕日が前から僕を照らし出す。

 少し立ち止まって、セントスから出発した後にカトリーヌとみた夕日を思い出していた。

 そんな時、耳に心地良い綺麗な鳴き声が聞こえた方向へ目を向けると小鳥が鳴いている。

 珍しい真っ赤な小鳥が居た、鳴き声だけでなく見た目も綺麗だ……そっと近づくと赤色の小鳥は建物の向こうへ飛んで逃げてしまった。

 小鳥が光って消えたように見えたのは真っ赤な夕日のせいかな……。


 宿の前につくとピーフェも丁度戻ってきたところのようだ。

「俺っち食事は宮殿で食べてきたぞ」

 何も聞いてないのに言われたという事は、かなり豪華な食事が出てお腹いっぱいなのだろう。

 僕も食べてきたと伝えたら、不意に変な事を聞かれた。

「なー。なんか変な魔法でも使ったか?強力な魔力の残滓が漂ってんだけどさ」

「え?今日は魔法使ってないから気のせいじゃない?それかライオネルクローに込めた魔法かな?」

 魔法と言うとそれだけしか思い浮かばないが、僕の魔法は魔力を使用しないので痕跡が残る事は無いと思うんだけど。

「まぁ、良いか」

 何か考え事をしていたが、突然そう言って宿に入って行ったので僕も一緒に部屋へと戻る。

 宮殿に呼ばれた理由は式に参加して欲しいと言うお願いと、食事量の確認だったようだ。

 明日の昼前に迎えが来るので宿で待機していて欲しいと言っていた。

 

 

 翌日、迎えが来て宮殿に入った。

 昼前と言っていた迎えが結構早めに来て慌ててしまった。

 前回泊まった客間に通されるとカトリーヌがちょっと変わった衣装を纏っていたが獣人の正式礼装らしい。

 僕の服も用意されていたが、人間族の礼服は地球での一般的な礼服と同じで安心した。

 ササっと着替えを済ませるとカトリーヌに、1人で礼装を着られるのを驚かれてしまったがグリアでは一般的では無いのだろうか?


「幻妖斎様、グリアの結婚式は初めてと思うので流れを説明しますね――」

 言われた内容は少し特殊だったが、どの種族でも同じでグリアでは普通と言う。

 この部屋を出たら一言も話してはならない、着席をすると食事が運ばれてくる。

 全員が食事を食べ終わると飲み物が運ばれてくるが、まだ飲んではならない。

 新郎新婦が入って来て結婚の報告をして退出する。

 退出確認後に飲み物を飲み干し、各自退席して部屋へ戻る。

 部屋に戻って来るまでは会話をしてはならない。


 無言で食事して戻って来るだけのようだから、これなら大丈夫だろう。

 声を出さない事と食事は完食する事と報告中はスピリエの方に顔だけを向ける事だけ念押しされた。

 ノックがあったので誰か来たのかなと思っていたら、カトリーヌが扉を1回だけ叩き返したのが合図のようだ。

「準備が整ったようですわ。部屋を出たら話せないですが私に着いてきてくださいね」

 扉を開けて外に出たが誰も居なかった、静まり返った廊下を二人で歩いて行く。

 ピーフェが居ないと思ったが妖精なので新郎の父のアルベールと行動しているそうだ。


 会場に入ると僕たちが最後のようで、見慣れた顔が並んでいる。

 キールとブレイブの横に女性が座っているが夫人だろう、確か轟鬼に孫が居るとか言ってたよな。

 セリアージュの家族が居ないのが気になるが声を出せないので聞けないし、そう言う決まりかも知れない。

 最後の僕たちが着席すると料理が運ばれてきたが量は控えめなのは完食する必要があるからだろう。

 緊張で料理の味が分からないのでは?という心配が必要なかったほど美味しくて、もっと食べたい位だった。

 飲み物が運ばれてきて、スピリエとセリアージュが入ってきて話し始めた。

「俺はセリアージュと結婚した事をここに報告します」

 それだけ言った出て行った後、参加者は飲み物を飲んで全員出て行った。

 開始前の緊張は何だったのかと言う位、普通に終わった。

 部屋に戻るとピーフェも居たのでこれで式が終わりなのだと実感していた。

「あ、結婚した二人が挨拶に来るので少し待って下さいね」

 

 テーブルにお茶が用意されているので飲みながら待つ。

「そう言えば、ピーフェってスピリエの事を嫌ってなかった?式の参加よく了解したね」

「断るつもりだったんだけどさ、あそこまで礼儀正しく頼まれたら断れないよ。久しぶりに会ったら別人かと思ったぜ」

 そんな話をしていると、スピリエとセリアージュが入ってきて一通りの参加の礼を言われた。

「幻妖斎様、今日のお料理はいかがでしたか?」

「え?美味しかったよ。宮殿の料理人は腕が良いんだろうね、もっと食べたい位だったもん」

 カトリーヌが突然聞いて来たので答えたがセリアージュの表情がにこやかになったのが見えた。

 それもそのはず、今回の料理は彼女が作ったそうだ。


 セリアージュの父は彼女が幼い頃に事故で他界、母のセリカが宮殿の調理をして稼いで育てたそうだ。

 族長夫人のオリビアが結婚前に料理上手なセリカから料理を教わっていて、互いの子供が同じ年という事でさらに進行が深まった。

 父が他界後にその腕を認められ宮殿に就職した、もちろんオリビアの強い後押しがあったのは周りも知っている事だと言う。

 そのセリカも数年前に突然の病で急死し、セリアージュが困っていたのを見てスピリエが召し抱えると言う形で雇ったそうだ。

 

「セリアージュさんがこんなに料理上手だとスピリエも大変だね」

「は?なんでだよ」

「食べ過ぎて太らないようにしないと……」

「それは妻として私がしっかり管理するので大丈夫です」

 僕の言葉を遮るようにセリアージュがハッキリと言い切るとちょっとした笑いが起こった。

 獣人の女性って夫には厳しいのかな?

 

「披露の宴の時は騒がしくなるが、よろしくな」

 そう言い残して2人は出て行った。

 披露の宴って披露宴の事だよね?

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