質問の答えとチェイン
マリスのポーチに渡された小瓶を仕舞う。
そうだ、質問しておきたいことがいくつかある。
「ウェイズ殿、お聞きしたい事がいくつかあるのですが良いですか?」
「答えられる事であればいくらでも答えよう」
「他にも異世界から来た人間はいるのに僕を助けた理由は何ですか?」
雪村たちも日本から来たっぽいし、ユベリーナのお菓子屋のおばさんも異世界人だろう。
少し考えた後にウェイズがゆっくり答える。
「わしは幻妖斎のいた世界の者と関わったことがある。その者との約束だ。『命を助けて怪我などがあれば治すが方法は不問』とな。あの時のお主の状態では不死者にするほか助ける方法が無かった。それが理由じゃ。その者が誰かと言う問いには答えられん、そう言う約束なのでな」
「それはいつ頃の話ですか?」
「グリアと幻妖斎のいた世界では時間のズレがあるので、そちらの世界の時間は不明だがグリアでは数千年前の事かの」
数千年前に僕はもちろん生まれていない。
時間のズレがあると言っていたからだと思うが嘘ではないだろう。
嘘にしては理由がハッキリしすぎているし、もっとマシな嘘も沢山考えられる……僕を助けて欲しいと言ったのが誰は気になるが。
「シェスとアイゼンはウェイズ殿の正体をご存じなのですか?」
「わしが不死者なのも、自分たちが不死者なのも知っている。あの両名は自分の意思でわしの肉を食った。幻妖斎と同じく異世界から来た『特別な不死者』じゃ」
「あの2人も……いくつ解除してるんだろう?」
「チェインの事か?あの者たちはシュバイツに会わせていないのでまだ解除はしていないぞ」
シュバイツに会わせていない?
「あの両名は、わしに心酔しておる。帰る方法があると伝えたが元の世界に戻らず永遠に仕えると言っているので会わせていないのじゃ」
「帰らなくても良いとウェイズ殿もお考えなのですか?」
「逆じゃな、わしは元の世界に戻って幸せに暮らして欲しい。じゃが、チェインの発動時にシュバイツから禁忌を聞いたであろう。やつらはそれを故意に犯しチェインを壊す可能性があるので本人たちが帰る気になるまで会わせられぬのじゃ」
他人に話すとチェインが壊れて解除が出来なくなり永久に帰れなくなる、と言うあれか。
確かにシェスとアイゼンのウェイズに対する態度は異常すぎると感じる事もあるのでやりかねない。
「あと2つあります。マリスのポーチに封印がしてあるのは何故ですか?」
「すまないな、それは幻妖斎と言う人間の性質を分かっていなかったからじゃ。神剣と神の防具が入っておるが悪しき心がある者に与える訳にはいかない代物なのじゃ」
出会ってすぐ貰ったし僕が悪用すれば地上が大変な事になるようなものだとすれば仕方ないか。
ウェイズが手を伸ばしポーチが少し光った。
「封印は解除しておいた。神剣は少し大きいが片手で使う事を勧める。聖魔戦争や神と戦う時に使えば良い。盾は……常用しても問題ないじゃろう」
一度ここで出して良いかを確認して取り出してみる。
神剣は片手剣より少し大きいが思ったよりは軽い、片手で扱うには振りにくそうだけど……。
盾は腕に巻く小型の盾で短刀2本を持って戦うときにも使えそうだが、小さいしあまり意味が無いような気もする。
神剣はその名の通り見た目は美しく切れ味も凄そうだけど、神の防具と言う盾は小型で使い回しが良いだけで防御に関しては弱そうに思える。
さて、最後の質問と言うか確認だ。
「あなたは原初の不死者ですよね。チェインを解除するため会いに来ました」
「そうか、よくぞ来た。わしは原初の不死者ウェイズ・グリア。そなたの意思を尊重しようぞ」
頭の中に不快な音が響き、手に刻まれた傷が1つ消えたと同時に体内に、すごく激しい力が駆け巡る。
これで2つ目が解除された訳だけど1つ目より力の上昇がある気がする。
「ん?ウェイズ・グリア?名前が変わりました?」
「ウェイズ・ムールと言うのは偽名じゃ。まぁ、ムールの方しか使っていないがチェイン解除には正式な名前が必要なのでな。アイゼンたちにも教えてない名前なので口外せぬようにな」
創造神が創り出したとか言っていたので世界の名前がついているのだろう、シュバイツもグリアって言ってたし。
今まで通り、ウェイズ殿と言っておけば問題ないだろう。
他に聞いておかないといけない事は何かあったかな?
少し考えこんでいるとウェイズが優しく声をかけて来た。
「何か聞きたい事があればまた会いにくれば良いぞ。わしの居場所はシュバイツに聞けばいつでも教えてくれるじゃろう」
会った後なら教えてやるとシュバイツが言っていたな。
言われなかったら忘れていた。
「不死者ですけど人間領以外にも転生する事があるんですか?この辺りドワーフのエリアですよね?」
「転生先は人間のエリアだけじゃよ。ただ、グリア中を移動自体は出来るからの。先ほどの者も数年前にベシコウに移住したそうじゃ」
「そうなんですか。他種族の領地にも移動できるとなると探すのは大変そうですね」
「人間はセントスの通過も自由じゃし、転生は若返るだけで記憶はそのまま残っておるからの。不死者とバレないため転生前に居た街へ戻る者も少ないのが現状じゃ」
一応、ウェイズの血で僕の不死も解けないかを聞いたが無理だと即答された。
一通りの話が終わり、シェスとアイゼンを呼び戻した。
「マスターに失礼な事はしてないだろうな」
「少しお話していただけです。それに僕が何かしようとしても勝てるわけが無いですよ」
戻って来るなり2人が僕を睨みながら口を揃えて言ったので即否定しておいた。
「2人とも幻妖斎に対する態度がきつすぎるぞ。もう少し何とかせい」
「しかし……」
「わしの目的を聞いて協力を願った時、幻妖斎はすぐに引き受けてくれたぞ」
引き受けたと言っても、不死者に小瓶を渡すだけだし拒否する理由は無い。
僕は帰還のための旅で不死者探しを重点的にはやらないが、人手は1人でも多い方が良いだろう。
「お前はマスターの目的を聞いて滑稽な事だと笑わないのか?」
アイゼンが真っすぐに僕の方を見て聞いて来た。
「僕はグリアに来て不死になって数年ですが元の世界に帰りたくて旅をしてる。数万年も死を願う人が居るのなら微力でも協力したい。質問返しになりますけど何が滑稽で何を笑うの?」
「長い時間をかけても成し遂げられてない目的が遂げられるはずがない、と笑った者が居たのだ!」
「ウェイズ殿はグリアの人を不死にすることは無いと言ってたし、その言葉に嘘は無いと思ってるよ」
「だったら、どうした!」
「目的に今さっき一歩近づいたじゃないか。不死者が増えないのなら目的が遠くなることは無いよ。アイゼンが怒りそうだけど言うね、ウェイズの目的が成し遂げられない方が良いとアイゼン自身が思ってるんじゃないの?」
激怒するだろう……と思っていたアイゼンは黙ってしまった。
数秒の沈黙の後、今度はシェスが言い寄ってきた。
「俺たちは永遠にマスターへ仕えると誓った!そのマスターの願いが叶わない方が良いと思う訳がないだろう!」
「ウェイズ殿の願う、望まない不死者が居なくなったら旅をする理由も無いし、護衛も要らなくなるよね」
「俺たちが用済みになると言うのか!?」
シェスは剣に手を掛けて今にも切り掛かってきそうだ。
これ以上は言わない方が良いか?と思ったが僕は話を止めなかった。
「そうじゃない。元の世界に帰る方法があるのに帰ることなく永遠に仕える。シェスとアイゼンはそれで幸せかもしれないよ。でもウェイズ殿の気持ちは考えないの?」
「マスターの気持ち……だと?」
「2人には元の世界に戻って幸せになって欲しいと言っていた。目的を終えた後に2人が帰らないとウェイズ殿が自分を責めるんじゃないかな?」
「それは……」
「シェスたちとウェイズ殿の間に何があったか知らないけど、何か恩があるんだと思う。旅の間キッチリ護衛して終われば元の世界に戻って幸せになるのがウェイズ殿のためになるんじゃないかな……」
ウェイズの気持ちがどうとか勝手に言ってしまった。
間違っていたら大問題になりそうだ。




