聞いてなかったチェインの制限
シェスとアイゼンは黙ってしまった。
ウェイズが2人の前に歩み出る。
「幻妖斎の言った事は正しい。わしがお主たちを助けたのは永遠に縛り付けるためではなく幸せを手にしてほしいからじゃ」
「しかし俺たちは……」
「目的を果たした後、わしが帰る場所に2人を連れて行くことは出来ない。それが気掛かりなのじゃ」
ウェイズが帰る場所ってシュバイツの居る岬じゃないのか?あそこなら連れて行くことは出来ると思うけど……。
心配そうに話すウェイズにアイゼンが毅然とした態度で答える。
「分かりました。私たちは元の世界に戻ります。ただそれはマスターの目的が無事に終わった後の話です。それまでの同行をお許しください」
その言葉を聞いて軽く頷いているウェイズの顔が微笑んでいるように見えた。
2人の事を大切に思っているんだろうな……知っている人が居ない世界で自分を思ってくれる存在はすごく大切だ。
「幻妖斎に謝っておきたい。お前が異世界から来て不死者になったと知り、マスターの目的が邪魔されるのではないかと勘違いしていた。すまなかった」
「ありがとう。僕の方こそ言い過ぎたかな。自分自身が迷ってるから2人に言える立場でもないんだけどね」
「迷っている?何を迷っているのだ」
「シェスは見たけど一緒にいた女性と婚約しているんだよ。僕が異世界から来た不死者だと知っていて結婚は帰るまででも良いと言ってくれてる。元の世界に帰って離れていても幸せに暮らしてると思って生きようって話してるんだけど……。帰ると彼女を悲しませるんじゃないかって不安なんだ。」
「だが、元の世界に帰るのだろう?」
「そうだね。僕が帰ったのを見て安心したい、と言ってくれてるからね。もし帰れるようになっても少し一緒に暮らそうかとも考えていたりするんだ」
僕とシェスたちの会話を聞いているウェイズの表情が曇った気がした。
「婚約者を待たせているのか?わしも会ってみたい。シェス、アイゼン、迎えに行くのじゃ。女性を1人で待たせるもんじゃないぞ」
2人を向かわせた後にウェイズが話しかけて来た。
「シュバイツの奴め、肝心な事を話しておらぬな?幻妖斎よ、チェインについて聞いていることを話してくれるかの」
話すとマズいのでは?と確認したがウェイズに話すのは問題が無いと言われたので聞いた内容を話した。
2人を迎えに行かせたのはその為か。
シュバイツに聞いた内容を聞き終わったウェイズが大きなため息を吐く。
「内容は間違っていないが補足しておくことが2点ある。1つ目はチェインの解除順はどれからでも良いが解除したチェインは解除前に戻せない」
ん?解除順はどれからでも良いのは言われなくても分かってる事だし、戻す必要もないから説明しなかったんじゃないのかな?
逆に解除の順番があるなら、そう言われてると思うからあまり重要な事じゃないような気がする……。
「2つ目はチェインをすべて解除すれば即時、不死で無くなる。その後は7日以内に帰還せねば帰るためのエネルギーが無くなり帰ることが不可能になるのじゃ」
え……そっちはかなり大切な事だよな。
でも、7日あるのか。即帰還じゃないので考えようによってはカトリーヌや轟鬼たちに心の準備をする時間が出来ると言う利点ともとれる。
「えっと、それだけですか?解除後に期間があるのは知りませんでしたけど。他に何かあったりしますか?」
「先ほどの話を聞き限り、補足するのはその2点だけじゃ。チェイン解除の助力をすることは出来ないが正確な情報を伝える必要があるのでな。チェインとは直接関係が無いが全て解除し終わると神龍の涙の効果も失われるはずじゃ、これはシュバイツに聞いて確認してくれ」
それほど重要な事とは思えないが、確かに7日と言う期間は知らなかったら戻ることが出来なくなっていた可能性もある。
チェイン解除後は帰還するだけなので神龍の涙の効果が無くなっても問題はないだろう。
転移魔法が使えなくなるので、会える人は限られてしまうのは寂しいけど。
ちょっと気になっていることがあるのでついでに聞いてみるか。
「質問があるんですけど、族長に認められるって、もしその族長が退位して変わったら無効になるんですか?」
「退位しても死亡しても、気が変わって認めないと言われても、族長に一度認められさえしていれば問題ないぞ」
それなら後は人間と小人の族長に認められればいいって事だな。
「チェインに関する事なのですが(フィード)って何ですか?あれからいろいろ調べたんですけど全く分からなくて……」
「理を乱すものだけが使える魔法じゃな。フィード、と唱えるだけで発動するぞ。理を乱すものと言うのはチェインを4つ以上解除した特別な不死者の事じゃ」
理を乱すとか不穏な名前だな……。
でも、4つ以上って事は4つ解除すれば5つ目はすぐ解除できるという事になるよな?
フォーゲルってチェイン4つ解除してるはずだけど……。
「チェイン解除の助力は創造神から止められておるので直接は力になれんが許してくれ」
「いえ、助かりました。それとさっきの不死者の男が言っ――」
「帰ってきたな。無事で何よりじゃ」
質問を遮られたけどチェインに関する事でもないし良いか。
振り返って見るとシェスとアイゼンがカトリーヌを連れて戻ってきていた。
近くに魔物は居ないと言っていたし、カトリーヌは普通に強いが元気な姿を見るとホッとする。
僕は3人にカトリーヌを紹介した。
ウェイズたちの事も紹介する。
「この人はウェイズ殿と言って僕がグリアに来て困ってる時に色々助けてくれた人だよ。この2人はアイゼンとシェス、ウェイズの護衛の人だ」
「初めまして。幻妖斎様と婚約をしているカトリーヌ・ライオネルと申します。よろしくお願いいたします」
名前を聞いたシェスとアイゼンが反応を示した。
「あなたが轟鬼様の娘ですか?」
「お父様をご存じなので?」
「私たちは以前、疾風様の元で少し過ごしており、その際に何度か面識があります」
そう言えば、師匠のことを先生と言っていたよな……。
「あなた方もお弟子様なのですね?」
「違います。ほんの少し手ほどきを受けただけで弟子と言える立場ではありません」
それって弟子と言うのでは?
そう思ったが師匠も弟子だと言っていなかったな。
ダグラスではなく轟鬼って言ってるのを僕以外で初めて見た気がする……。
ウェイズたちはマジアルに向かうそうで、ここで別れることになった。
「力になれることがあればいつでも言ってくれ。出来る事なら何でも協力しよう」
別れ際にシェスとアイゼンが言ってくれた。
僕とカトリーヌは北へ向かって歩き出す。
ウェイズたちと別れて数日間歩いているがまだ着かない……結構遠いな。
日が暮れたので夜営の準備をして食事をすることにした。
「ベシコウのダンジョンって人気って言ってたけど難しいのかな?」
「ボスがベヒーモスだからじゃないですか?ボス倒せなくても魔物を倒して稼げますしね」
ボスが危険って事か。
ベヒーモスなら何とかなるだろうけど気を抜かないようにしないと。
以前、雪村たちとダンジョンに入った時はギルドから内部の魔物の情報などを貰えたけど今回も貰えるのだろうか?
とりあえず、街に着いたらダンジョンの情報を集めないといけないな。
「あ、そうだ。幻妖斎様、一度ライオネルクローの魔法を確認しておいた方が良いのではないですか?」
突然言われたけど確かに見ておいた方が良いかな。
気になるのは使用回数が3回しかないという事だが、炎系の魔法のようだしダンジョン内部の構造によっては使うと危ない可能性もあるな。
使い切ってしまえば僕が魔法を込めれば良いから使ってみるか。
「そうだね。どんな効果か知っておく必要もあるし、この辺りなら平地だから問題ないかな。もう暗いし明日の朝、試してみよう」
初めて見るので僕もカトリーヌも楽しみだといつもより少し会話が盛り上がった。




