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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・人間の領地ガヴィメズ編
83/135

生者か死者か?歌声の主

 歌声はハッキリと聞こえたが人の姿が見えない。

 その声が突然止まったが、僕たちは姿を隠している訳ではないので気が付かれたのだろう。


「切なそうな歌声が聞こえましたけど誰も居ないですね」

 カトリーヌにも聞こえていたようで空耳ではない。

「なるほどな。おい、一応戦闘準備をしておけよ。普通じゃない奴がいる」

「危ないのかな?逃げる?」

「もう遅い。かすかな空間のゆがみがある、俺っちとした事が罠にはまったようだぜ」

 空間のゆがみ?特に何も変わった様子はない……ピカッと目の前が光った。

 めまいかと思ったがカトリーヌも同じだった。

 景色は同じ場所に見えるが空が薄暗くなっている、体も少しふらつくけど、まさか空間転移?


「まさか妖精と不死の者に見つかるとは思いませんでした」

 この声はさっきの歌声の人と同じと思う。

 少し前方に大きめの石に腰掛けている、ボロボロのローブを纏った人が居た。

 挨拶をして近づこうとした瞬間に制止される。

「あなた方に対して敵意はありません。私は静かにここで暮らしたいだけ。近づくと死にますよ」

 敵意は無いのに僕たちが死ぬとか支離滅裂だな。

 そう思って彼女の方を注視すると……なんだ……人間じゃない……骨の魔物?

 僕は咄嗟にカトリーヌの前に立ち武器を構えた。


「待ってください。あの人は敵意が無いと言っていました。それに魔物とは違う感じがします」

 油断させる作戦かもと思ったがピーフェも同じ意見だった。

 武器をポーチに戻して彼女に話しかけた。

「あなたは誰で、ここはどこですか?」

 少し間が空いたがゆっくり話してくれた。

「私は人間です。泉で溺れたのですが、その泉が魔力の泉だったようでこのような姿に。ここは神の創り出した亜空間です」

「つまり、死んで生き返ったアンデッドという事ですよね?僕たちを連れてきた理由は?」

「口止めです。私は私に敵意の無いものを殺しません。妖精とあなた……かなり特殊な力を持っていますね。私では勝てないでしょう」

「僕がもし、あなたを倒すと言えばどうしますか?僕には勝てないと言っていましたよね」

「あなたには勝てませんが、私を消滅させることも不可能でしょう。攻撃を気が済むまでこの身で受けても構いません」


 彼女?は確かに全く敵意はなさそうだった。

 少し話を聞いてみた。

 

 彼女はこの辺りの泉で溺れたそうで体が底に沈んで行く途中で意識が無くなっていた。

 気が付いたら泉の外に居たが水面に映る自分の姿は骸骨と化していたそうだ。

 光魔法を使える人や神官なら自分を消してくれるのでは、そう思って街に出向いても魔法が効かなかった。

 ある日、光の神が目の前に現れ自分の存在がイレギュラーであることを告げられた。

 彼女は光の神に自らの死を願ったが神の力でも封印は出来るが消滅させることが出来なかったそうだ。

 死ぬ方法はある、神に告げられた方法は、創造神に願うという事だった。

 光の神でも創造神の居る神の扉を開くことが出来ないと言われたので彼女は諦めて、光の神に願いこの場所に亜空間を作り外との関わりを絶った。


 創造神に願うか、僕はチェインで創造神に謁見する必要があるからな。

「僕は異世界人で元の世界に戻るため、創造神に会う時があるかも知れないので、その時にあなたの事をお願いしてみますよ」

 いつになるのか、願いを聞いてくれるのかは不明だけど光の神が言ったという事は可能性があるのだろう。

 体がふらついて、嬉しそうな彼女にほんの少し近づいた瞬間、すさまじい魔力の波動を感じた。

「私に近づくな!」

「すみません、亜空間のせいか体がフラフラして」

「いや、私こそごめんなさい。私の周りに黒い影が見える?そこから中に入ると皆、死んでしまうのですよ」

 言われて見ると足元の周りに円形に黒い影が見える、影と言うより魔法のサークルみたいな感じだな。

 彼女は少し歩いて花に近づいたら、咲き誇っていた花が朽ち果ててしまった。

「こんな体になってしまって人と触れ合うことも出来ない、大好きな花も触れないのです」

 彼女の周りには花が沢山咲いている、枯れていないという事はずっとあの場所から動いてないのか?

 

 カトリーヌにお願い事を耳打ちすると、了承してくれた。

 静かに彼女に近づく。

「話を聞いてなかったの?私は誰も殺したくないのです」

「僕は死ねないのですよ、なので多分大丈夫」

 影の中に入ってもシュバイツに貰ったコートのおかげか装備も守られている。

 力なく垂れ下がっている手を取り握りしめた。

「次いつ会えるか分かりませんが、望むなら僕で良ければいつでも手を握ります」

「ありがとう。もう二度と人と触れ合える事は無いと思っていた。私にできる事があれば言ってください」

 彼女の目に涙が見えた気もするが触れないでおく。


「そう言えばあなたのお名前をお聞きしても良いですか?僕は流 幻妖斎と言います、こちらは婚約者のカトリーヌです」

「私の名前はもちろんあります。ただ、名乗ると夫に迷惑が掛かるかも知れないので『リッチ』と呼んでください」

 リッチって思い切り魔物の名前な気もするけど……。


「この場所の事は秘密にしておいて下さい。普通は見つけられないと思いますが……」

 僕たちはいつでも歓迎してくれるそうだ。

「あなた方にゾルバードのご加護がありますように」

 リッチがそう言うと僕たちは元の場所に戻っていた。


「敵意が無かったから良かったけどヤバイ奴だったな」

「突然強力な魔力の波動を感じたから焦ったよ」

「幻妖斎様が他の女性の手を握るのは嫌ですけどリッチさんは仕方ないですね」

 街道に戻って北へ進みながら、そんな話をしていた。

 亜空間に入ったことは全員無かったのでちょっと興奮していた気もする。


 気になったことがあるのでピーフェなら知ってるかな、と思って聞いてみた。

「ゾルバードの加護って言ってたけどゾルバードって何か知ってる?」

「7賢者の1人だな。確か闇の賢者でこの人間領ガヴィメズを守護している存在だぞ」

 賢者って実在するのかな?でも轟鬼は会ったことあるみたいだから居るのは居るんだよね。

 誰かに一度会ってみたい。

 

「それと魔力の泉って言うのは?」

「稀に出現する底なしの魔力を帯びた泉の事だ。その水を飲めば短時間だけど魔力の枯渇が無くなるんだ」

「泉が出たら沢山汲み上げておけば便利なアイテムになるね」

「魔力の泉から直接飲まないと効果が無いぞ、それに覚えていない魔法が使えるようになる訳じゃないから、正直あまり意味が無いかな」

 何処にいつ出現するか分からない上に、短時間で泉は消えるそうなので確かにあまり意味はなさそうだ。

「さっきのあいつ、リッチだっけ。泉で溺れたから底なしの魔力があるのかも知れないが魔法は使えなさそうだった。生前に魔法を覚えてなかったんだろ」

 魔法使いって珍しいらしいし、そもそも生前は冒険者だったのかもわからないな。

 

 数日間、歩いてスクロスと言う街が見えて来た。

 入場審査にかなり行列が出来ている、結構待ちそうだ。

「幻妖斎様は先に入って宿探しをお願いして良いですか?」

 行列が長いし、確かに宿が満室だと困るので僕だけ先に入る事にした。

 人間だから審査なしで入れるはずだけど、門の通過時にドキドキしてしまうが問題は無かった。


 宿は無事に見つかって胸をなでおろした。

「お前が幻妖斎か。強いな」

 門の前までカトリーヌ達を迎えに行っているとき、不意に声を掛けられた。

 振り向くと、そこに居たのは初めて見る人で黒づくめの服を身に纏った端正な顔立ちの多分……人間の青年だ。

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