トリアーグの街についた
オリバーに誘われて夕食会に参加している。
メンバーは僕とカトリーヌ、雪月花の3人、ミーリエとオリバーそれにマーサの8人だ。
非公式の場なので無礼講で良いとマーサは言っていたがエルフの2人は流石に緊張している。
オリバーは確か平民の中でも貧しい家だと言っていたから特に緊張するだろうな。
雪村が立ち上がり特別依頼を独占してしまった事、それで起こる弊害を予期していなかった事、そしてマーサの計らいに感謝を伝えた。
「正しき行いが全て正しく評価されるわけではありません、しかし貴殿たちの功績は評価にふさわしいと思ってます。私は当たり前の事をしただけですよ」
食事会は和やかに進んでいく。
食事が終わった頃合いでマーサが紙を出してきた、トリアーグの武闘大会の魔道の部の参加証だ。
魔道の部は対人形式ではなく、賢者によって作られた木偶に魔法を打ち込んで威力を競うらしい。
ぶつけた魔法の威力が計測され点数で表示されるようで最高点は10000点だが歴代優勝者でも2950点が最高得点と言っていた。
魔法の見た目の芸術点とかもあるのかと思ったが単純に威力勝負で打てるのは1発のみだが使用魔法に制限はないらしい。
射撃大会も聞いてみたがこれも対人ではなく的にどれだけ正確に当てられるかと言う大会だ。
元々はワムードの商店がやっていたイベントで遊び程度だったが街が発展して大会になったそうだ。
矢は10本、的は10枚でそれぞれの的にランダム配置された1・5・10・100点の円があり狙いやすい的に2本まで撃てる。
ただし1本目が100点に当たった場合はその的は利用できなくなる。
600点以上をとるには100点に6枚当てないと駄目で当たり前だけど魔法の利用は禁止。
これはそこまで難しくはなさそうかな。
「トリアーグまでミーリエの転移魔法で送らせましょうか?」
マーサが言ってくれたが丁重に断った、流石にそこまで優遇してもらう訳にもいかないしカトリーヌが居るから神官が送って問題になっても困る。
「馬車で2日あれば着きます、街道も整備されているので快適と思いますよ」
思ったより近いしエルフの森って綺麗だから癒されて好きなんだよな。
カトリーヌに武闘大会に参加とかしないのか聞いたら「人と争うのは好きじゃないのです」と言われた。
雪村たちは「パーティだから個人戦は興味ないし参加するには実力不足だ」と言っていた。
食事会がお開きになると、雪村がオリバーに袋を手渡した。
「オリバーさんは信用できそうだ、少ないが今回の特別任務で得た報酬が入ってるからこの街の孤児院に寄付しておいてくれないか」
良いのか?と聞かれて「私たちも孤児院に居たから子供達には元気に育って欲しいの」とシンが答えた。
宿に戻ってきた。この凄い部屋も明日までか。
扉を開けるとピーフェが待っていた、流石にマーサたちに会うとマズいかなと留守番をしてもらっていたのだ。
「おかえり、お前にちょっと聞きたい事があんだけど。昨日、武神と一緒に居たガキンチョ何者だ?」
シュバイツの事か……正体言っても良いのか?
「僕の魔法の先生だよ。今度会いに来いって言ってたから一緒に行く?」
「お前気が付いてないかも知れないから言っておくがあのガキンチョ普通の人間じゃないぜ。俺っちが恐怖を感じたレベルだ、気を付けろよ」
普通のどころか人間じゃないんですけどね。「うん」とだけ言って誤魔化しておいた。
翌朝、街の入り口に大きな馬車が4台並んでいた。
エガーレインとオリバーも居る。
トリアーグまで商会の馬車で連れて行ってくれるというのだ。
大会期間中は忙しくなるのでエガーレインが仕切りにいくようだ。
「もし魔物などが襲ってきたらよろしくお願いしますね」
オリバーがニコニコしながら言ってきた。
4台のうち1台が僕とカトリーヌ専用になっているので驚いたがそう言う事か。
道中の食事に肉料理を出してあげると商会のエルフたちが大喜びしていた。
実はカトリーヌと婚約して同行することになった時に大量の肉を買い込んでしまった。
獣人だしやっぱり肉食でしょ!と思っていたが「お肉よりお魚が好きです」と言われて余っている。
エルフたちは草食系と思っていたが結構肉好きな人も多い。
僕はと言うと実は不死者は食事や睡眠は実は必要ない。
「食事と睡眠はきちんと行え、元の世界に戻った時に生活リズムが戻せなくなるぞ」
シュバイツからそう言われたので今もキッチリ食事と睡眠はとるようにしている。
カトリーヌに1人で食事させるわけにもいかないし、誰かと食べるとおいしいしね。
何事もなく1日が終わる。
街道沿いなので魔物はもちろん全く居ない。
食事のほかにも定期的に休憩をとっていたので地面に足を付くことも忘れず出来た。
用意して貰った馬車は快適で中で寝ることも出来た。
2日目、気が付いたら「着きましたよ」と言われた。
馬車から降りると街の中にすでに居る、入場審査してないけどマズいのでは?
「マーサ様からの書状がございますので問題ございません。宿は目の前のそちらをお取りしています。大会会場はこの道をまっすぐ進めば右手側に大きな建物があり、そちらになります」
そう言うとエガーレイン達はお店に向かった。
とりあえず武闘大会の会場に足を運んでみる。
参加証は貰っているが登録が出来ているかを確認しておかないと心配だ。
もちろん登録は完了していて当日またお越しくださいと言われた。
今回はちょっと強めの魔法を使うので正体を隠すために仮面をして参加する予定なので聞いたら問題ないみたいだ。
「まだ時間あるし初めての街だからちょっと観光していこう、キュレリー商会にも寄ってみたいし。良いかな?」
カトリーヌはちょっと嬉しそうに「もちろん良いですよ」と言ってくれた。
商業都市のワムードとは違って商店は装備や薬を売っている店が多い。
闘技場があるが治安も良いようで獣人連れでも絡まれることはなかった。
カトリーヌだけだと危ないのかな?外見だけ見たらか弱くてかわいい女性だし……。
そう思ったが武術の部の準優勝者であれだけ強いなら問題ないだろうな。
キュレリー商会の場所は街の人に聞いたらすぐ分かった。
やはり装備品がメインの様だ。
エガーレインが居たので声をかける。
「カトリーヌの靴を新しくしようと思って良い靴ってありますか?」
冒険者なのは知っているので実用的なものが良いだろうと案内して貰った。
本人の意見も聞きながら防御力もあり蹴りにも適しているブーツタイプにした。
もちろん僕が守るけど、もしもの時に少しでも安全になるようにしないとね。
勧められて腕輪も購入した。
真ん中の丸い装飾がカバーになっていて外すと小さいけど鏡のように姿を見ることが出来る。
「冒険者と言っても女性ですからね。防御力はあまりないですが装飾としても似合うと思います」
試着させてもらったけど見た目も綺麗だし本人も気に入ったように見つめているから即決した。
武闘大会に仮面をして参加するので良い物は無いか聞いたら案内してくれた。
思い切りフェイスガードタイプの仮面にした。
カトリーヌから「幻妖斎様は外見を変えられるのだから必要ないのでは?」と聞かれたがそれだと別人が出たと問題になりそうだし。
宿へ行って名前を言うとすぐ部屋に通してもらった。
ちなみにまだカトリーヌとは別の部屋だ。
寝るまでは僕の部屋でピーフェと3人で話をしたりいて過ごしている。
師匠がやっていた闘気の瞬時の移動のやり方を練習しているけど上手くいく気配がない。
「大会に向けて魔法や弓の練習はしなくても良いのか?」
確かに目先の事に集中した方が良いのかもしれないな。
廊下をドンドンと激しい音で歩いている人が居るようで僕の部屋にまで結構響く。
「おーぅ、帰ったぞー」
すごい勢いで扉が開いて大声で叫ばれたが知らない人だ。
エルフだけど見るからに年配なのが分かる、それに酒臭い……酔ってるな?
隣の部屋から誰かが走ってきた。
「ジオルグ様、お部屋は隣ですよ!他の人に迷惑をかけないでください、まったく」
そう言われ酔っぱらいのエルフは自分の部屋に戻ったようだ。
「私はマールと申します、先ほどの方はジオルグと言う私の主です。隠居してから放蕩三昧でして。明日この街を出発するので飲みすぎないようにと注意したのですが不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
深々とお辞儀をしながら言ってきた。
「僕たちは気にしてないです、武闘大会は見ていかないのですか?」
「個人的には武闘大会楽しみにしていたのですが主は興味がないらしく『街が混む前に出る!』と言って聞かないのです。入場券も2枚買っていたのですが……」
お酒飲む人にしたら飲めない闘技場はつまらないという感じか。
軽くお辞儀をして出て行ったあと廊下を走って隣の部屋に駆け込む音がした。
マールって人、どう見ても子供だよね?いろいろと大変そうだな。
翌日から街の外で弓の練習を繰り返したがこの前聞いた話では簡単そうなんだよな。
元々が小さなイベントだったようだし、優勝しろでは無くて600点以上取れという事だからとりあえず弓の実力を見せろって程度なのかな?
そして明日はいよいよ武闘大会本番だ。




