神の器と厄災
ゼルディア大陸編 は この回を含めて残り6話となりました。
2025年からは新しい章になります。
年末が近くなりましたが寒い日が続きます。
体調に注意していきましょう。
ジオルグが外に出て行ってどうしようかと思っているとイトが話しかけて来た。
「あなた方は父が戦士隊長をしていたと聞いてますか?」
僕は直近4回を戦士隊長として参加し、戦士隊は大厄災の時に結成され仮面をしているとジオルグから聞いた内容を話しもらった仮面を見せた。
「その話は本当です、そして壁に書かれている名前は大厄災で死亡した戦士隊の隊員の名前です。仮面をし正体を隠しているため民からは死亡しても誰か分からないので隊長である父が墓標代わりに全員の名前を書いているそうです」
ちょっとだけでも疑っていた自分が恥ずかしい。
「ジオルグさんに嫌な過去を思い出させてしまいましたね」
そう言った僕にイトはこう答える。
「父が思い出す事は無いと思いますよ、大厄災の悲惨な出来事も彼らの名も忘れた事が無いでしょうから思い出す必要がありません」
僕は大厄災を知らない、轟鬼も知らないと言っていがシルマの闘技場が大厄災からの復興のシンボルだと言っていたからかなりの被害なのだろう。
長命なのは良い事か悪い事かは本人が決める事だろうけど、この先の僕はどうなるのだろうか?
「他の人は父が隠居して遊び歩いてると言いますが亡くなった部下の故郷を回ってお酒を飲みながら彼らを偲んでいるのです。あ、これは父には内緒ですよ」
そんな会話をしているとジオルグが戻ってきて椅子に座った。
「幻妖斎、率直に聞くがお前は(器)か?他に種族文字が読める理由が分からないのだ」
何の事だろうか?ジオルグの顔はさっきまでと違い真面目だ。適当な質問ではないはず。
「すいません、僕には言っている意味が分かりません」
「俺の予想だがお前は異世界から来た不死者ではないか?」
え?なぜバレたんだろう?僕とカトリーヌの反応を見てジオルグは確信したようだった。
「これは古い伝承だが(神の器)と呼ばれる者が存在する。それは異世界から来た不死者の中でも更に特別な力を持った存在で神の力を行使し地上の民を護りし者の事だ」
特別な力と言うのは幾つかチェインの解除をした者という事だろうか。それならば師匠やフォーゲルもそうだと思うし僕より確実に強い。
「僕の力が必要なら協力はしますが神の力は使えないですし、僕より強い人も居ますから……」
「疾風 流妖斎の事だな、彼が器ではないかと言われた時があったが『私は武の神に好かれただけ』と言い否定した。やはり伝承でしかないのか」
もちろん戻るまでは僕の力が役に立つならいくらでも協力はするが地球に戻るので永遠に期待されても困る。
あ、この流れだと完全に異世界人で不死者なのはバレたな。
重たい空気が流れている。
「よし、それなら変わらず仲良くしてくれよ。不死なら時間は持て余すだろう」
ジオルグの顔が普通に戻った。
「カトリーヌは不死じゃ無いですからね、彼女との時間も大切にしますよ」
この世界って不死者に対して寛容だな、異世界人と言うのは犯罪に巻き込まれやすいらしいけど出会う人が良い人ばかりなんだろう。
(ドン・ド・ドン・ドン・ドン・ド・ドン・ドン……)
急に大きな太鼓のような音が鳴り響く。
お祭りかな?その音を聞いたジオルグ達の態度が変わった。
「魔物の襲来だ!厄災に入ったかもしれない。俺は準備して討伐に出る。幻妖斎も悪いが手伝ってくれ。イトは自分のやることをやれ」
そう言うと壁に掛かってある弓を手に取り矢を用意している。イトは外に走って行った。
「ジオルグの仮面と剣と弓、それと僕自身に加護を授けてくれないか?」
僕はピーフェにお願いをする。
「別に良いけどジオルグ本人にじゃなくて良いのか?」
確か前オリバーに聞いた話では妖精の加護を受けるとその人や物から霊気が見えるとか言っていた。
妖精の加護を受けた人間が道具に力を与えた。と言うシナリオの方がジオルグのこの後の平穏な暮らしのために良いはずだ。
心配なのは仮面は大厄災の時に使用すると言っていたので勘違いされないかと言う点だけ。
「それで良い、出来れば今回はピーフェも僕と一緒に戦って欲しいんだ」
「良いぜ、じゃ加護を与えるぞ」
まぶしい光が辺りを覆った。
別に力が湧いてくるとかないけどこれで良いのか?
横でジオルグは「力があふれてくる」と言っているので大丈夫だろう。
魔物は街の東と北から攻めてきているようだった。
ここから近い東方面へ急いで走る。
街の人が騒いでいるがジオルグはかなり有名の人物みたいだ。
「あの仮面はジオルグだ、神弓のジオルグが来たぞ」
え?神弓のジオルグ?思い切りバレてるじゃないですか、しかも神弓って。
「心配するな、顔は見られてない。仮面で判断してるだけで、この仮面を被ってれば他のエルフでも神弓ジオルグさ」
東の入り口広場に着くと大混乱で怪我人も居るが魔物は街の中までは入ってきていない。
「大厄災ではなさそうだ、だがまだ安心はできないぞ。外に居る民の安全を確保だ」
「ジオルグさんは北の方へ行って貰えませんか?僕は街に詳しくないのでその方が早いと思います、ここは僕たちに任せてください」
外の敵を見るとアグーラビットや人面樹と言った弱めの魔物ばかりなので被害を少なくするためにはその方が良いと思う。
ジオルグは提案に頷いて北へ向かうが街のエルフたちは不安そうにしている。
神弓と言われている存在が別の場所へ向かったのだから仕方がない。
「森の民よ慌てるな。この人間に我が加護を与えてある。貴殿の力を森の民のために使って欲しい。我も共に戦うぞ」
なんかピーフェって葬儀の時も思ったけど真面目は場所では貫禄あるな。
僕達は街の外へ向かい3方向に分かれて逃げ遅れた人を探しつつ魔物を倒す。
探索しながらなので今回は短刀で戦っているが普段と感じが違う。
いつもならアグーラビットは逃げ回る事が多いのだけど突進してくる、厄災で凶暴化して活発になるってこういう事か。
結構威力あるし普通の人だと大怪我をしそうだ。
少し離れた所で激しい音が聞こえた。
小屋の近くでカトリーヌが戦っている。
ギガントグリズリーが6体、流石にマズいだろう。
「カトリーヌ、早くこっちへ!」
「後ろの小屋の中に子供が居るんです、助けないと」
よく見ると全身に怪我をしている、ギガントグリズリーは確かBランクの魔物で凶暴化してるとなると苦戦しても仕方がない。
彼女が危ない。そう感じた時、僕の体は生い茂る樹々を避けてギガントグリズリーの所まで移動した。
ピーフェに指摘されて改良したエターナルファントム、移動加速魔法の制御で止まることなく滑らかな曲線を描いて移動できるようになっている。
「あとは僕に任せて休んで」
移動加速魔法で魔物の横を通り過ぎながら急所を一気に切る、閃と言う技だ。
スパスパっと2体を一気に倒す。
逆手持ちの左手の短刀で横に切りつけ、右手を頭上に振り上げると同時に順手に持ち替えて真っすぐ切り落とす、霞切りと言う技。
目の前の魔物を真っ二つにする。
閃と霞切りは少し前に思い付いた技だ。
エターナルファントムで近づいて翔雷、これは改良したおかげで滑らかに体が動き威力が増している。
これで後は2体だけだ……と思ったらピーフェが魔法で倒していた。
小屋の中には5人の子供が震えて泣いている。
カトリーヌが声をかけ手を差し伸べても泣き止む事が無い。
「やっぱり獣人はエルフに嫌われてるから私ではダメですね。幻妖斎様、子供たちをお願いします」
子供たちを落ち着かせて街に戻ることにした。
カトリーヌが寂しそうに少し距離を置いてついて来た。




