それぞれの気持ち
大会が全て終わったが、僕は師匠と轟鬼と共に宮殿内部に居る。
師匠が止めたとはいえ迷惑をかけたという事でリュートが厳重注意をされた後に4人が別室で話をしている。
「私が愚かでした。あのような強さをお持ちとは知らず、自らの行為を恥じるばかりです」
「そなたの力は本物だ。反省しているならそれで良い。この2人にも、あの話をしてもらっても良いかな?」
「はい。武神殿には申し上げましたが私は不死者です。私の強さは長命種を超える長き時間で鍛え上げました」
「不死者か。確認の方法は無いが強さは間違いない。俺は気に入ったぞ」
リュートは確認のために心臓を突いて欲しいと剣を轟鬼に差し出したが、もちろん拒否された。
不死者の確認方法か、そういえば一応ある。
「確認の方法はありますが……轟鬼殿は少しの間、席を外してもらっても良いですか?」
轟鬼は頷いて部屋を出て行った。
「失礼ですがあなたの出身の村は?」
「村?あぁ……お前は知っているのか。ドリバルだ」
「僕はあなたが死を望むなら、与えることが出来ます。あなたは望みますか?」
「いや、私はまだ生きる。その質問でお前がマスターの友人であると確信した。先日はダンジョンで失礼な態度を取って申し訳ない」
マスター、という事はウェイズのレグリアと言う組織のメンバーで間違いないだろう。
彼女は懐から血が入った小瓶を出して見せて来た。
話を聞くと、ウェイズの願いが叶うまでは生きる事にしているそうだ。
「改めて自己紹介をしよう。レグリアのナンバー7。リュート・シレンと言う」
「ナンバー7?」
「そこまでは詳しくないのだな。あまり詮索はしないで貰えると助かる。武神殿にもお願い申し上げます」
師匠は頷いて了解していた。
轟鬼を部屋に呼び戻して4人で少し会話をした後、リュートは行く場所があると言って帰って行った。
「轟鬼殿があそこまで強いとは知りませんでした」
「身体強化の魔法効果のおかげだな。借りておいて助かったぞ」
身体強化もあるけどかなり謙遜も入っていると思う、それほど強かった。
「付与された魔法が無くなったようだ。また何か魔法を込めなくてはな」
ライオネルクローを返してもらった時に言われた。
師匠は宮殿の魔法使いの転移魔法で家に帰って行った。
僕は轟鬼がカトリーヌに土産を買ってから帰ると言うので街で買い物をしている。
轟鬼がかなり目立つが遠巻きに見ているドワーフばかりで声をかけて来る者は居なかった。
カトリーヌにはお菓子を購入したが、ジュリアとオリビアにも何か買って帰ると言って探しに行ったので僕だけ取り残されてしまった。
街を歩いているとジオルグたちが居た、何か困っているようだ。
声をかけて何があったのか聞いた。
「数年前に武器の打ち直しを予約していて、ギルド通信で俺の順番がそろそろと連絡が来たので店を訪れたのだが、臨時休業になっているんだ」
「それってまさか、ロイドの店ですか?」
「そうだ。ロイドというのは仕事一筋で頑固だが腕は良いと評判だからな」
臨時休業になっている理由を話すと、それなら仕方がないと言ってくれた。
ジオルグでも数年待ちという事は本当に順番に厳しいのだろう。
「武器の打ち直しって修復とかですか?」
「マールの武器だ」
当のマール本人は何のことか分かっていないようだ。
「こいつは若いが出来た奴だ。物腰も柔らかいが芯もあり強さもある。俺の正体はとっくの昔に分かっているだろうが何も言わない。秘密も守れる信用できる男だ」
「ありがとうございます。これからも誠心誠意ジオルグ様にお仕えをいたします」
その答えを聞いたジオルグはため息を吐き、僕をマールの前に連れ出した。
「こいつは俺と妻、それに娘も認めている男だ。俺は覚悟を決めた。この男と俺の前でお前の意思を聞きたい」
突然の事でマールは戸惑っているようだ。
「俺はお前を戦士隊に推薦するつもりだ。俺の武器を受け継ぎ、エルフを……いや、世界を大厄災から守る戦士になる覚悟はあるか?」
ポーチから弓を取り出しマールの前に差し出す。
今となって見ると分かるけどオリハルコン製の弓だ。
「これはジオルグ様が愛用されている神弓ではないですか。私に受け継ぐ資格はありません」
「俺が認めた、それが資格だ。後はお前の覚悟だけだ。判断は任せるがこの場で決めろ。断るのなら好きなだけ俺に仕え続ければ良い」
ジオルグとマールは何も言わないまま見つめあっている。
「私は戦士隊で力になれるでしょうか?」
「それはこれからの努力次第だろう。これだけは言っておく、俺が無能を推薦する事はない」
「私は未だ若輩浅学ですが、ジオルグ様の期待に応えるよう努力します。推薦をお願いします」
「よし!ロイドの手が空くまではマジアルに留まる。酒の嗜み方も教えてやるぞ!」
そう言えばマールって成人だった、見た目が子供だから忘れていたが酒も飲めるのか。
弓の打ち直しって何かと思ったがジオルグとマールでは体格が違うため今の形では扱いにくいので形を変えるそうだ。
前から気になっていたことがあったので確認してみよう。
「以前貰った仮面に書いてある文字って何と書いてあるんですか?」
特別な不死者の特権なのか種族文字も読めるが、これだけは解読できないんだよね。
「それに意味はないぞ、俺のサインだからな。希少価値があるだけだ」
ジオルグはそう言って大笑いしていた。
ギルド通信を最近確認していなかった事を思い出しギルドへ向かう。
2通来ていたので受け取る。
1通目は雪村からだ。
『流幻、返信ありがとう。俺たちランクBになったぜ。やってる事は買わないけどな。鵜藤雪村』
ランクBか、今度会ったら何かお祝いしよう。
2通目はシルビア彫金店からだった。
『注文の品が出来上がったよ。セントスに来た時にでも寄っとくれ。シルビア』
出来上がったんだ、どんな感じになっているか楽しみ。
ただ、ブローチなんだよな……カトリーヌが喜んでくれれば良いのだけど。
婚約の時にプレゼントした武闘大会の商品もブローチで、それを大事にしてるから他のブローチに興味なさそうだったんだよね。
ギルドを出た所で轟鬼が買い物から帰ってきた。
宮殿へ戻りエルバートに挨拶をして獣人領の首都グリオベーゼに転移させてもらった。
僕の武器が完成するまでは、まだ暫く掛かりそうだと言われた。
宮殿内に転移して扉を開けるとジュリアが迎えてくれた。
「おかえりなさい。カトリーヌはもう大丈夫と思うけれど、あまり激しい戦闘は控えてね」
おかえり、なんて言われると思わなかったので少し驚いたけど嬉しかった。
すぐにカトリーヌが走ってきた、表情で元気になっているのが分かる。
「おかえりなさい。お待たせしてしまいましたが、もう大丈夫です。また旅に行きましょう」
「アルベール族長にも挨拶したいし、明日にでも出発しようか。用事があるのでセントスに寄りたいんだけど良い?」
「イリジーンさんの娘さんのお見舞いですね。お花とお菓子でもお持ちしましょう」
イリジーンの娘、たしかラエルさんだっけ。
身内以外も面会できるようになっていると良いが……。
カトリーヌへの贈り物はまだ内緒にしておく。
その後、みんなが集まって買ってきたお菓子を渡して食べた。
大会の話や、僕の武器の話などをして日が暮れていく。
みんな優しくて、良い家族だな……と少しだけ心が安らいだ1日だった。




