首都グンフォス
移動は貸し切りの馬車で移動することになっている。
費用は、ジオルグが出したのかと思ったがマールが出したそうだ。
移動中に聞いたらこのマールって神官の弟なので裕福なのだと言っている。
「両親から社会勉強だと言われて15年前からジオルグ様にお仕えしてます、お酒を飲まなければとても良い方なのですが……」
どの世界でも酒乱は対応する人が困るね、ある意味で良い社会勉強にはなってると思う。
「3人ともご存じのように弓の腕前だけは凄いので弓を教えていただけで為になってます」
弓に関しては教えてもらえるなら僕も見てもらいたい位だ……ん?3人とも?
「おいマール、多分そいつら隠してるんだから言動には気を付けろよ」
そう言われてマールが、やってしまったと言う顔をしている。
「お前、コートの中に妖精を飼っているな?マールには見えるんだよ」
話を聞くとマールは元々魔力が比較的高いうえ神官になるほどの魔力を持った姉の側に長く居たため妖精の存在が分かりかなり特殊なのだそうだ。
分かると言ってもかなり近くに来ないと判別は出来ないらしく、射撃大会で僕といた時に気が付いたようだった。
「バレてるなら良いか、俺っちはピーフェだ。よろしくな」
コートからスルッと出てきて挨拶をする。
「妖精よ、森と大地の恵みに我らは感謝する」
馬車の中でジオルグが片膝をついて言うとマールも慌てて真似をした。
「一応言っておきますがピーフェは同行している仲間で、飼っている訳ではありませんからね」
ピーフェに対する態度でもちろんそんな気は無いと分かっているが言っておかないと。
「すまなかった、ピーフェ殿も気分を害したなら申しわけない」
そう言うと軽く頭を下げた。
ジオルグはコートの中に隠れているのは正解だと言っている。
妖精を連れた冒険者だと目立つそうで、危害は加えられることは無いと思うが人だかりが出来て大変だという。
ルギード内では神官が一緒にいるときを除いて妖精は人目につかない方が無難だとまで言われた。
馬車の中限定と言ってものびのび出来てピーフェは楽しそうで良かった。
出発して4日目になるが目的地は何処なのか聞いてなかったので質問したけど教えてもらえなかった。
「知っても知らなくても行き着く場所は同じだ、道中の景色と旅する時間を楽しんでいれば良い」
そう言いながらジオルグ本人は寝ていることが多いけど。
確かに風景が同じようで変化が多い、森の木も太くなった気がするし花も咲いていたりする。
白いつぼみのような花が多いのでカトリーヌに聞いた。
夜光花と言う花で光が当たらなく寝ると数時間は薄っすら光を放つそうだ、暗くなった時に見たかったな。
森の中に天に向かってそびえたつ巨大すぎる樹が見える。
それを教えるとカトリーヌが外を見て驚いた。
「あれはトニミマーナ?ここってまさか……」
トニミマーナと言う木なのか。初めて見るけど巨大で勇壮だ。
街へ入る入場審査に並ぶ必要があるので僕たちは馬車を降りる。
「俺たちは先に行くが適当な宿に泊まって明日の昼前に俺の家に来い。飯は食ってくるなよ」
場所を知らないんだけど……。
「時間に間に合うようにマールを宿に向かわせるから安心しろ、宿はいくつもあるが何とかなるだろ」
マール大変すぎる……。
入場に並ぶ人も多いし栄えてるんだねとカトリーヌに言う。
「人が多いのも、うなずけます。神樹トニミマーナの麓にある街と言えば首都グンフォスですわ」
え?ここ首都なの?他の街と違って壁みたいなのは無いし検問所無視してサラッと入れそうな警備体制なんだけどな。
首都の入場と言ってもいつもと変わらなかった。
正確には僕たちがBランクという事で変わらなかったようだ。
少し前に居た冒険者は荷物など検められた上に兵士みたいな人が監視で付き添っている。
冒険者登録の時にハイドがランクBなら監視は付かないとか言ってたな。
ルギードでのポイントはまだ貯まってないと思うけど守護像の修理で少しは入ってるはずだし後でギルドへ行ってみよう。
宿は街の人に聞くと教えてくれた。
キュレリー商会で買ってきたお茶とお菓子のセットを3人で食べてみる。
2つはジオルグの娘と母親へのプレゼントだけど自分たち用にも買っておいた。
僕も甘いものは好きだけどカトリーヌが美味しいと喜んでいたので女性うけも良さそうだ。
「会えないと思いますがマーサさんの所へご挨拶に行った方が良いのではないでしょうか?」
僕もそれは考えていた、首都へ帰ると言っていたし娘に会わせないとは言われたが音沙汰なしと言うのも失礼だろう。
身支度をして宮殿の辺りに行き兵士に話すがもちろん面会は出来なかった。
手紙なら渡してやるとの事なので宿で書いて持参し渡してもらうようにお願いした。
内容的には当たり障りのない首都へ来たので挨拶をと言う内容にとどめておく。
翌日、部屋で迎えを待ちながら昨日の余りのお菓子を食べていた。
「幻妖斎様、以前私に頂いた甘いお菓子はお持ちではないですか?他国のお菓子なども喜ばれるのではないかと思いますわ」
金平糖の事か、ポーチにまだあるけど自分用の小袋でプレゼント用じゃないんだよね、メインはキュレリー商会の者として金平糖2袋ずつ渡すことにしよう。
宿の人から「お客さんが来てるよ」と言われて出るとマールが居た。
獣人の女性と人間の男性を知らないかと聞いたら場所はすぐ分かったようだ。
ついて行くとどんどん小道へ入って行く、マールが居なかったら迷うような道だった。
案内されたのは小さな家、小さいと言ってもコンビニ位の広さはある。
帰ろうとするマールに一緒に来ないのかと聞いたが断られた。
「お前がもし家の中を見たら親元に即返すだと言われましたからね、ジオルグ様の事は尊敬してるのでまだお近くで学びたいのです」
そう言うと走って帰って行った。
ノックをして返事があったので扉を開けると食卓がありジオルグが椅子に座っている。
「娘はお前たちの食事の準備をしてるから座っていてくれ」
変わった部屋で正面に立派な弓が飾っていて、周りの壁一面に文字が書いてある。
炊事場に向かって「おい、客が来たぞ」と叫んだ。
返事があって料理を持った女性が出て来た、すごくかわいい……。
顔がにやけていたのか、カトリーヌに思い切り睨みつけられてしまう。
「俺の娘のイトだ。仲良くしてやってくれ」
僕達も自己紹介をして持参したお菓子を渡すと喜んでくれた。
食事を勧められて全員で食べだす。
「父さんが家に帰るのって4-5年ぶりじゃない?突然すぎてびっくりしたわ」
「カトリーヌちゃんを見てお前に会いたくなって帰ってきたのさ、イトちゃんかわいいなぁ」
「あら、じゃあ2人と出会ったことに感謝しないとダメね」
「感謝してるから特別にイトちゃんに会わせて手料理まで食べさせてるじゃないか」
と言う感じの会話が和やかに進んでいく、娘を溺愛しているのが雰囲気でわかる。
その雰囲気が一変したのは僕の些細な一言からだった。
「部屋の壁に書かれているのは人の名前ですか?」
ジオルグとイトが「この文字が読めるの?」と驚いている。
普通に読めるけど、驚かれることなんだろうか?
「試しに、こことここには何と書かれている?」
「えっと、最初がスピエリで次がニモイヤですね」
僕の答えを聞いて「頭を冷やしてくる」と言い残しジオルグが外に出て行った。
何か気に障ることを言ってしまったのだろうか?




