ライオネルクローの光龍の加護
スピリエの覚悟を否定はできない。
「流れる幻を見ろ、エターナルファントム」
移動加速で近づいてスピリエの腹に掌底を入れた。
スピリエが飛んでいくと、ほぼ同時に僕の残像が動いた軌跡を辿る。
オーラを纏った状態でのエターナルファントムの時にだけ現れる残像現象だ。
激しい勢いで飛んで行った巨体は闘技場の壁に埋もれてしまったが……生きてるよな?
カラカラ……。
瓦礫の中から出てきた体は血だらけで、もう戦えないだろう。
でも動いている、僕は手を抜かないと決めた。
オーラを纏ったまま、彼が舞台に戻るのを待つ。
「まいった、降参だ。でもあれが俺の全力だ。」
舞台の上り口に来て大声で叫び舞台に上がり近づいてくる、獣化も解いたようだ。
「スピリエ・ライオネルの成長を確認し、結婚する資格があると認めますか?」
ジュリアが僕に聞いて来た。
「もちろん認めます。正直言うとここまで成長してると思ってませんでした」
僕の答えに会場中が総立ちで拍手をしている。
初めて会った時は、粗暴な子供だと思っていたが立派な青年と言って良いだろう。
僕の中にあった思いが間違えではないと確信した。
ライオネルクローを外してスピリエの前に差し出すと、不思議そうな顔をしている。
「これを君に託したい。受け取って正しく扱える覚悟はある?」
「それはダグラス叔父様が幻妖斎に渡したものじゃないか。どうして俺なんかが……」
「僕は持って帰れない。『託しても良いと思える強者へ強き思いと共に受け継いでくれ』と轟鬼が言ったけど誰に渡すか正直迷っていたよ」
元居た世界に持って帰れないと言いたかったが、異世界人なのを堂々と公言していないのでこんな言い方になってしまうが分かってくれるはずだ。
「今日、成長を見て託す相手は君しか居ないと確信した。後はスピリエの覚悟を知りたい。セリアージュだけじゃなく獣人やグリアを守って行く自信と覚悟はあるかい?」
静まり返った観衆と静かに少しの沈黙が流れて行く。
スピリエはまだ15歳だ、かなり重たい質問だから答えに困るだろう……そう思っていた。
「覚悟は出来てる!自信はまだないけど、これからもっと学んでみんなが安心してくれるエリアにしたい」
ライオネルクローを受け取ると力強い声で宣言し大歓声に包まれて儀式は終了した。
僕は翌日、アルベールに呼ばれて宮殿に向かった。
結婚式は明日なので何か確認事かな?と思ったが広間に入るとアルベールとスピリエが居た。
顔は晴れ上がり、腕は折れたままで足も負傷したのか杖もついている。
昨日、治癒魔法を掛けようとしたが披露の宴が終わるまでは治さないと言われたのだ。
(これはやり過ぎたのを注意されるのかな)
その心配は外れていて、質問された。
「ライオネルクローは本当にスピリエに託して良いのか?」
思っていた事をアルベールに話した。
当初は自分の武器が出来たからライオネル家に返したいだけだった事。
戦闘力だけで言えば轟鬼の息子のキールやブレイブが上だろうという事。
再会した時のスピリエの変化、そして轟鬼から言われた言葉。
「昨日手合わせしてスピリエのハッキリとした覚悟を感じました。ライオネルクローは彼に託す以外考えられません。僕からの敬意を込めた魔法を入れてあります」
「敬意を込めた魔法とは?」
「先日来たシュパイツに頼んで特殊な加工をしました。魔法が発動する条件は『獣化』なので使用者は限られます」
この前、無理やり連れて行かれた時にお願いをして発動条件を変えて貰ったのだ。
「『光龍の加護』と言って光の竜が出て、飛び使用者に向かって戻ってきます。その龍が体に入ると大幅な身体強化と継続的な自己治癒効果と光魔法のエンチャントが付与されます。使用回数は20回で光の竜自体を敵に当てると強力な攻撃魔法になりますがエンチャントは少しの身体強化しか発動しません」
以前ゴブリンキングを倒した後から光の竜の化身と言われているそうだし、身体強化に使えてかなり便利なのだが見た目が派手なのでこの身は分かれそうだ。
魔法は結婚祝いのオマケでしかない、ドワーフと獣人の絆と轟鬼ことダグラス・ライオネルの獣人を幸せにすると言う意思を受け継いでいって欲しいと言うのが本音だ。
使用するにしても効果が分からないと実戦で困るので試し撃ちをすることになり闘技場へ来た。
族長家族が揃って向かっているので住民がついて来たが、立ち入りは禁止にしてもらっているから安心だ。
「獣化する時に上空へ向けて拳を上げれば良いんだよな?」
「うん、光の竜が向かってくるけどスピリエに害は無いから驚いて逃げないでね」
気合を入れて獣化するタイミングで拳を突き上げると光の竜が上空に飛んでいく。
上空から螺旋を描いて降りてスピリエと龍が重なると激しく光を放った。
アルベール達が驚いているのと同時に外が大騒ぎになっている。
「何だこれ……体が変な感じだ」
「身体強化を強めにしてるからね、ちょっと動いたり木偶を攻撃したりしてみて」
舞台上に設置して貰った木偶を攻撃するたびに拳が光って爆発して壊れた。
移動速度や攻撃力も上がっているのが一目で分かる。
「体が軽いし、まるで別人になったような感じですごいな」
「分かってると思うけど――」
「この力は大切な人たちを守るために使うと約束するよ。出来れば使う機会が来ない方が良いけどな」
スピリエなら信用しても大丈夫だろう。
「あー!どうしよう……体の傷が全部治ってる……」
そう言えば、まだ治したら駄目なんだっけ?
「あんなに目立ってしまったら仕方ない、住民も龍を見ただろうし納得するだろう」
アルベールが少し呆れたように入り口の方を見ながら呟いた。
立ち入っては無かったが外で見ていた人も居たので隠しようもなかった。
光の龍が舞い降りてスピリエの傷を癒した、と言う噂が街の中にすさまじい速さで広まった。
僕は宿に戻ってピーフェと話をしている。
カトリーヌは宮殿の自分の部屋に泊まっているが、僕はまだ婚約なので今回は宿に泊まる事となった。
前回の宮殿の客間は広すぎて落ち着かなかったから宿の方が気楽で良い。
ピーフェは寝る場所はどこでも良い、というタイプなようだ。
宮殿から使いが来たので、何か用事かなと思ったらピーフェに来て欲しいという事だ。
僕も行こうと思ったが今回はピーフェだけに来て欲しいようで、やる事が無くなった。
「街を散策してきたらどうだ?まだ時間あって暇だろ」
そう言われ街に出ると広場で会場の設置が進められている。
屋台も出るようだけど、まだ営業はしていない。
結婚は知れ渡っているので、お祝いムードが高いが大騒ぎと言う感じでは無い。
そんなムードに水を差す出来事が、よくある事なのはどの世界も同じようだ。
食堂の前で老人が倒れて何か叫んでいる、ひったくりに遭ったようで犯人が都合よくこちらへ走って来る。
僕は背負い投げでその犯人の男を投げ地面に叩きつけた。
取り返した袋はズッシリと重い。
食堂の売り上げのようで結婚が決まり人が集まってかなりの売り上げになってるようだ。
「お前人間だろ!獣人の味方をして同族の邪魔するのか!」
(人間だったのか……そもそも、種族関係なく犯罪はダメだろう)
「あの、変な人間ばかりじゃないので人間を嫌いにならないで下さいね」
「分かってるよ。どの種族にも善人も悪人も居るものさ。あんたカトリーヌちゃんの婚約者だろ?あの子を幸せにしてやってくれよ」
僕は老人に袋を渡すと笑顔で答えてくれた。
カトリーヌの知り合いなのか?と思ったが、子供のころから明るくて誰に対しても優しいので街の人気者で有名なようだ。
昔から変わってないんだな、グリアには写真が無いので昔を見ることは出来ないが何となく想像できてうれしくなった。




