レイモンド家のアクセサリー
カトリーヌとピーフェはスクロスの街で聞いたことを話していく。
それを聞いているペールの顔が曇り大きくため息を吐いた。
「他種族の方々の耳に入っているようではダメですね」
「でも、噂を聞いたのはスクロスでジマワウでは聞きませんでしたわ」
「エリア内で収まっているのは不幸中の幸いと言えます」
このペールと言う若い兵士、クーデターでも考えてるんじゃないだろうな。
「あー、そう言えば悪い噂を話してた奴ってスクロスの住人じゃないと思うぜ。見た感じ行商人や冒険者ばかりだったな」
「確かにそうですわ、住民の方は聖女を派遣したり、厄災時の対応などで好評だった気がします」
変な計画に巻き込まれたくない、単刀直入に質問した。
「ペールさん、地方から族長の悪評を立てて族長交代を狙っているとかじゃないですよね?」
「そんな事はしない!」
机を叩いて立ち上がって叫ぶように言った。
「すまない、その噂が大きくなっているから……困っているんだ」
風船の空気が抜けていくように力なく座り込んだ。
「幻妖斎、族長の交代なんて外部から出来ないからな」
ピーフェが教えてくれた。
族長の権力は絶大で権利は族長の家系のみ。
外部から圧力があっても族長本人がその座を息子に譲らなければ、息子でさえ父である族長が亡くなるまで継承できない。
仮に殺害されたらどうするのかと聞いたら、族長には賢者の加護があり魔物以外の攻撃をほぼ無効化できるようだ。
ピーフェが言うには、師匠が全力で攻撃すれば殺害できるかも?と言うレベルの防御だと言う。
厄災の時に族長が宮殿から出ないのは、魔物からの攻撃を受けないと言う理由もある。
族長は夫人だったが亡くなった際に子供が10歳以下だったので夫のテイルが族長になった様だ。
この場合は、テイルが譲らなくても子供が20歳を迎えた時点で強制的に譲位される。
「そんな事があるなら短期間でも権力が欲しくて横柄になるって事は無いの?」
ピーフェとカトリーヌは変と言っていたが強制的に変わるならその間だけでも……という考えになる人は多そうだ。
「過去の歴史で何度かあるが、そう言う奴は族長で無くなったら処刑されてるのは有名な話で、最近のテンポの族長は真面目な奴ばっかだぞ」
「それに息子が族長になってもテイルさんの権力が無くなる訳ではないので、急に態度が変わったのは変だと思ったんです」
テンポと言うのは一時的に族長になっている場合を指すようで稀にあるようだ。
息子が族長になっても、夫人が族長の頃と変わらない訳だから威張りだす意味が無いという事なのか。
短期間、威張り散らかして処刑されても嫌だろうし確かに少し変な感じかな。
食事が終わると、報酬と言って金貨100枚を渡してきた。
僕たちが街に居る間はギルドの直営宿は無料にしておくとも言われた。
シンたちが回診の儀から帰ってくるまで時間があるのでギルドに街で出来る依頼が無いかを聞いていた。
街の困りごとは宮殿の兵士に言うと無償で対応してくれるのでギルドに依頼は来ないと言われる。
ある日、街中が少し騒がしいので見に行くと族長のテイル・レイモンドが街の視察をしていた。
視察……と言っても1人で街を歩いているだけで護衛がいない。
近づいてくる人が数名居たが手で追い払うような仕草をして追い返していた。
1人の少年が母親と共に族長に近づく。
テイルのために布の切れ端を集めて勲章を作ったので渡したいと言っている。
少年が布の勲章を渡そうとした時に物陰から数名の人間がテイルに向かって飛び掛かって行く。
「死ね!レイモンド!」
襲ってきた暴漢がそう叫んで切り掛かった。
子供に覆い被さっている彼の背中や腕に傷がつき血が流れている。
あれ?攻撃が無効化されるんじゃないのか?
僕たちが暴漢を全て取り押さえた頃、宮殿から兵士が駆け付けて来た。
庇っていた子供が恐怖で泣き叫んでいるが怪我は無いようだ。
「この子にケガが無いか確認しろ、その他の被害も確認と対応、恩人の冒険者は宮殿に招聘。罪人を取り調べて黒幕を調べろ」
子供を兵士に渡して、小声で兵士にパパっと指示内容を告げる。
「平民風情が族長の私に近づくからこうなるのだ!私は族長テイル・レイモンドである。道を開けよ!」
兵士への指示とは比較にならない大声で叫ぶと悠然と帰って行った。
少年が作った布の勲章は混乱で人々に踏みつけられて汚れていた。
カトリーヌが少年に返そうと辺りを見たがすでに居なくなっている。
帰ろうとしたが兵士に呼び止められて宮殿に来るようにと言われた。
ピーフェは宮殿に行くのは面倒だと言って逃げて行ってしまった。
宮殿に行くと入ってすぐに、怪我の有無や装備の損耗が無かったか確認された。
確認が終わると早々に謁見室に案内されると族長だけしか居ない。
「冒険者よ。先ほどは助かった」
テイルはそれだけしか言わなかった。
室内を見回すと、楽器が置いてある凹みがあったので見つめていると声を掛けられた。
「あの場所が気になるかね。見ても良いぞ、誰も触れられない物だからな」
やっぱり結界があるのか……ここは何の楽器かな?
結界の中にあったのは、楽器ではなく皮に装飾の施されたアクセサリーが台の上に置いてある。
「これって何ですか?」
「結界で誰も触れないが大きさから首に巻く装飾品だと言われている、価値がある物ではないそうだ」
獣人とドワーフが楽器だったので、勝手にここも楽器だと思っていた。
何に使うかは結局どの種族も知らないんだよな。
「冒険者が族長に会えた事を光栄に思う事だ」
テイルはそう言い残して部屋を出て行った。
謁見室を出ると大臣と名乗る人が声を掛けて来た。
族長と助けた報酬として、特産品と交換できるギルドポイントを付与したので確認しておけとの事。
持ち運ぶ必要もなく、交換すれば売って金貨に出来るので冒険者への報酬はポイントにしているようだ。
ハイドとの約束もあるしギルドへ確認に行ってみる事にした。
ユベリーナへ戻ると大陸間転移になるので少し迷ったが問題は無かった。
(人間エリアのギルドで売って欲しいと言っていたよな、大陸は違っても人間エリアだし)
そう思ってギルドで確認したら案の定、問題ないようだ。
カトリーヌと特産品のリストを見ていたが、結構な品数がある。
薬の素材になる貴重な薬草や、極上品質の絹織物、高価なものだと真珠や珊瑚などもあった。
エリアの北部に湾が2か所あり真珠と珊瑚が育ち高価だが金持ちから人気があるそうだ。
カトリーヌに真珠とか珊瑚をプレゼントしようかな?と聞いたが断られてしまった。
真珠は摩耗しやすく、珊瑚は割れやすいので冒険者向きの物ではないと教えて貰ったが興味はありそうでリストを凝視している。
2人のポイントを合算して絹織物5反、真珠2セット、珊瑚1セットが交換できた。
絹織物3反と真珠と珊瑚はカトリーヌの母のジュリア、アルベールの妻のオリビア、スピリエの妻になるセリアージュへプレゼントする事にした。
結婚式も近いし贈り物としては良い物だろう。
ギルドへは絹織物2反だけをハイドの名前を出して売却した。
カトリーヌが売却が少なくないかと心配していたが、ギルド職員の反応を見ると十分そうだった。
売却で金貨200枚だったが、触った感覚で僕でもウットリする様な手触りで極上品質と言われるのも納得の物だ。
獣人の女性3名が珊瑚か真珠かで揉めないか心配だけど……。




