不死者の死とウェイズの目的
現在ライオネルクローには(炎の獅子)と言う魔法が込められている。
拳の先から炎のライオンが相手に向かって飛び、武器に炎属性を付与する……という魔法だ。
ただ効果のメインは武器の属性付与で、飛び出すライオンは威嚇程度の効果しかないそう。
「とにかくライオンが出れば良い!あとは俺が殴り倒す」
轟鬼が言ったそうだけど流石と言うか何と言うか……。
使える回数は15回なのだけど12回は使用してあるようだ。
試し打ち1回、族長就任式で1回、獣人領内の10の街で各1回ずつ使ったそうだ。
僕たちはマジアルを出て北に向かって歩いている。
ベシコウまでは馬車で1日なので、相談した結果のんびり歩いて行こうという事になった。
あまり整備されていない道の馬車移動に慣れていないのもあるが、カトリーヌが景色が好きと言っているのが大きい。
僕だけなら、サッサと移動してチェインを解除して早く帰還すると焦って行動していたと思う。
異世界に来て3年以上が過ぎた、もちろん寂しくない訳はないが景色を楽しみながらいろいろな出会いを重ねている。
そう考えると彼女の存在は今の僕にとってかけがえのない人になっているんだなと実感する。
ベシコウまでは一本道のはずだが、道から外れた少し向こうに煙が上がっているのが見える。
この辺りは魔物も少し多めなので冒険者が魔物狩りで滞在しているのかな。
道を向こうから歩いてくる人の影が2つ見えた。
ベシコウから首都マジアルへは近いから徒歩の人も居るのか……。
少し近づいて僕はその人物が知った顔だとすぐに分かった。
赤い髪に眼帯をした体格のいい男、背中の大剣を背負っていないが見間違えようがない……シェスだ。
でも、隣にいる男は見た事が無い。
「シェス、久しぶり。今日は1人なの?こちらの方は……?」
不意に話しかけられたシェスは武器に手をかけ身構えてこちらを睨んで話してきた。
「貴様、何者だ。何故俺の名を知っている?」
え?まさか僕を覚えてないのか?
そう思ったが、最後に会ったのってシュバイツに会う時だから、若返っている今の顔では分からないのは仕方がない。
知らない顔にいきなりなれなれしく話しかけられると警戒すると思うので丁寧に話そう。
「えっと、流 幻妖斎です。ほら、ウェイズ殿に助けて貰った、ちょっと顔が若返ってますが……」
「あぁ、幻妖斎か。久しぶりだな」
「ウェイズ殿にお会いして聞きたい事があるのですが、どちらに居るか分かります?」
若返ったことについて何も言われなかったぞ、話が早くて助かるけども。
確か、ウェイズの護衛だし近くにいると思うんだけど、知らない人を連れているから護衛任務とかの可能性もあるな。
シェスは少し考えこんだ。
「良いだろう。マスターは近くに居る。とりあえず一緒に来い。悪いがその女はここで待っていて欲しい」
彼女は婚約者だと説明をしたが同行するならウェイズに会わせないと言われたので仕方なく待ってもらう。
シェスは目を閉じ暫くして目を開け、この辺りに魔物は居ないから1人でも安全だろう、と言った。
案内されたのはさっき見えた煙の挙がっていた場所だ、アイゼンとウェイズが焚火をしている。
日の近くに巨大な剣が見えた、シェスが背負ってる大剣だな。移動に邪魔なので置いて行ってたのか。
「マスター、戻りました。道中で幻妖斎殿に会いマスターにお会いしたいと言うのでお連れしました。同行の女性は街道にて待機させております」
アイゼンは僕の方を見て一瞬だけ戸惑ったようだった。
「久しぶりじゃな。先に用事を済ませたい。シェス、アイゼン、2人は席を外すのじゃ」
ウェイズが言うと2人は、かなり離れた場所まで移動して背中を向けた。
あの位置だと会話も聞こえないだろう。
2人が移動を終わらせたと同時に一緒に来た男性が声を荒げて言う。
「さっさと俺に死を与えてくれ、やっと解放される……早く……」
僕は驚いて男の方を見たが、その顔に生気は無く疲れ果てた顔をしている。
「待って、死にたいなんて、しかもそれを人に頼むなんて変ですよ。ウェイズ殿もそんな事をしたら――」
「うるさい、普通の人間は黙ってろ!俺は不死者だ。自分の歳すら覚えてない。降臨と祝福を2回も経験した。大厄災に会った回数すら覚えてない。普通に死ねないだけがこんなに辛いなんてお前には分からないんだろ。こいつは俺に死をくれる唯一の存在なんだ」
男は僕の方を向いて叫んだ、頬を涙が伝っているのが見える。
不死者ってチェインを解除しないと死ねないんじゃ?
ウェイズは小瓶を男に渡した。
「その中身を飲み干せばお前は死ぬ。もし恐怖が勝るなら、わしがこの手で殺してやろう。数万年も苦しめて、すまなかった」
「ありがとう。これでやっと普通に戻れる……」
男はそう言うと小瓶の中身を一気に飲み干した。
男の体は灰となって消えた、最後に見た顔は安堵の表情だった。
「今のは……」
「今の男は不死者であった。グリアの住人でお前とは違うがの。わしが世界を回っている理由はこれじゃ」
「自分で不死者を作り出しておいて、自分で殺すんですか?何の目的で?」
「わしの善意と言う過ちが招いた災いじゃ。わししか終わらせられん……」
ウェイズは僕に経緯を語ってくれた。
遥か昔、世界に人類が生まれ、種族ごとに各地へと散って行った。
ある時、世界の異常気象で食べ物が減り餓死者が多く出ていた。
人間の村に滞在していたウェイズは、餓死者を減らすために自身の肉を切って住民に食べさせた。
その時まで自身の肉を食すと不死者になる事はウェイズ自身も神々でさえ知らなかったと言う。
その結果、村の人全てが不死者になってしまった。
ウェイズが肉を食べさせたのは異世界人を除くとその村だけで、これから不死者を増やす気はないと断言した。
当時の村の人々は不死になったことを喜び歓喜したのだ。
だが子供が生まれ無くなり、転生を繰り返すうちに村から人が居なくなっていく。
転生と言うのは不死者が80歳を迎えた頃に10歳前後に若返り別の街に転移すると言う現象だ。
孤児院、と言う制度が出来始めたのもその頃らしい、その村は人口がなくなり消滅した。
数百年が過ぎた頃、問題が大きくなってくる。
不死者狩りが始まったのだ、狩りと言っても捕まえて利用するだけ。
何をしても死なないので、おぞましい使われ方をしたそうだ。
食料が無い時代は、切り刻まれ血肉が食料とされる。
争いの時代には兵士として最前線で戦わさせられる。
不死者と言っても死なないだけで痛みは感じるし、能力が上がるわけでもない。
転生をした後、自分が不死者だと分からないように隠れ住むようになる。
創造神から、ウェイズの血を飲めば不死者は不死者でなくなると教えられた。
死を望む不死者を探したが数百年が過ぎ、さっきの理由から不死者は隠れて居所すら分からない。
ウェイズの顔を覚えていた者が死にたいと言ってくることはあったようだ。
中には不死である事を喜び、今でも生活を楽しんでいる者もいる。
まだ多くの不死者が残っていて、死を望むものに血を与えるために世界を回っていると教えられた。
グリアに人間の不死者しか居ない理由はウェイズの滞在していた村が人間の村だったと言う理由だ。
ウェイズはそこまで説明すると小瓶を3本出してきた。
「もし、お主が旅する中で死を望む不死者にあったならこれを渡してくれんかの?死にたいと願うなら飲めと言ってくれれば良い」
「それは良いですけど、その人が不死者か見極める方法はありますか?もし普通の人が飲んでも死んだりするんですか?」
「その者に出身の村を聞いてくれ。ドリバルと言う村の名前なら間違いない。不死者以外が口にしても死なないどころか万病も癒す薬となるが、よほどの事が無い限り与えないようにするのじゃ」
病気を治す薬になるならイリジーンの娘に与えれば……と思ったが注意された。
「今までは不死者以外で飲んだ者の病が治り、寿命が来るまで生きて死んだので不死になる事もなかった。だが、何が起こるかハッキリしていないのじゃ。もし飲んだ者が望まぬ効能が出た時に悲しませる事になる。」
ウェイズは悲しそうに呟いた。
「わしの旅の目的は望まぬ不死者に死を与え、グリアを元に戻す事じゃ……まだ叶いそうに無いがの……」




