双頭の龍
「待たせてしまった、すまないな。俺が族長のエルバート・ダミアンだ」
入って来るなり握手を求められた。
古びた手甲のような物を付けてはいるがゴツゴツした分厚い手で驚いた。
自己紹介をカトリーヌが済ませると椅子に座るように促される。
「手紙は読ませてもらった。あいつの頼みなら断れないからな」
轟鬼は『俺の事は覚えてないかも』と言っていたけど、かなり親密な関係そうだ。
「族長エルバート・ダミアンの名において、異世界より来たお前に帰還の許可を与える。それとホレ、これも受け取れ。右手の薬指に付けろ」
何も言ってないのに帰還を認められた上に、この赤い指輪って族長の指輪……だよな?
手紙って内容はどんなことが書いてあったんだろう?
面会できるように計らってくれただけと思っていた。
「すいません、唐突過ぎて。轟鬼……じゃなかったダグラス殿の手紙には何と書いていたか教えていただけませんか?」
「ん?内容を知らないのか。お前たちに関する頼み事は3つ書かれていた。異世界人であるお前が帰還するために俺の許可が要るので認めて欲しい。ドワーフの加護を与えて欲しい。オリハルコンの武器を与えて欲しい。と言う内容だ」
僕が異世界人であることは他言無用で、と書いてあったそうだ。
「僕としては嬉しいです、ただ族長の指輪って簡単に渡して良いんですか?お会いしたばかりなんですが……」
「双頭の龍に認められ、エルフ族の加護まで受けている。と言う建前だがダグラスに頼まれれば断れんよ」
轟鬼ってこの族長とかなり仲が良いんだな。
双頭の龍って何だろう?シュバイツは頭2つないし、そもそも神龍だ。
「残りの3つ目の願いは少し時間がかかる。悪いが待ってくれ」
「はい、オリハルコンの精錬職人が育つまでどれくらい掛かりそうですか?」
「何の話だ?職人は1人だが居るぞ。その者に命じて、すぐ作業させよう」
僕はロイドとコデルに聞いた内容を話した。
「罪人?国から止められている?俺の知らない職人が居るのか?そいつは少し前に突然隠居して何故か南にある街ホーリアへ移り住んだ俺の友だ」
エルバートは兵士を呼び、転移魔法を使ってホーリアへ飛びすぐに呼んでくるように命じた。
兵士の帰りを待つ間、エルバートと轟鬼の昔話をしてくれた。
2人の出会いとライオネルクロー製作に至った経緯、そして製作後の顛末……。
エルバートはライオネル家の宝物庫から内緒で持ち出されたオリハルコンだとは知らなかったようだ。
次期族長が堂々と持って来れば疑いようは無いので仕方無い気もするが、大問題になった。
エルバートは鍛冶職人としては腕が良いが、美的センスが無いため作った武器は不格好で評判が良くなかった。
そのため、ダグラスを騙してオリハルコンを持って来させて武器を作り箔を付けたかったのでは?と疑われたのだ。
今も昔もオリハルコン武器の製作をしたと言うのは職人の誉れなのだと言う。
その結果、決まっていたドワーフ族長への就任が先延ばしになった。
なんか、ここまで聞いたら轟鬼の方がエルバートに借りがありそうな感じしかしない。
轟鬼は轟鬼で大切なオリハルコンを持ち出し、不格好なものに作り変えたと叱責を受けた。
父親に殺されかけたとか言っていたな……。
自分の行為でドワーフに迷惑をかけたことを反省した轟鬼は弟のアルベールにライオネルクローを持たせてエルバートの元に向かわせた。
普通の鉄で同じ形の物をダミアンクローと言う名前で作って欲しい、とお願いをしてきたので製作した。
轟鬼はその後、ダミアンクローを携え1年をかけて、すべての闘技場の武闘大会・武術の部で完全優勝を果たした。
優勝が決まるたびに拳を突き上げ会場で武器の宣伝をする。
この武器はドワーフの友人、エルバート・ダミアンが作った、見た目は悪いが最高の相棒だ!とか言っていたらしい。
元々ドワーフの装具は世界中で有名だったが大会優勝者の宣伝で一気に売り上げが伸びたと言う。
連呼していた「エルバート・ダミアン」と言う名前が知れ渡ってしまい、無事に族長に就任できた。
そして、轟鬼は自分の父親とエルバートの父親に必死でお願いをした。
自分の父には、次回も全大会で完全優勝をするので族長を譲って欲しい。
エルバートの父には、次回も全大会で完全優勝をして族長になるので就任式で友好の証としてライオネルクローを作ったことにして渡して欲しい。
早くから族長にと言う声が高かったので轟鬼の父親は問題なく許可してくれた。
エルバートの父は、今の族長は私ではないので今の族長が決めればよい。と言ってくれた。
こんな事が出来たのはライオネルクローを宮殿内で製作したため一部の重鎮しかその存在を把握していなかったからだ。
ダグラス・ライオネルの族長就任式でライオネルクローと魔鉄で作った同型のダグラスクローが公式に贈られた。
非公式でライオネルクロー作成と同量のオリハルコンが獣人の宮殿に贈られ宝物庫へ入れられた。
それ以降、2人は手紙のやり取りは何度かあるが、顔を合わせる機会が無いまま今に至ると教えてくれた。
「それなのにあの野郎、数年後に族長を弟に譲りやがった。理由を知ってダグラスらしいと思ったがな」
「理由って何だったんですか?」
「知らないのか。『武神のジジィを倒すまでは帰らねぇ』そう言って出て行ったそうだぜ。まぁ弟の協力もあったんだがな」
そんな理由で族長を降りたの?
アルベールも自由気ままな兄を持つと苦労してるんだな。
「結果は知らねぇが、更なる強さを得て帰ってきたのは事実。その後に起きている厄災においてステルドでは、ほとんど被害が出ていない。全てダグラスの力だ」
族長は厄災が起きている間は緊急に備えて首都に居る必要がある。
族長を降りたため厄災時でも要請があればその街へ向かえる。
全大会の完全優勝者で前族長が来てくれたと言うだけで街の人の安心感は凄いらしい。
さらに武神が、私と張り合える唯一の者、と公言した事もあって名声が一気に高まった。
アルベールの力も大きい。
首都で的確に部隊を編成し、足りない街へ兄を向かわせる。
もちろん兄程ではないが強い。
そのため首都も安心して任せられるそうだ。
「世界中で双頭の龍などど言われ有名になっちまったからな」
「双頭の龍って?」
「武神の疾風流妖斎と獅子王のダグラスの2人の事だ」
「獅子王?初めて聞きました。獣王と言ってる人は居ますけど……」
「獅子王と言うのは武神が付けた呼称だな。獣王と言うのは獣人の族長の事だ。本来はアルベールの事を言うがアルベール本人が『獣王は兄のダグラス』と公言している」
獅子王か、ライオン族の獣人だし師匠っぽい呼び方だ。
「ダグラス本人は族長を辞めてから、自分の事を獣王と言ったことは無いと思うぞ。そう言えばお前がさっき言っていた轟鬼と言うのも武神が付けた呼び名だな」
「初めて知りましたわ。ずっと獣王の娘と言っていたのはアルベール叔父様に失礼な事をしていたんですね」
カトリーヌが申し訳なさそうに言っている。
「彼はそのような事を気にする小さな男ではない。これからも獣王の娘と名乗る方が喜ぶと思うぞ」
さっき出て行った兵士が息を切らせて入ってきた。
転移魔法だと流石に早い。
訓練されている兵士がここまで疲れているとは、かなり急いだんだろうな。
顔色が悪いのは疲れているだけか?




