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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
出会いと修行編
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人間じゃないの?

 今日は師匠が朝から留守にしている。

 定期的に街に食料を買いに行っているのだ、肉は魔物や獣を狩ればいいのだが穀物や野菜はそうはいかない。

 修行をサボることはないけど少しリラックスしてしまう。

 

 遠くの方に人影が見えた。来客自体はたまに居るので珍しくないが遠目でも武術の心得があるとわかる歩き方だった。

 ウェーブのかかった黒髪が肩まで伸びていて筋肉ムキムキ、地球で会っていたら関わりたくない外見。

「ジジィは居るか、久しぶりに来てやったぞ!」

 30メートルは離れてるのにハッキリ聞こえる声だった。僕に気が付くと近づいてきた。

 身長は僕より少し高いくらいだけど体の筋肉の付き方が違う。

「ここは疾風 流妖斎と言うジジィの家のはずだがお前は誰だ、この家には金目の物などないぞ」

「ぼぼぼ……僕は師匠に教えを――」

「お前がジジィの弟子だと?ジジィの弟子なら拳で語れ!本物ならばな」

 男は戦闘態勢をとっているが襲っては来ない。

 闘気を見ると師匠ほどではないが強いと分かる。今の僕では多分、いや絶対勝てない。

 逃げたかったが師匠をジジィなんて言われて嬉しくはない。反射的に僕は闘気を身に纏ってしまった。

「なるほど、この俺様相手にやろうっていうのか!人間風情が!」

 男が襲い掛かってきた……が師匠より遥かに遅くてこれなら普通に避けられる。

 避けて攻撃のチャンスをうかがっていると、ドスンと背中に何かが当たった……家の壁だった。

「速さはある。ただ戦闘経験が浅いな」

 腹に一発パンチを食らったが耐えられない痛みじゃない。

 男に腕をつかんで反対方向に投げられた。

「なぜ闘気を抑えている、全力で開放して向かってこい」


 闘気を抑える修業はしていたが開放する方法はよくわからない、抑える方法と逆のイメージでやってみる。

 イメージを外に膨らませるように……体がさらに温かくなってくる感じがする。

「ほぅ、なかなかに良い。全力で俺様の腹を殴ってみろ、避けないで居てやる」

 言われるがままに全力で打った結果は男の体を数センチ後ろにずらす程度だった。

「良い闘気だ、お前は自分の実力を過小評価していそうだが相当強いな」


 男は姿勢を正し態度が変わったように話し出した。

「貴殿の名前は何と申す?」

「僕の名前は…………えっと、その……」

「なるほどその反応、流妖斎と同じくこの世界の外から来たものか。言いにくい理由があるなら聞かないでおこう」

 師匠が地球人と知っているのなら問題ないのかなと思って名乗る。

「いえ、尾綿 人生と言います」

「尾綿 人生か、その名前覚えておこう。名前を聞く前に自分から名乗るのがお前たちの世界の常識だったか、失礼なことをしたな」

 そう言うと男は自己紹介をしてくれた。

「俺の名前は本名ダグラス・ライオネル。今は轟鬼(ごうき)と言う名を名乗っている。種族は獣人だ」

「え?獣人?どう見ても普通の人間ですよね?耳があったり尻尾があったりとはないんですか?」

 轟鬼は不思議そうな顔をして少し考えこんだ後に思い出したようにつぶやいた。

「お前のイメージは獣人系の亜人の事だろうな。通常、獣人の普段の見た目は人間と変わりない」

「そうなんですね、この世界に来て獣人に会うのが初めてなのです、もし失礼なことを聞いてしまったのなら申し訳ありません」

「あー気にするな、話し方で悪意がないのは分かっている。見たければ獣人化した姿も見せてやろうか?普通は見せないが流妖斎の弟子なら特別だ」

「もし良ければ見てみたいですが、興味本位でしかないので……」

「好奇心があるのは良いことだ」


 そう言うと轟鬼の姿が変わった、爪が伸び体毛が生え……これってライオン?

 一番の違いは何といっても闘気が格段に強くなっている、師匠より強いんじゃないか?

「もちろんこの姿でも会話は可能だが、とりあえず人型に戻るぞ」

 人間の姿の状態より低く響く声でそう言うと元の人間姿に戻っていた。

 初めて人間以外の種族に会ったけどライオンだし少し驚きはあったが人型を見ていたので恐怖はなかった。

 ライオンの獣人姿でいきなり来ていたら魔物と勘違いしていた可能性もあるけど。

「初めてで驚いたと思うがこんな感じだ、これから他の獣人とも会う機会があると思う。獣化したときに外見が違うだけだと思ってもらえばいい、良いやつもいれば悪い奴もいるが人間も同じだろう」

 確かに人間にも悪い奴はいるし轟鬼も話していると悪い人と言う感じはない、疑問があったので質問してみた。

「轟鬼様、失礼を承知でお聞きしたいのですが、獣人は一人二人と数えていいのですか?それと普通は人間の姿で居るのですか?」

「そうだな、獣人を見下してる一部の人間は匹とか体で言う奴もいるが一人二人で問題ない。通常は人間の姿で生活している、いくつか例外はあるが獣人の街以外で獣化しているものが居たら戦闘中か威嚇していると思えば良い。最後に1つ、俺はお前の師匠ではないのだから名前に様は要らん」

「わかりました、轟鬼殿と言わせていただきます。師匠はもう少しで帰ってくると思います。中へどうぞ」

 家の中に案内しようとする僕に一言。

「暇なので待つ間お前と手合わせしたい」

 しばらくの間、手合わせをしながらいろいろ教えてもらった。

 

 気が付いたらお昼を過ぎ師匠が荷車を引いて帰ってくるのが見えた。

「轟鬼ではないか、久しぶりだのぅ。相変わらず元気そうでまた一段と力をつけたようだの」

「ジジィも相変わらずジジィだな。新しい弟子だ出来たようだが筋が良いな、逃げないでこの俺に向かってきた」

 その後、二人は雑談をかわしていたが、泊っていくか?と言う師匠の問いに用事があるからこのまま街に行くと言うと雑談が終わった。


「この男は私の弟子なのだが後々、獣人のエリアを訪れる事があると思うんじゃ。エリア内で安全に移動できるよう仲間に言っておいてもらえると助かるの」

 師匠が立ち去り際に轟鬼にお願いしてくれた、かなり強いから獣人の中でも有力者なのだろうか?

「こいつの今の力なら上級兵長くらいまでは何とかなるので問題ないと思うが一応言っておこう、俺の発言権などたかが知れているので油断はするなよ。それとこれを右手の人差し指につけておけ。獣人相手に問題が起きたときに俺の名前を出しこの指輪を見せればある程度は何とでもなるはずだ」

 青色の指輪を投げてきた。

「俺の本当の名は憶えているか?ダグラス・ライオネルだ忘れるな。俺もお前の名前を忘れないようにしよう、尾綿 人生よ」

 

 轟鬼が去った後、荷物を倉庫に運び入れ終わった。

「轟鬼から聞いたが闘気の全力開放をしたそうだな、獣人だけあって腕力や闘気のパワーだけなら私より上だから、あの男が認めていたから筋は良いのだろう。今やってみなさい」

 僕は言われるがまま全力開放をした闘気を見て告げられた。

「お前は私や轟鬼のように素手で戦わず短刀を使用する。そうなると闘気は防御には使えるが攻撃には使えない。そうなるとオーラを使えるようになる方が良いのじゃが魔素と関係するので基礎魔法を学ばないとどうしようもない、私は教えられないのでここで学ぶべきことは一通り終わった、あとは毎日たゆまず努力しなさい」


 突然だった。


「僕の力ではまだまだ……」

「お前の目標は強くなることだけか?元の世界に帰るにしてもこの世界で生活するにしてもここにずっといても何も変わらない。世界は広い色々見てこのグリアと言う世界を知りなさい」

 確かにそうだ、ここに来て2年近くになる。師匠が認めてくれたと思わなければ。


 その後師匠と最後の手合わせをした、何も特別なことはない、いつもと同じ内容だった。


 朝起きると師匠が薪割をしていた、その手を止めて僕の方を見つめる。

「卒業したら私の弟子であったことは言っても良いが自流を名乗りいつか私を超えなさい。お前はこれから流 幻妖斎(ながれ げんようさい)と名乗りなさい、この名前が私からの最後の贈り物だ」

「わかりました、落ち着いたらまた来ます」

「あぁ、私はずっとここに居るよ」

 その顔は少し寂しそうだったが嬉しそうでもあった。


 そして僕は師匠の家を出た。

 流 幻妖斎を言う名を得てまだ見ぬグリアと言う世界の中へ歩いていく。

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