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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
グリアの5種族 ゼルディア大陸編
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族長と小さい者達

「族長がおいでになりました」

 サリエの声が広間に響き渡る。


「この度の厄災において両名の者の献身的な助力にエルフ族長として感謝を申し上げる」

 威厳のある声だ、場所も場所だから緊張してしまう。


「堅苦しい挨拶はこれで良いでしょう。幻妖斎さん、カトリーヌさんも顔を上げてください」

 荘厳な衣装に包まれた美しいエルフは絵画のような優雅さを感じさせる。

 横の壮年の男性も部族の衣装なのか、他を圧倒する威厳がある。

 あれ?見た事あるような無いような……。


 サリエが紹介してくれた。

「族長、イト・ア・ナーヴ様。横のお方がお父上のジオルグ・エ・ナーヴ様です。マーサ様とは面識があるので紹介は不要ですね」

 確かにマーサさんと面識はあるけど、この2人も面識がある。

 まさか本当に族長だったとは……。


「サリエ、私と父も2人とは面識があるのですよ」

「イトさん本当に族長だったんですね、ジオルグさんもイメージが違いすぎて一瞬分かりませんでした」

 面識があるのは間違いないけど雰囲気が違いすぎるから分からなかった。


「イト、幻妖斎にアレを渡してやれ」

 ジオルグがそう言うとイトが近づいてきて緑色の指輪を渡してくれた、これは……まさか。

「族長の指輪です、右手の中指に付けてください」

 中指に付けると全く違和感がない、指輪をしている感覚が無いくらいだ。


「先日も申し上げましたが、幻妖斎殿が元の世界に帰還する事を私は願い認めましょう。神樹トニミマーナのご加護があることを願います」


「お前たちはこの後どうするか決まってるのか?予定が無いならメディの高難易度ダンジョンとかどうだ?案内してやるぞ」

「僕たちはステルドに行きます、厄災がありカトリーヌの親も心配してると思いますし顔を見せて安心させてあげたいと思ってます」

 ダンジョンは行ってみたいけど良い思い出が無いし後回しかな、カトリーヌは強いと言っても轟鬼も心配してると思う。


「実は彼女と婚約してから獣人の族長のアルベールさんにまだご挨拶へ行ってないので伺う予定です」

 そう言うと「それはマズいのでは?」と驚かれたが轟鬼に言われた内容を話すと苦笑いされた。


「これで俺っちも隠れなくて済むぜ、サリエって神官とは初対面だな」

「ピーフェ様ですね、コートの中は窮屈でありませんでしたか?」

 神官は妖精の存在に気が付けるんだっけ……忘れてた。


 ジオルグから「マールには俺の正体は言うなよ」と念押しされた。

 多分、気が付いてるんじゃないかな。と思うけど僕から言う事でもないし了承した。


「明日の昼前には転移魔法で移動するつもりです」

 転移魔法のほうが早いし安全だ。

 4人が「また来てください」と言って旅の安全と祈願成就を祈ってくれた。


 宮殿から外に出て宿へ帰っている途中で声を掛けられる。

「厄災の初日に助けていただいた5人の子供の父親です。子供たちがお礼を言いたいらしいのですが良いですか?」

 そう言うと子供たちを呼んだ、建物の影から5人の子供が一斉に走り寄って来た。

「カトリーヌお姉ちゃん、ありがとうございました。森の木の実を入れて作ったお菓子なので食べてください」

 5人は、カイ・ガイ・カル・ルーン・ミルと言う名前でエルフでも珍しい五つ子でまだ10歳だと言う。


「みんなありがとう、厄災も終わったし私たちは冒険者なので明日の昼には出発するけど元気でね」

 子供たちは「行っちゃヤダ」「一緒に遊びたい」と言っていたが父親が言い聞かせてくれた。


 翌朝、マールがやってきた。

 ジオルグから僕が出発すると聞いたんだろう。

 少し話をして「また来てくださいね」と言われた。


 昨夜のうちに4通手紙を書いてある。

 イト・マーサ・ジオルグ・オリバー宛になっている。


 内容は、出発する報告とお礼でオリバーにだけは厄災でキュレリー商会の行為に対する礼も書いてある。

 マールに手紙をジオルグに渡して2通は宮殿の衛兵に、オリバー宛はキュレリー商会へ持って行って欲しいと頼んだ。

 ちなみにカトリーヌが五つ子にお菓子のお礼を書いていたのでマールにお願いしたら「あぁ、あの子たちですね」と分かってくれた。


 転移魔法は他人を連れて行けるか不安だったけど神官の転移陣もみんな送って貰えたので問題ないだろう。


「では僕たちはこれで。また会おうね」

 そう言って僕とカトリーヌとピーフェは転移魔法で首都グンフォスを旅立った。

 美しい緑色の小鳥が綺麗に鳴き出発を見送ってくれているようだ。

 一瞬小鳥が光って見えたのは、転移魔法の光のせいだろう。



 あっという間にシルマの門の前にいる。

 転移魔法は便利だけど出来ればあまり使いたくないな。

 道中の景色と旅する時間を楽しんでいれば良い、とジオルグに言われた。

 でも、厄災で被害が無かったかが心配だから急いで帰って確認しておきたかった。


 入場審査に並んだが「私が居るから多分並ばなくても大丈夫ですよ」とカトリーヌが言ってきた。

 婚約してるけど結婚はしてないからルールはルールとして守らないとね。

 門番の人に顔を覚えて貰っていて「おかえりなさいませ」と言われた。

 妖精が一緒に居るのに誰も何も言わないな。


 街に入るとマヒームが走り寄ってきて宿に案内された。

 あれ?今回はあの豪邸じゃないんだね。

 あそこ広すぎて落ち着かないから僕は実は宿の方が嬉しい。


「屋敷の方は別の方が現在滞在しておりまして宿になります。申し訳ありません」

 謝られたけど、この宿もかなり広いぞ。

 首都の部隊長クラスが泊まる場所だとカトリーヌが教えてくれた。


 久しぶりだから少し街を散策しようとしたがカトリーヌだけ来て欲しいとディールに言われたようだ。

 やる事が無いので1人で散策することにした、 厄災の被害は無いように見える。


 闘技場が見えて来て懐かしい気分に浸っている。

 復興の象徴と言っていたけどトリアーグの闘技場よりも確かに大きい。


「おい!そこの妖精を連れてる人間。この俺様と勝負しろ」

 武闘大会の優勝者は稀に絡まれることがあると言われてたけどこんな街中で堂々と……しかもまだ子供だ。

 轟鬼の娘の婚約者だと発表されているから獣人から優しくされている。

 ここで下手に暴れて怪我でもさせて轟鬼の名前を汚すわけにもいかないだろう。

 無視して帰ろうとした。


「俺の話を聞け!闘技場で今すぐ勝負だ!逃げるのか、臆病者が!受けなければこの街を破壊する」

 さすがに聞き流せない言葉だった。

 挑発に乗る気はないけど街の破壊はダメだ、厄災直後だぞ。

 僕は男に促されるまま闘技場へ入ったが他には誰も居ない。


「ルールはどうしますか?」

「正々堂々、男と男の勝負だ!使用武器は自由、妖精のサポートは無し、決着は俺がお前を叩き潰すまでだ!」

 言っていることが意味不明すぎる……なぜ僕が負ける前提なのか。


 暴漢とは言っても子供だし殺すわけにはいかないので防御用に手甲を付けて素手で戦う。

 男は片手剣と盾を持った標準的なスタイルだけど盾の裏に複数の小型のナイフが仕込んであるのが見えた。

 距離を開けるとあのナイフを打ってくるんだろうが開始前に相手に見られるようでは駄目だ。

 全身フルプレートアーマーで覆われているが構えや立ち姿も何か変な気がする。


「いつでもどうぞ」

「行くぞ、うわあ~」

 準備が出来たので男に伝えると剣を担いで走りながら切り掛かってきた。

 担ぎ技……じゃないな、まさかこの男……。


 片手剣を両手持ちで振り回し、振り下ろした剣が地面に当たる、水平に振った勢いで体が流れる。

 基礎がどうこう言うレベルじゃない、初めて剣を握ったのか?と言う感じだ。

 振り下ろしてきた剣を手甲で軽く叩いたら剣を落とした。

 落ちた剣を拾って切り掛かってきたので鎧の上から軽く腹を叩くと倒れて苦しんでいる。


「もう良いでしょう、やめませんか?」

「うるさい!言っただろう決着はお前を叩き潰すまでだ!」

 とりあえず少し強めに殴って気絶させるか……。


 手加減してると言っても10数分殴り続けているが気絶しないどころかまだ向かってくる。

 鎧から血が流れてきているのでそろそろ治療しないとマズいと思う。


「幻妖斎様、ご無事ですか?」

 カトリーヌがメルディスたちを連れて入ってきた。

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