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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸編

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頑固な父と偉くなった友

「早いな、呼んできたか?」


 族長の問いかけに兵士が恐る恐る答える。


「召喚拒否、召喚拒否でございます。それと……」

「何だ言ってみろ」

「言われたままお伝えするようにと言われたためご無礼ですが。『俺に用があるなら直接会いに来い』と仰ってました」


 兵士の答えを聞いてエルバートは拳を握りしめ顔がどんどん赤くなっているのが分かる。

 族長の呼び出し拒否は普通に考えて大変な事は僕でも分かる、さらに会いに来いは罰を与えられても仕方ない言い方だ。


「イルの奴め……それが族長に対する態度か!絶対に許さん。それならこちらも相応の対処をするまでだ」


 大声で叫び机を叩いて、僕たちの方を見もせず出て行った。

 兵士が今日はおかえりくださいと言い族長を追いかける。

 このまま居てもどうにもならないので、僕たちは宮殿を出てロイドの店へ武器を見に行く。


「族長からの呼び出しの拒否って大丈夫なのかな?かなり怒っていたから心配だ」

「ドワーフは分かりませんが獣人だと正当な理由が無い場合、かなりの重罪ですね……」


 帰還の許可と族長の指輪を貰えた喜びより不安が大きくなる。

 僕が行かなければ呼び出されることも無かったんだよな。

 ロイドの店に入るとコデルが気が付いて挨拶してくれた。


 僕たちは族長に会えた事と、オリハルコン精錬職人が召喚拒否して族長が激怒していると話した。

 

「職人?私の言った人なら首都への出入りを国から禁止されているので呼び出しされることは無いのですが、名前ってわかりますか?」

「確か……ホーリアに隠居したイルだったかな?族長の友人とか言ってましたね」

「え?本当ですか?兄も呼んでエルバート様にすぐ謝罪へ行かないと……」


 慌て方が凄いので知ってる人か聞いたら兄弟の父親だった。

 僕たちはロイドの工房に移動して詳しい話を聞くことにした。


「先ほどお話しした、罪人となり国から活動を止められている職人と言うのが私たちの父親です」


 父親の名前はイリジーンと言って製錬から製作まで出来る天才的な職人だ。

 ロイド自身も自分の腕は父には遥かに及ばないと言うほどだ。

 2人が口を揃えて、頑固で性格に難があるのが欠点と言っている。


「でもおかしいですね。エルバート族長は罪人で活動を国から止められてる職人の話をしても知りませんでしたよ。だったよね、カトリーヌ?」

「ええ、そのイル、イリジーンさんに頼めば良いと言ったのも族長でしたわ。とぼけている感じでは無かったです」


 何があってイリジーンが罪人と言われたのかをコデルが話してくれた。


「父と族長は幼馴染でよく喧嘩していましたが仲は良かったのです。頼まれていた剣が出来上がり、エルバート様は大臣と共に受け取りに来ました。出来栄えに感動した族長が『俺の息子の妻にお前のお娘をどうだ』と言ってくれたのです」


 兄弟には妹が居て父親も可愛がっていたようだ。


「その言葉で父が、『娘は物じゃない!本人の意思を聞かずに決められるか』と言って剣を床に叩きつけました。少し口論をしてエルバート様は最後に謝罪を言い、笑いながら帰って行きました。私たちから見てもいつもの喧嘩と言う感じでした」


 性格に難があると言っていたが娘思いの良い父親じゃないか。


「エルバート様がお帰りになった後に大臣が激怒してしまいまして。言い渡されたのは、家紋の入った剣を叩きつけ暴言を吐いた不敬罪だ、今後は族長の許しがあるまで首都への出入りと一切の製作を禁じると言う内容で、私たちには父の名を口にすることを禁止すると言われました。その日のうちに、店はお前たちに任せるといってホーリアに行きました」


 話を聞くと、大臣が勝手に父親を罪人にして追い出しただけに思えるんだけど、家紋入りを叩きつけるのは罪になっても仕方ないのか。

 親の名前を言ってもダメとか意味が分からないな。


「大臣はエルバート様を慕っていたのでお怒りになったのかも知れません。そのシモブクーレ大臣も病気で先日亡くなってしまいましたので真相は不明です」


 族長の息子は好きな人が居てイリジーンとエルバートもその女性の事を知っていたので妻にと言うのは本気でなく、いつも挨拶みたいに言っていたようだ。

 コデルたちの妹は元々病弱だったが父が罪人となった心労から病気が悪化して空気の良いセントスに移り住んだ。

 コデルがセントスに居たのは妹に会うためで、盗まれかけたのは彼女の薬だったようだ。

 もし盗まれていたら妹の命が危なかったと教えられた。


「それならエルバート族長にその話をすれば、イリジーンさんが首都に帰ってくることが出来るのではないですか?首都に呼んでいる時点で許しているとも取れますよね」

「難しいでしょうね。父はエルバート様が下した決断ではないと分かっていると思いますが頑固すぎるのです。きっと謝罪してほしいのではなく迎えに来て欲しいだけでしょう。ここまで大ごとになってはエルバート様は父が家紋入りの剣を投げた事実があるので立場上、謝罪も出来ず引っ込みがつかないのです」


 コデルは僕の問いかけにうつ向いて答えた。


 幼馴染の些細な喧嘩が利用されて大ごとになっているのか。

 イリジーンは頑固なので謝罪する事は無いと思うと息子たちが言っている、ならエルバート族長を説得するしかない。

 ただ、その前にイリジーン本人と会っておきたい。


「ホーリアって、ここから南なんですよね?遠いですか?転移魔法を使える人に知り合いは?」

「道沿いに行けば良いですが整備されていないし、あの辺りは魔物も多いですよ。馬車で4日くらい掛かります。転移魔法が使える知り合いは居ないですし、行って帰ったころには父の罪が……」


 コデルが教えてくれたが片道馬車で4日か。宮殿に行って転移魔法をお願いしようにも今は無理だろう。


「カトリーヌ、僕の力を信じて一緒に来てくれるかい?」

 彼女は僕の顔を見て静かに頷いた。

「明日……いや、明後日の昼までには戻ります」

 ロイドとコデルにそう告げて僕は南の門を出た。


「幻妖斎様、明後日までに帰るってどうやって行くんですか?転移魔法は一度行った場所ではないと使えませんよね」

「飛んでいく」

「え?魔法で浮くことは出来ると思いますけど、早く飛べないのでは?仮にできても目立ちすぎるんじゃないですか?」

「僕にしっかり抱きついて、何があっても離さないでね」


 移動加速魔法は障害物を回避しにくいしカトリーヌを一緒の移動にはむかない。

 ハーピーとの戦いで空を飛べるのか確認済みだ。

 手を放しても良いようにカトリーヌと僕の体を魔法で固定し目立たないように他人からは目視出来ないようにイメージする。


 僕はカトリーヌを抱いて飛んだ。飛行系の魔物が飛ばない高さなのでかなり高い。

 正直、自分でも怖いくらいの速さと高さだけどカトリーヌは大丈夫かな?

 僕に抱きついているので地面が見えないから大丈夫と言っている。

 日が落ちても休まず飛び続け、空が白み始めるころに小さな街が見えた。


 思ったより早く着いたな。

 移動が終わり地面に垂直になったのでカトリーヌに声をかけて空からの景色を見せると喜んでいる。


「綺麗です。こんな高さから景色を見たのってグリアで私が初めてでしょうね」

「この高さだと飛行系の魔物も来ないからね」

「私が言ってるのは、そう言う事じゃないです」


 少し拗ねたように言われた。

 どういう事だったんだろう……。

 

 街の少し手前にゆっくりと降りた。

 空から見た街は小さかったが実際も小さい街で家も少なめだ。

 海に面した田舎町と言う感じかな、ゆったりした時間が流れていて僕は好きな雰囲気の街。


 入場審査も並ぶことなく、すぐ通れた。

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