ベシコウのダンジョンの謎の声
翌朝、カトリーヌが起きる前に軽く体を動かしておいた。
彼女が起きて来たので、試し打ちをしてみようという事になった。
「威力が分かりませんし、空に向かって撃ってみましょうか」
「いや、僕に向けて撃って見て。こう見えても不死だし、シュバイツに教えて貰って魔法への対応も出来るからね」
カトリーヌは僕と言うよりも、人に撃つこと自体に否定的だったが半ば無理矢理説得した。
正確にどんな魔法か分からないし、もし爆発系だったりすると上空だと威力が分かりにくい。
とりあえず、50メートルくらい離れて撃ってもらう事にした。
トリガーとなる微量な魔力を流すとか出来るか不安だったが、問題ないですと言われた。
「では、使いますね」
突き出した拳から炎のライオンが……デカい。
横幅と高さは10メートルほどありそうだ、その大きさが凄い速さで向かってくる。
僕は手を伸ばし炎のライオンを止める、見た目の派手さほどの威力は無い。
見た目だけなら超上級魔法クラスでも威力は炎系の中級魔法程度かな。
カトリーヌを見ると彼女の手……と言うかライオネルクローが真っ赤になっている。
魔法剣のような炎属性の魔法付与とかのレベルではないのは見ただけで分かる。
「ねぇ、カトリーヌ。手とか熱くない?」
「赤くなってますけど熱さは無いですよ。でも体がかなり軽くなってます」
高威力の属性付与に身体強化までついているのか?
試しに動いているカトリーヌの動きが明らかに速いし、力も増している気がする。
この魔法を込めたのって誰なんだろう?
マジアルへ戻った時にエルバートに聞いてみよう。
僕たちはベシコウに向けて出発した。
試し撃ちをしてから30分くらい過ぎているが、まだ赤いままだ。
道中に魔物が数体居たので試しにライオネルクローで叩いてみて貰ったら、触れた瞬間に全ての魔物が消し炭となった。
恐る恐る、僕が真っ赤になっているライオネルクローに触れてみたが燃えることも無いし、熱も感じない……どういう仕組み何だろう?
しばらく歩いていると、赤色が薄くなってきて元に戻った。
「凄いライオンでしたね。お父様が好きそうな派手な魔法でした」
カトリーヌがそう言ったがライオンよりも、その後の付与効果の方が凄い。
身体強化もかなりの効果だし、危なくなり逃げるときに使用するのも有りかな。
遠くの方に街が見えて来た。
ベシコウに着いたようだけどダンジョンの街だが入場審査待ちの列は少ない。
獣人が珍しいのか、カトリーヌがジロジロ見られたが冒険者ギルドのカードで問題なく通過できた。
街に入ってすぐ冒険者ギルドへと向かった、エルバートが僕を指名して特別依頼を出してくれているので確認しに行く。
ギルドカードを提示すると職員の人が依頼書を持ってきてくれた。
ダンジョン内の情報を知りたいと伝えると、攻略自体は済んでいるダンジョンなので詳細な情報や地図まであった。
階層自体は6階層までで6階層はボスのベヒーモスしか居ないため一般の冒険者は実質5階層までのようだ。
それぞれの階層がかなり広くて、地図が無く彷徨うと1層通過するのに10日前後かかる場合もあるそうだが地図がある今は5日前後で通過できる。
地図があってもボスまで行くと25日くらいかかるからあまり寄り道は出来ない。
移動でのんびりしすぎて5日使ってしまっているので、マジアルまで帰りは転移するとしてもあまり余裕が無い。
今からすぐと言うのは時間が遅いので地図の把握や魔物の情報を見て明日から突入する事にした。
僕は右手に薄手の手袋を付けている、理由は族長の指輪を隠すためだ。
効果が効果なだけに見せびらかすものでもない、ここぞと言うときにだけ出すようにしようと思う。
ダンジョンの入り口は綺麗だ。
街が管理しているダンジョンは入り口はキッチリ整備されているそうだ。
昨日、街で装備もしっかり、主にカトリーヌの防具を買いそろえた。
砕けてしまった短刀(鴻鵠)の代わりに魔鉄製のものを購入した。
オリハルコンの武器も出来るし、風の刃も使えるので必要ないかなと思ったがダンジョンは他の人も居るので風の刃は使いにくい。
常用しても問題ないと言っていた、ポーチに封印されていた小型の盾も一応装備しておく。
中に入ったらフィールドタイプで広い。
昨日調べた情報では3層まではフィールドで4層からは迷宮のようになっている。
2層までは低級の魔物ばかりなので極力、戦闘を避けることにした。
情報では、1層はウサギ・イタチ・ネズミ・羊の4種類で2層はネズミがニワトリに変わる。
地図を確認して次の階層への階段へ一直線で進んでいく。
1層と2層はボスが居ないのでそのまま通過できる、ボスを倒すと待ち時間があるがそれが無いため時短できる、各層を繋ぐ階段に装置があり入り口までそこからすぐ帰ることも可能だ。
これがベシコウのダンジョンが人気の理由になっている。
肉以外にも毛皮や牙など装備や日用品に使う品物が手に入るのと良い経験にもなるらしい、ペリエスタのダンジョンもそうだったな。
魔物には手を出さず移動し続けて3層目まで来た、ここからは冒険者が結構減って来るそうだ。
この階層から魔物の強さが上がって来るので危険度が増すらしい。
情報では、キリン、ゾウ、虎、サイなどの大型魔物が出てくると書いてあった。
目の前では、カトリーヌがワイルドジラフと戦っている。
先日は戦えなかったので、どうしても戦ってみたいと言うので観戦しているが普通のパーティなら協力して倒すんだろう。
攻撃をせずに相手の動きを見て避けている。
婚約者だから……と言う色眼鏡を外して見てもかなり強い。
ランクBの冒険者の中でもかなり強いんじゃないか?
舞い踊るように回避しているし、避けた際に足へ少しずつ攻撃を加えている。
「そろそろ終わりにします」
そう言うと足の1本に裏拳を叩きこんで折った。
バランスを崩して崩れ落ちて来た頭部に飛び上がりながらアッパーで殴り倒す。
喧嘩と言う喧嘩はした事が無いが、怒らせないように気を付けよう……。
その後は魔物を回避して進んでいる。
この階層まではフィールドエリアなので見通しが良いため回避しやすいが次からは難しいので少しでも時間を節約しておきたい。
4階層への階段の前にゾウがうろついている、あれが4層のボスだな。
それを見たカトリーヌが興奮気味だ。
「あれってミューママンモスですよ!かなり昔に滅びたはずなのにダンジョンには居るんですね。でも魔物じゃないはずなんですけど……実物が見られるなんて夢見たいです」
「ブラストマンモスって言う名前の魔物みたいだよ。強い鼻息で攻撃してくるって書いてあった」
魔物図鑑で調べたけど、夢を壊してしまったかな。
すぐ戦ってみたい気持ちはあったけど、ボスなので2人で図鑑をよく読んでからにすることにした。
(ケッケッケ、敵が来るよ)
ん?何だこの声、カトリーヌが何か言った?
いや、彼女の声じゃない……顔を上げるとブラストマンモスが猛スピードで走ってきている。
魔物がこちらに来る前に僕たちは戦闘態勢に入った。




