武神の礼装
大会の開始まで2日になった時、賑わう街で不意に声を掛けられた。
「幻妖斎様、お久しぶりです。今日はお1人ですか?カトリーヌさんは?」
声の主はエルフのマールだった、ジオルグも一緒だ。
カトリーヌが居ない理由を話した。
「マールさん達は観光ですか?」
イトの話では部下の出身地を回っているらしいが、戦士隊の部下がドワーフという事はないだろう。
「それがですね、ジオルグ様が珍しく武闘大会に興味を示しまして。武神様とダグラス様が出るので目的はそれでしょうけど……」
「大会に出場するんですか?ジオルグさんの実力なら優勝も狙えますよね」
「俺は見物するだけだぞ。双頭の龍の組手に武神の演武が見られる機会なんてそうないからな。」
入場券はマールが頑張ったけど入手できなかったのだがジオルグが知り合いから貰ったと言って持ってきた。
ジオルグがこっそり教えてくれたが、エルフ族の前族長の夫と言う肩書で兵士に掛け合い入手したそうだ。
前族長の名前を使うほど貴重なのかと思い知らされた。
そう言えば、僕はチケット持っていないのに気が付いた、これは会場に入れない流れか?
大会の前日、街は大勢の観光客でにぎわっている。
各種族の屋台があるので食べた事が無い軽食を食べ歩いたりして楽しんでいた。
数名の兵士が血相を変えて走って来て、大至急宮殿に来てほしいと呼ばれた。
案内された会議室には族長の他に数名の兵士やお偉いさんっぽい人が居る、何があったんだろう?
僕を見てエルバートが少し安心したようで、隣に居る大臣が僕に話しかけて来た。
「幻妖斎殿はエルフのマーサ前族長とお知り合いですか?」
「ええ、エルフ族長と面会の際に色々と手助けしていただきましたが何か問題でも?」
「他言無用でお願いしたいのですが実は前族長の夫でジオルグと名乗るエルフに特別入場券を兵士が渡したそうなのです」
「そうみたいですね」
「それで、その者の正体を探っているのですが……まさかお知り合いなのですか?」
僕はジオルグがマーサの夫であるという事と、大会の見物に来たという事を話した。
本物なので大丈夫ですよ、と告げたが本物だから問題なのだそうだ。
警護の問題なのだが特別入場券、つまり貴賓席なので顔が分からないと困ると言われた。
街へ戻ってジオルグたちを探したら思いのほか早く見つかった。
耳打ちで理由を説明してマールを宿に残しジオルグと共に宮殿へ向かい、顔の確認が終わった。
お供のマールに正体を知られたくないと言っていることを話すとそれは問題ないそうだ。
ジオルグは用事が終わると行く場所があると言って1人で、さっさとどこかに消えて行ったが……またお酒か?
帰ろうと部屋を出た所でコデルに声を掛けられた。
「柄を部分を製作するのですが幻妖斎殿の手形などを取らせていただけますか?」
粘土のような物に手を押し付けたり握ったり、短刀を構えるときにどう握っているか等を詳細に見せた。
「ロイドさんも一緒に入って行きましたけど、順番に厳しい人なのに大丈夫なんですかね?」
「父である前にイリジーンはロイドの師匠ですから、その頼みは断れないのですよ。良い口実が出来たと思ってると思います」
「良い口実って?」
「先日、セントスに3人で訪れましたが妹のラエルの体調がすごく良くて驚きました。父も兄も頑固ですが幻妖斎殿への恩は感じていると思います。」
妹さんも元気になってるんだな、フォーゲルにも今度お礼をしておかないと。
コデルは粘土を持って、出来上がりは期待していて下さい、と言い残して走って帰って行った。
大会当日になり会場へ入れない人が街にあふれている。
宮殿から闘技場への道を師匠と轟鬼が通って行くそうで、その姿を見るだけでもと集まっているそうだ。
僕も2人について行くので宮殿へ入ると広間に轟鬼が立っている。
いつもと服が違うので違和感があるが威厳が増している。
獣人の礼装なので着用すると身が引き締まる思いになるそうだ。
その後すぐに師匠が歩いて来たが、いつもの服ではなくエルバートへ会いに来た時のアクセサリー付きの服だった。
その姿を見た轟鬼でさえも頭を軽く下げた。
これは大厄災で師匠が邪龍を倒したときに着用していた、夫人のサクラが制作した服だそうだ。
アクセサリーはティアラ・ブレスレット・胸当て・ベルト・膝当ての5種とブローチで合計6種ある。
人間がティアラ、獣人がブレスレット、エルフが胸当て、小人がベルト、ドワーフが膝当てを作った。
亜人も感謝を示しブローチを作って贈ったようだ。
この服一式は『武神の礼装』と言われていて平和の象徴のようなものと教えられた。
闘技場まで2人が歩いて行くと大歓声が上がっているが、変に飛び出したりする人も居なくて整然としている。
変に手を出すような人物が居ても勝てないだろうし、今回は本選に出れば手合わせ出来るから暴漢の心配もないだろう。
大会が開会した。
今回は予選だけの初日から満員だ、会場を見回すとジオルグとマールもいる。
貴賓席と言うだけあってその一角は見るからに貴族と言う人ばかりだ。
師匠と轟鬼は客席ではなく、舞台がある広間の壁際に席が設けられている。
僕の席も何故か師匠たちの近くに用意されていた。
「武闘大会の開会を宣言します。皆様ご存じの通り今回は双頭の龍の両名様が予選より観覧いたします」
マジアルの予選は武術の部から始まり、次は魔道の部、最後が総合の部になっている。
武術の部の参加者は結構強い人も多いが少し物足りない感じに思えてしまう。
師匠たちが見ているから緊張している人も多いようで、動きが硬く見える人も居る。
それは仕方のない事だろう……実際、今の僕でも師匠たちと手合わせすると最初は緊張してしまう。
魔道の部もトリアーグの大会よりレベルが低い、今回を見てるとリミエストの魔法の凄さを思い知らされた。
総合の部が始まった時に参加者の中に見た事のある顔があった。




