届いていた手紙
ネーブルタワーの前まで来たが人の気配は全くない。
塔は入るものを拒むように入り口が無い。
入り方をラルドに聞いておけばよかった。
塔の壁をノックしたり触ったりしたが変化はない。
聞きに戻るか。ドワーフが経営してる食堂に居るんだよな。
そう思って塔を見上げると一羽の小鳥が舞い降りて来た。
小鳥に目が行ったのは偶然ではない。
綺麗な空色をして澄み渡る鳴き声で降りてきたのだ。
目の前で光ったと思ったら塔の中に居た。
フォーゲルかラルドの力かな?
最初に入った場所とは違い生活空間のようだ。
「お前、どうやってここに入ってきた?」
フォーゲルが不思議そうに声をかけて来た。
「空色の綺麗な小鳥が光って、ここに来ましたけどラルドさんの力かな?」
「なるほど。そう言う事なら問題ない。妖精の世界と神の力はどうだった?」
「勉強になりました。フォーゲル殿は元の世界に戻るのを完全に諦めたのですか?」
「ん?何を言っている?俺は諦めていないぞ、チェインを解くことを中断しているだけだ。これを見ろ」
そう言うと両手の甲を見せて来た。
傷が6つしかない、つまりチェインを4つ解除しているという事か。
以前聞いた時に禁止事項に当たると言っていたので諦めては無いという事だよな。
諦めてるならそんな事を気にしなくて良いし。
「俺は不死になり、師の弟子となったために妻が殺されてしまったがグリアは嫌いになれない。彼女はセントス生まれのセントス育ちの人間で、ここが好きだった」
フォーゲルは夫人を思い出しているのか優しさと寂しさが混じった顔をしている。
「彼女の育った街は俺が守る。暫くの間はな、その間はチェイン解除を中断しているだけさ」
「暫くと言うのは……?」
「フッ、妻の顔を声を思い出せなくなるまでだ。俺は不死とチェインを利用させてもらう。彼女が俺の中で生きている限りセントスは俺が守り通す」
確固たる意志は彼の力があればできる事だろう。
武神と同等の力を持ち、霧の魔剣を持っていて攻撃が当たらない上に不死。
しかも風の神までが力を貸しているのだから勝てる可能性を探すより争わない方が良い。
治外法権が認められているのもある意味納得できる。
「フォーゲル殿はここに住んでるんですか?」
「ここで寝泊まりしている。それと『フォーゲル殿』と言うのはやめろ。堅苦しい、フォーゲルで良いぞ。」
話を聞くと、夫婦で生活していた家はセントスの孤児院になっている。
夫人は子供が好きだったので将来は身寄りの無い子が安心して成長できる場所にしたいと言っていたから孤児院にしたらしい。
武神の弟子という事で自分も弟子を取るつもりで大きめの家を建てたので良かったと言っている。
他国と違いセントスの孤児院は犯罪に巻き込まれる子供は皆無のようだ。
フォーゲルが街を案内してくれるというので付いて行く。
セントスに来る者は他種族の品を求める場合が多い。
そのため西のゼルディア大陸方面にはドワーフや小人が、東のミューマ大陸方面にはエルフや獣人の店が多いのだという。
セントスに来て商談をする際には中央部分が使われるので個室があったりする店は中央部に多い。
「彫金細工の注文を受けてくれる腕の良い方って居ないですか?」
「彫金……あぁ、カトリーヌへのプレゼントか?それならシルビアの店が良いな」
メインの通りからちょっと外れた所に小さなお店がある。
「いらっしゃいませ、ごゆっくり見ていってください」
中に入ると細やかな細工の小物や調度品が並んでいる。
彫金と言うから小人かと思ったら人間の女性だった。
「作って欲しい品物があるのですがお願いできますか?」
そう言うと女性は奥に入って誰かを呼んでいる。
出て来たのは僕のひざ位の身長の女性だ。
ドワーフよりかなり小さい、小人族だろう。
「特注を頼みたいのはあんたかい?どんな物が希望か言ってみな、それから考えるよ」
僕はマリスのポーチからカトーレイヌを取り出して見せた。
この時のために1本だけ置いておいたがポーチの中は時間経過が無いため瑞々しいままだ。
「婚約者にプレゼントしたいんです、この花のブローチを作って欲しいのですができますか?」
「形は問題ないね、ここまで鮮やかな朱色の発色だと時間が少しかかりそうだけど可能だよ。代金は金貨50枚するが良いかい?」
「ぜひお願いします。シルビアさんで良いのかな?」
店番の女性がシルビアの可能性もあったが小人族の女性がシルビアであっていた。
不思議そうに名前を知ってた理由を聞かれたのでフォーゲルの紹介だと伝えた。
「誰の紹介でも出来が変わることはないけどエリアマスターに認めてもらえて悪い気はしないね。完成は期待していていいよ」
「ありがとうございます。どれ位で取りに来ればいいですか?」
「ギルドの通信で連絡するから、たまに確認しておきな。2か月は見ておいてくれ」
申込書みたいな紙にギルドカードの情報を書かされた。
ギルド通信って何だろう?
登録の時にそんな説明受けてないけど商人が知っている位だからギルドに言って確認しないとな。
帰り際に、近いうちに贈る相手を連れて来いと言われた。
着ける相手を見て似合いそうなデザインにするそうだ。
特注の件は内緒にしておくから安心しろと念押しされた、渡す時まで秘密にしたいしね。
外で待っていたフォーゲルに冒険者ギルドの場所を聞く。
通信の事を聞いたら初歩的な事だったようで呆れられた。
ギルドの登録名などの情報が分かっていればギルドに100文字までの制限はあるが手紙をお願いできるそうだ。
送信者名がリストで見ることが出来て必要な物だけ受信できる。
費用として1通につき銀貨1枚が受信時に掛かるが冒険者の間では常用されていると教えられた。
手紙で銀貨1枚って結構高額と思うけど転移魔法で送られてくるので仕方ないようだ。
以前、師匠が伝書鳩みたいなのを使っていたから、そんな便利な物があるとは知らなかった。
鳥による連絡は住所がハッキリしていて定住している高ランクの冒険者か一定の名誉者のみに使われるようだ。
ギルドについた。
フォーゲルと共に中に入ったのでギルド職員が慌てている。
そう言えばこの人、族長と同等な権力者のエリアマスターなんだよね。
受付で要件を伝えると3通預かっていると言われた。
差出人は鵜藤雪村、ダグラス・ライオネル、疾風流妖斎でもちろん全て送ってもらう。
手数料を払うとすぐ転送されてきた。
送信してきた相手の情報が分からなくても、こちらから返事が出せるようなので読んで返事を書いておこう。
『流幻、元気か?俺たちは無事だ。厄災の後、獣人領に来た。また機会があれば会いたいな。鵜藤雪村』
雪村たちは獣人領に居るのか。返事はこんな感じで良いかな。
『みんな無事で安心したよ。僕たちはセントスから東に行く予定。また会いたいね』
『娘と仲良くしているか?スピリエはすぐに鍛えてやる。お前たちの結婚も近いぞ。ダグラス・ライオネル』
スピリエ頑張ってるかなぁ?数日前まで一緒に居たんだけど一応返事を。
『セントスに到着しました。もちろん仲良くしてます。あまり急がないように鍛えてあげてくださいね』
あまり長文の手紙を書くことはないけど、こういうやり取りもたまには良いな。
最後は師匠からの手紙か、どんなことが書いてあるんだろう。
緊張しながらも少し楽しみだ。
「お前に伝えたい教えがある。危険なので時間があるときにカトリーヌを連れずに来なさい。疾風流妖斎」
手紙にそれだけが書いてあった。




