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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
緩衝地帯セントス編
51/135

愛していますか?

「お前は地球に戻るのだろう?これで思い残すことも無いな、感謝して貰いたい」


 こいつは何を言っているんだ。

 目の前で婚約者を斬殺しておいて感謝しろだと?


 敵を倒す、大切な人の仇を必ず討ち取る。

 短刀を振りぬくとフォーゲルの剣を弾いて攻撃が当たった。

 反撃されて僕も傷ついているが回復速度が上がったため問題無い。


 怒りに任せて全力で連続攻撃を叩きこむ。

 彼の回復速度よりも早く強く。

 死なない事は分かっているが首を切り落とす!

 その好機が巡ってきた、僕は全力で変を振り抜いた。


 手ごたえが無い、フォーゲルの体が霧のように消えた。

 霧の魔剣士と言うのはこう言う事か。

 それから僕の攻撃はまったく当たらなくなった。


「この剣は(霧の魔剣ミストラル)と言う。所有者に対して攻撃が当たらなくなるのだ。そして俺の異名はここから来ている」

 

 結局この男には勝てないのか。

 攻撃を止めた僕にフォーゲルが呟いた。


「わが師の短刀術の最高傑作である回転剣舞・八重桜をお前は使えるだろう。見せてくれないか?お前はこの場でもオーラを使えるはずだ」


 神龍の涙を飲んでいることまで知っているのか。

 師匠の最高技を霧となって無効化してまた罵るつもりかも知れない。


 武器を構えてフォーゲルの傍に歩いて行く。

「行きます。これが回転剣舞・八重桜」

 体を回転させながら素早く8回切り込む。

 

 技を打つと同時にフォーゲルは剣を仕舞い、両手を広げ全ての攻撃を受けた。

 オーラを使用していたので彼の体は切り刻まれている。

 すぐに回復して元通りになっているが……。


「何故、避けなかったんですか?」

「お前の婚約者を利用した償いだ、それにあの技は俺が学べなかった数少ない技だからな」

「そんな事をされてもカトリーヌは……」

「よく見ろ、人形だ」


 床には人形の頭が転がっているだけだった。


「怒りは力を強くするが判断力が鈍る、今の感じを忘れないようにして冷静さを保てば更に強くなる。まさに清流が激流になるかのようにな」


 確かに力強く攻撃できていた。感情をコントロールして上手く使えるようになれば良いのか?


「お前は強くなった、自分でもわかるだろう。これから先、神と対峙する事がある。その時に小手先の速さで誤魔化さずに全力で行け。どうせ死ねないのだ」


 フォーゲルは僕の知らない事をいくつか教えてくれた。

 特別な不死者は肉体が激しく損傷すると回復時に強化される。

 さらに繰り返すことによって回復にかかる時間が短くなる。

 師匠もフォーゲルも神龍の涙は飲んでないと教えられた。


 大賢者はここには居ないしフォーゲル自身も会ったことは無いそうだ。

 カトリーヌを退席させた理由は2つで僕を強化するために傷つけるのを見せないため。

 もう1つは結界がシェルターになると言う仮説を彼女が知ると誰を結界内に入れるかの問題が起きる可能性があるという事だった。

 確かにそれが分かってしまうと我先にと混乱が起こりそうだ。

 被害が出るのは心苦しいが争いの種になるので誰にも言うなと念押しされる。


 どうして元の世界に戻る事を諦めたのかを聞いてみたが、禁止事項に該当するため教えられないと言われた。

 シュバイツから聞いた禁止事項にそんな事は無かったような気もするが……。


 

 フォーゲルが指を鳴らすと地面が光ってラルドとカトリーヌが現れた。


「幻妖斎様、お話は終わりましたか」

「無事だったんだね、カトリーヌ」

「え?ラルドさんとお茶を飲みながらお話ししてただけですよ」


 安心して僕の目に涙が滲んでいるのも見られたようだ。

 気が付いたら彼女を抱きしめていた。


 不思議そうなカトリーヌに何があったか話す。

「私のために怒っている幻妖斎様を見てみたかったです」

 第一声がそれだったからフォーゲルも「利用されて怒らないのか?」と困惑していた。


「俺の妻は人質にされ殺された。武神の弟子を倒すと言うくだらない理由でだ。あの頃と世間も変わってはいるが気を付けろよ」

「こう見えても私って結構強いんですよ」

「ハッハッハ、分かっているよ。セントス内での自由と安全は俺が保証しよう。ラルド、任せるぞ」


 ラルドは静かに頷いた。


「そう言えば前から疑問だったんですけど師匠は何故武神って言われてるんですかね?」

 本人から聞いてはないけど全種族から崇拝されていると聞いたことがある。

 弟子を倒すだけで名声を得られるって師匠はどんな事をしたんだろう?


「無知と言うのは恐ろしいな、師は自ら武勇を語る人ではないが何も知らないとは」

「幻妖斎様、流石にそれは失礼すぎますわ……」


 フォーゲルはともかくカトリーヌにまでそこまで言われるとは思わなかった。


「分かりやすく言うとだな、大厄災を1人で2か月と言う短期間で終わらせたのだ」


 大厄災を1人で終わらせた?


「大厄災は2年近くの時を耐えるか、各地に現れる邪龍をすべて倒す以外では終わらない。天変地異で荒れ果てた土地を単独で駆け東西の大陸の邪龍全てを1人で倒したのだよ」

「文献に残っている大厄災で邪龍を全て倒して終わったのは前回だけ。と言えばその凄さがお分かりになるのでは?」


 そんな事をしていたとは知らなかった。


「私はまだ生まれてないですし多少の誇張もあると思いますが『光る拳で隕石を砕き邪龍を倒し平穏をもたらす、その姿まさに武神なり』と書かれていますわ」


 大厄災終結後に各国が多額の報奨金を用意したが、それすらも「復興に使え」と断った。

 フォーゲルが直接聞いた話では、「当時はまだ妻が健在で悲しむ姿を見たくなかったから邪龍を倒しただけ」と言っていたそうだ。

 弟子をとり始めたのはその後なのでフォーゲルは夫人を見た事は無いのが残念だと呟いていた。


 ちょっと待って……大厄災って100年前とかだよね?

「師匠が不死者なのは有名な話なのかな?」

「本人は隠してないと思うが?まさかそれも知らなかったのか?」

「グリアって何故か昔から結構な数の不死者が居ますからね、あまり気にされてないのかも知れないですわ」


 ウェイズの肉を食べたら不死者になるってのは言わない方が良いだろう。

 不死者だらけになっても怖いしな。

 シェスとアイゼンの護衛を突破して肉を切り取るとか不可能だろうけど……。



「お前たちはいつ結婚するのだ?あまり女性を待たせるものじゃないぞ」

「それは……確かにそうですね」


 族長に挨拶も済んだしいつ結婚しても問題は無いだろう。

 カトリーヌから予想外の返事が返ってきた。


「最低でも2年は無理ですわ」


 え?確かすぐにでも結婚したいと言っていたんだけど何か心変わりが?


「スピリエがセリアージュちゃんと結婚すると決定しましたので、輿入れの準備で1年、結婚の祝賀期間の1年は家族は結婚を控えるのが習わしです」

「そんな風習があるんだね、あの2人には幸せになって欲しい。2年も待たせるけど良いのかな?」

「2年で済めばいいのですけど……」


 カトリーヌが言うにはセリアージュの方は規則や礼儀などを叩きこまれるようだけど覚えが良いので1年もあれば問題は無い。

 問題はスピリエで父であるアルベールに強さを認めて貰えないと結婚できないのでそれが1年で終わるかが心配のようだ。

 轟鬼が張り切って「鍛えてやる」と言っていたのはその為か。


「幻妖斎様、私のことを愛していますか?」


 不意に聞かれた。

 

「ももももも……もちろんだよ」

「それなら、キスしてください」


 僕の顔を見て彼女は瞳を閉じた。

 これはキスをしないと嫌われる流れか?

 2人きりでも緊張するのに。


「ハッハッハ、カトリーヌ。そいつの国では人前でキスはしないのさ。結婚式まで待ちだな」

 フォーゲルが助け船を出してくれた。

「幻妖斎殿の鼓動が急速に早まり呼吸が乱れました、貴方への恋愛感情の表れだと推察します」

 ラルドは黙っていたと思ったらしっかり観察されていた。


「愛情表現はハッキリして貰う方が嬉しいのですけど慣れるまで待ちます。これだけは覚えておいてください、何があっても私は幻妖斎様をずっと愛してますわ」

 

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