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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
緩衝地帯セントス編

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師匠の話

 師匠からの手紙を見て心配になった。

 危険なので、と言うようなほどの教えとは何だろう。


 フォーゲルに手紙を見せた。

「早く行った方が良いな、カトリーヌへの説明は後で良い。お前の不在中はラルドに護衛をさせよう。塔の中なら転移魔法が使える」


 昼を過ぎているので明日にでも行こうかと思っていたが急いだほうが良さそうだ。

 僕たちはネーブルタワーに早足で戻る。


「塔って魔法禁止じゃないんですか?」

「お前が来た俺の居室、理由は分からないがあのフロアは魔法が使えるのだ。」

「カトリーヌを置いて行くのは不安ですがお任せしますよ」

「ハハッ、俺とラルドが居るのだ。手を出す奴がいればお前が帰る頃、そいつは生きてはいないさ」


 ラルドが神って事はフォーゲルも知ってるのはラルド自身も言っていた。

 正体を話すと愛する者を殺す。と言われたのがフォーゲルにもダメなのかを聞いてない。

 今度ラルドに確認しておかないとダメだ。

 

 フォーゲルが塔に手をかざすと魔法陣が浮かんで内部に転移していた。

 塔への入り方はどうやるんだろう?

 帰りは転移魔法でここに来れば良いと言われた。

 今回だけの特例で普段は出来ないそうなので気を付けろと教えてもらう。


「俺も行きたいがエリアマスターと言う立場上、今はセントスを離れられない。師に不義理を詫びておいてくれ」


 転移しようとした時に言われた、厄災の後処理などで結構大変なようだ。

 セントスの特殊性もありエリア外には出にくいようで武闘大会の時もすぐ帰ったのはそう言う理由らしい。



 師匠の家の近くに転移してきた。

 気配で分かったのか家の外に出てきてくれた。


「手紙を読んだようだね、あの時よりもさらに強くなったようだ」

「はい、先日はありがとうございました。それとフォーゲルも会いに来たいと言ってましたが職務で来ることが出来ず申し訳ありませんとの事です」

「そうか、あの男も含め弟子たちには悲しい思いをさせてしまった。詫びなければならないのは私の方だ。息災であれば良い」


 フォーゲルの名前を聞いて優しそうな表情になった。

 師匠の弟子で生き残っているのは僕とフォーゲルだけなんだよな。

 

「伝えたい事と言うのは闘気のコントロール方法の事だ」

 

 師匠が言ったのは予想していた内容とは違った。

 手紙には『危険』と書いていたので秘奥義を期待していた。

 闘気コントロールなら(散華)に使うコントロールのやり方だろう。

 方法は叩き込まれているし実戦でも使っているが危険な方法ではない。


「散華を打つ様に拳に闘気を集中させてみなさい」


 僕は闘気を纏い、拳に闘気を移動させ集中させる。

 威力は上がっていると思うが師匠の技のように拳が光らない。


 それを見て師匠が僕にこう言った。

「基本に忠実で良く鍛錬された美しいコントロールだ」


 あれから練習してかなり速く闘気を拳へと集中できるようになった。

 それでも結果的に散華が出来ないのだから褒められても正直嬉しくない。


「散華に使用するコントロールは瞬練と言う特殊な方法になる、それを教えよう」

「特殊な方法なんですか?」

「普通は使用しない方法になる、使い方を間違えると危険なので他人には教えないようにしなさい」

「はい、分かりました」


 はい。と返事をしたけど使い方を間違えると危険と師匠が言うほどの方法なのか。

 僕に出来るだろうか?


 その心配は必要なかった。

 基本が出来ていたため結果的にすぐ会得することが出来た。


 方法は簡単で、全身に闘気を纏い右拳に闘気を集中させる。

 その感覚を覚えておく、何度か繰り返し感覚を覚えることでこの動作は不要になる。

 再度全身に闘気を纏った状態から闘気を一度消して右拳に集中した感じで一気に出す。

 瞬間的に闘気を拳に集中させて強く打つことで膨らんだ風船が割れるように弾けて威力が上がるそうだ。

 

 師匠が危険と言ったのは、この方法を闘気ではなくオーラで使用した場合だという。

 自らの命が危険になるだけでなく自分を中心に周りの人も巻き込まれ広範囲で死者が出るほどだというのだ。

 もちろん威力は想像を絶するほどでこれを受け生きている者は居ないだろうと師匠はいう。

 すべての闘気を拳に集めるため攻撃や反撃を受けると自分が致命傷を受ける。

 瞬練と言うコントロールは散華だけではなく他の攻撃に応用も可能なのだが捨て身技なので普通は使わないそうだ。


 闘気での散華でもベヒーモスを倒したのだからかなりの威力だ。

 間違えてもオーラで使用するな、と忠告された。


 謝っておかないといけない事があるのを思い出した。

「師匠、実はその……」

「何か言いたい事があるのなら目を見てハッキリ言いなさい」

「頂いた短刀が1本壊れてしまいました、すみません」


 僕は砕けた短刀をポーチから取り出して見せた。


「そう言う事か、形あるものはいつか壊れる。無謀な使い方をしていないなら謝ることは無い」

「はい、今は新しい短刀を探しています」

「私の弟子なら他の武器でも戦えるであろう、一通りは教えたが今一度見てやろう」


 師匠に促され様々な武器で手合わせをした。

 トレーニングはしていたが短刀と格闘以外は少しレベルが低い。

 弱くなっているのではなく短刀と格闘の熟練度が上がったからのようだ。

 エターナルファントムを見せると「良い動きだ」と褒めて貰えた。



 一通り手合わせは終わって武器の感覚も慣れて来た。

 家の中に入りお茶を飲み休んでいる。

 僕は師匠のことを私生活をあまり知らない、大厄災の件も知ったのはつい先日だ。


「師匠が大厄災を1人で終わらせたと聞きましたが本当なんですか?」

「正しいとも言えるが正確ではないな、多くの人々の助力があった。私だけの力ではないよ」


「当時、大厄災は被害を抑えながら耐えるしかないと言われていた。実際あれは天災のようなものだ」

「そんなに凄いんですか……」

「サクラが『少しでも早く終わって欲しい』と泣いていた、だから私は邪龍を全て倒すことに決めた。」


 サクラと言うのは師匠の亡くなった夫人の名前だ。

「私は持てるだけの武器を持ち討伐に出かけた、小さいながらマリスのポーチを持っていたからね。最初は蛮勇だと皆に笑われたものだ」

 龍を相手に人間が勝つと思っても無いだろうし笑われるのは仕方がない事なんだろう。

「エリア移動で馬を用意してくれた街の人、邪龍の近くまで転移させてくれた魔法使い、壊れた武器の代わりを差し出してくれた冒険者……皆の協力があった、私だけの力ではない」

「隕石を割ったという話も本当なんですか?」

「街に当たりそうな軌道の隕石をオーラで街外れに着弾位置をずらせただけで割ってはいない」


 隕石の軌道を変えるだけでもすごい事だと思う。

 

「いくら不死と言っても体はボロボロだった、私が武の神に好かれたのはその時だろう。大厄災の後に武神などと称えられたが実際は多くの被害者が出ている」

「それでも、かなり早く終わらせた功績は称えられるべきと思います」

「私はサクラを愛している。彼女の笑顔が戻った……それだけで満足だったよ」


 師匠とフォーゲルは夫人を愛していると言い切る、カトリーヌも僕に言ってくれた。

 僕はどうだろうか、言葉にしないけど好きだし愛しているというのも嘘ではない。

 でも日本に帰りたい気持ちが強くてカトリーヌが死んだら師匠たちのようにグリアに居たいわけではない。

 彼女が僕を思うのと同じくらいに思えているだろうか?

 考えたら考えるだけ不安な気持ちになる。


 全てが終わりグリアでの最後に僕は何を思っているのだろう?

 カトリーヌが僕といた時間を後悔しないように願うだけだ。

 そう考えると彼女に会いたくなった。


「今日は泊って行くか?」

「いえ、このまま帰ります」

 師匠の誘いを断ってしまった。


「そうだな、カトリーヌを大切にしてあげなさい」


 師匠は微笑んで僕を送り出してくれた。

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