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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸編

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特別依頼と特殊な性能

 エルバートは兵士にすぐ指示をした。


「書状を見て返事をせねばなるまい。ラルドなる者を呼び戻せ」


 ラルドについて行っていた兵士が戻ってきて「突然、消えました」と報告した。

 神だから魔法禁止結界がある宮殿内でも転移魔法使えるんだろうけど……目立ちすぎる。


「ラルドさん、かなり動きが早いので見失ったんじゃないですか?」

「うむ、私の目から見てもかなりの実力者だった。だが怪しい人物ではないだろう」


 咄嗟に僕が言った言葉に、師匠が付け足してくれた。

 やっぱり何か感じる物があったのだろうか?


 兵士に捜索するように指示を出して、書状に目を通していた。

 最後まで読み終わった後、兵士に「すぐイリジーンを呼べ」と指示した。


 暫く待って到着したが走ってきたようで息が切れている。

 呼びつけると、また喧嘩になるんじゃないかと心配したがやはり不機嫌そうだ。


「宮殿に呼ぶなんて何の用事だ!」

「まぁ、怒るな。セントスにいる娘の事でエリアマスターのフォーゲル殿から手紙が来た。」

「娘の身に異変があったのか?」

「要約するとだな。イリジーンの娘ラエルに対しフォーゲルの名のもとにセントス内で最高の治療をする。治療が終わるまでの間、家族がセントスに来る際は内部での移動の馬車、食事と宿は無償で提供する。と言う内容だ」


 ギルド通信はもう読んでこんな速さで対応してくれるとは思ってなかった。

 娘さんラエルって言うのか、早く良くなると良いな。


「あのフォーゲル殿がなぜ見ず知らずの俺の娘のためにそこまで……」

「そこの幻妖斎が頼んだようだ。イルとロイド、コデルの3名分の証明書が入っていた。これを検問所で見せれば、その場で馬車を用意して貰えるらしいぞ」


 イリジーンとエルバートにお礼を言われた。

 静養に行くほどなので、結構体調が悪いと思うがフォーゲルに任せておけば大丈夫だろう。

 家族3人で明日から出発して会いに行くと言っていた、顔を見ればラエルも安心して良くなるのが早くなる事を願うしかない。



 師匠と轟鬼が、そろそろ帰ると言うので僕が転移魔法で送ろうとしたがエルバートに止められた。

 宮殿の転移魔導士に任せて欲しいと言われたので、もちろんお願いした。

 

 エルバートに聞きたい事があるので質問する。


「族長ならミューマ大陸に詳しいですよね?この後、北の人間領(ガヴィメズ)と東の小人領(ゼンペリム)のどちらに向かうのがお勧めですか?」

「お前たちはどちらの首都にも行きたいという事だな?東に向かい小人領へ行った後に|人間領が直線距離は短く最短ルートに見えるがお勧めしない。人間領を経由して小人領を目指すのが無難だと思うぞ」

「お勧めしないと言うのは何故ですか?」

「うむ、小人領との南エリア境は千崖谷(せんがいだに)と言って険しい崖のような地形で常人は通行できないのだ。人間領の北部から小人領へ向かえば、まだ少しはマシな道になっているぞ」


 フォーゲルも険しい山道と言ってたけど、そこまで凄い場所なら行って実際に見てみたい気持ちもあるが、不死ではないカトリーヌを連れて危険な場所はマズい。

 登山経験も多少はあるが、現代日本での装備で安全な山道でも結構疲れる、やはり少しでも安全に北へ向かうとしよう。


「それと最も大事な事だが、40日後を目安に一度マジアルへ戻ってきてくれ。その後、少し滞在してもらう事になるので40日後から15日間はマジアルに居て貰う事になると思う」

「40日後だと人間領に入って、少ししたら戻ってこないと駄目ですね。何があるんですか?」

「オリハルコンの精錬が終わっている頃だ、イルの武器製作は使用者を見て作るので一度、お前の動きを見せてやって欲しい。で、50日後から4日間は武闘大会の開催だぞ」


 精錬自体はもう少し早く終わるそうなのだが、早く戻って来てもらうのも悪いと言う配慮で40日後という事になったようだ。

 武闘大会も開催が近かったのね、日程変更と宣伝で大忙しになるそうだが事情が事情なので関わっているドワーフが張り切っているそうで問題は無いそう。

 師匠と轟鬼は初日の予選から観覧すると言っている。

 エルバートは決勝のある3日目と追加の4日目だけで良いと言ったのだが、2人とも今の強者を見てみたい、と言ったそうだ。


 一応僕も参加できないかを聞いたら、即答で遠慮してくれと言われた。

 魔道の部は無理でも武術の部なら可能では?と尋ねたがやっぱり駄目だった。

「本選に出れば武神様と手合わせの機会が出来るのだ。そんな貴重な枠を奪わないでくれ」

 そう言われて納得してしまった。


 ドワーフって小柄な人ばかりだが強い人いるのかな?

 それを言い出すと小人族はもっと小さいけど……武闘大会はどんな感じなんだろう。

 他種族が参加禁止と言う規定も無いようだし、今回は師匠の件もあってどうなるか分からないけど楽しみだ。


「ところでお前はどうしてそこまで武闘大会に出たいのだ?オリハルコンの代金の心配もなくなったし、名声が欲しい訳でもなさそうに見えるが……」


 大会ってドキドキするし嫌いではない、強くはなかったが学生時代に大会に出ていたのを思い出すのもある。

 ただ、一番の理由はハイドとの約束のためだ、ギルドの特別依頼を受けてポイントを貯めると1個貰うためにかなり日数がかかる。

 前回かなり大量に持って行ったので、数個で良いですよと言われてしまったが。

 僕はハイドとの約束をエルバートに話した。


「律儀な奴だな。それなら俺から高難度の特別依頼を出して良いか?」

「高難度の依頼?魔物の討伐とかですか?僕たちで対応できそうなら引き受けさせていただきます」

 

 族長自らが依頼してきて高難度と言うのだからかなり危険な事だとは思う。

 

「マジアルの北に行くとベシコウと言う街があるのだが、そこのダンジョンで素材を取ってきて欲しいのだ。危険なのでダメなら逃げてくれ」


 北にダンジョンの街があると言っていたけど、そんなに危険なのか?

 冒険者に人気、と聞いているから安全なダンジョンだと勘違いしていた。


「ダンジョンの素材ってそんなに狩るのが難しい相手なのですか?」

「うむ。ボスにベヒーモスがいるので、そいつの皮と角を取ってきて欲しいのだが可能そうか?」


 ベヒーモスなら見た事があるし戦ったこともある。

 あの時は、オーラや魔法が使えなかったから苦戦していたら師匠が散華で倒した。

 魔力暴走の制約がない今なら倒せるのではないかと思う。


「多分倒せると思いますが、角と皮を落とさない可能性もありますよね」

「ボスなので、ほぼ確定でどちらも落とすはずだが出ない時は仕方がない。数時間で再度出現するはずなのだが連戦は危険だろう」


 40日後には帰って来ないと駄目なので、あまり遠出も出来ないし直接頼まれて断る理由もない。

 カトリーヌは大丈夫だろうかと彼女の方を見てみたが、幻妖斎様について行きます、とだけ言ってくれた。

 

「ダンジョンは不安か?ライオネルクローをカトリーヌに持たせておけば良いだろう」

「そうですね。これ以上の性能の物は無いでしょうから、そうしておきます」

「その反応だとオリハルコンの特殊性を知らないな。説明しておいてやる」


 エルバートはオリハルコンの、ある特殊な性能を教えてくれた。

 アイテムに魔法を込められると言うので、最初は魔法剣の類と思っていた。

 通常、武器に魔法を付与し魔法剣のように使うには2つ方法がある。

 使用者自身が魔法を武器に付与する方法、アイゼンやシェスが使っている方法だ。

 もう一つは魔法を使える他者が使用者の武器に魔法を付与する方法で僕が雪村たちに使った方法がこれに当たる。


 オリハルコン製の品には魔法を直接込めることが出来る。

 所持者がトリガーとなる極微量な魔力を送る事によって、その魔法を使う事が可能と言う。

 魔法が使えない者でも魔力が全く無いと言う者は皆無でカトリーヌも一応少しはあると言っているから問題なさそうだ。


 利点はもちろん魔法が使えない者でも使用が可能という事。

 難点としては、込める魔法は1種類しか出来ないのと、使用回数に制限がある。

 無制限で使える訳はないので、その点は仕方がないかな。

 ライオネルクローは左右で1つの武器扱いのため左右別々に魔法を込めることも出来ないそうだ。


 高価な物にはそれなりの価値があるんだな。

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