依頼主の正体
「匿名依頼を出すと言いましたよね?それまでは他の依頼を勝手に受けられては困ります」
僕とカトリーヌが部屋に入るなりオリバーがちょっと怒っている口調で告げて来た。
「あれ?匿名特別依頼を出したのオリバーさんではないんですか?内容が同じだったので……」
僕を名指しして匿名で同じ内容の依頼をしてくる偶然って無いと思うんだけどいったい誰が?
コン・コン・コン。ノックがあってマーサが入ってきた。
オリバーが胸に手を当てて片膝をついているけど神官ってすごい地位なんだな。
「マーサ様、なぜこちらに。このような場所で平服のままのお出迎えとなり申し訳ありません」
「私が依頼を出したのよ、獣人の武闘大会で優勝して姫と婚約したと言う噂の幻妖斎殿を見てみたくてね。この者は信用しても良いでしょう」
「神官からの直接依頼だったとは思いませんでした」
武闘大会の優勝って他の種族もやっぱり注目してるのかな?
「神官?何を言っている、こちらのお方は――」
「私は『マーサ・コ・ナーブ』エルフ族の先代女王です、隠していてごめんなさいね」
そう言うと仮面を外した。気品のある顔立ちだ。
仮面外す前にオリバーは正体が分かってたみたいだったけど意味あるのか、あの仮面。
「マーサ様は貴殿が会いたいと言っている族長の母親で先代の族長だ。」
オリバーに席を外すようにマーサが伝えるとオリバーは扉の外に出て行った。
「娘に会いたい理由をお聞きしても良いですか?」
僕は異世界人で帰る方法を探しているので会いたいと伝える。
マーサは自分も族長だったがそんな方法は知らないし娘も知らないはずだけど会いたいのか?と聞いて来た。
それでも会いたい。と伝えると2つ条件を出された。
その2つは射撃大会で600点以上獲得と武闘大会の魔道の部での優勝だ。
「エルフは弓と魔法に長けているものを尊敬します。7日後にトリアーグで武闘大会があるので魔道の部で優勝しなさい。そしてその3日後にここワムードで射撃大会があるので600点以上とって見せなさい。やりますか?」
返事は決まっている、もちろん参加すると伝えるとこのように付け加えられた。
「もし参加するのならどちらも言った条件を満たさねば私の紹介では娘に会わせません。ただし自信が無くて参加しないのであればこれから首都グンフォスまで私が同行してすぐ娘に面会させましょう」
参加しなくても良いというのは罠じゃないのか?
「これは特例で武神様の弟子であり守護像の修復した者への私なりの敬意です。どちらを選びますか?」
「返事は変わりません、もちろん参加です。守護像を直したのは妖精の力で僕ではありません。武神の弟子としてではなく流 幻妖斎として勝利を掴み結果で面会に行きます」
力強く返事をしたのは良いけど……射撃大会で600点と言うのはどれくらいの難易度なんだろう?
「質問ですがあなたと勇者パーティの関係は良好ですか?」
突然聞かれたけどどういう事だろう?僕たちの関係をこの人が気にする必要って?
「仲間ですし、良好と思いますよ。先日も会いましたがどうしてですか?」
「勇者パーティが最近ルギード内で特別依頼を精力的にこなしギルドポイントを貯めたり族長に会うため名声を得ようとしている。と噂になっているのです、それもある仲間のために。その仲間と言うのはあなたの事ですか?勇者パーティは名声に興味が無く市井のために動いていたのですが、その行動が変わったことが気がかりでワムードまで見に来たのです」
そこまでしてくれていたのか。
マーサの顔が少し険しくなって告げられた。
「特別依頼をほぼ独占しているのでその行為に他の者から不満が出ているらしいのです。パーティに聖女シンが居るので今は表立って問題になっていません」
今は、という事はこのままでは危ないという事だろうな。
マーサがワムードに来たのはその問題を何とかしたいという思いの様でエルフの国で勇者パーティが暴漢に襲われ怪我でもしたら大問題なのだそうだ。
それほど勇者パーティの注目度は高いのだという。
条件をクリアすれば族長に会えるから「会える目途がつきそうだ」とでも言って特別依頼を受けることを止めて欲しいと言われた。
その上で出ている不満を払拭するためマーサが芝居を打ってくれるらしく前族長だと教えてから勇者パーティを明日の朝、広場に呼んで欲しいと言われた。
僕は勇者パーティ雪月花の泊まっている宿に来て言われたことを伝えた。
「すまない、俺たちのしていた事がそこまで問題になっているとは、逆に迷惑をかけたな」
「みんなのおかげで前族長がワムードに来て会うことが出来たし族長に会える目途もついたから感謝しかないよ」
雪村の言葉に返した返事は本当の事だ。
明日は広場で何をするんだろうかと聞いたらシンが神妙に答えた。
「多分軽くてワムードからの追放、最悪ルギードからの追放でしょうね、前族長が直接呼び出すんだからそれ位は仕方ないわ」
さすがにそれは無いんじゃ……と思ったけど、轟鬼に貰った指輪をしていた僕を取調室に呼んだだけで隊長クラスが最悪死罪とか言ってたな。
翌朝、広場はすごい人が集まっている。
中心にはマーサが立っている。
「皆に報告がある、少し前よりワムード南の守護像が壊れて魔物が活発になっていた。私は治安を守るため、ある者に内密の依頼をだした。『修復まで特別依頼を精力的に受けて欲しい』とな。先日、守護像の修復が終わったため私からその者への依頼も終了となる。森を護りし勇者をこれへ!」
そう言うと人が左右に割れてオリバーに先導された勇者パーティ雪月花が歩いてきてマーサの前に立つとオリバーが紹介する。
「勇者、鵜藤 雪村様。勇者の盾、月元 哲也様。聖女、花矢 シン様でございます」
大歓声の中、3人は胸に手を当て軽くお辞儀をしている。
「3名の者には私の名前を出さないという約束を守ってくれた。迷惑をかけた詫びと礼に褒美を与える」
オリバーがお盆を持って来た、中には木で出来たお守りのようなものが3つ置いてある。
「3名のルギード内での移動の自由を認める。この札を見せればルギード内の宿には食事付きで無償で泊まることが出来る、感謝の気持ちとして受け取って欲しい」
マーサが3人に直接お守りのような札を手渡すと歓声がさらに大きくなった。
前族長による授与が終わった。
僕はカトリーヌとワムードの兵士訓練場に居る。
試したい事があり街の外に行こうとしたらミーリエに呼び止められ訓練場を使って良いと言われたのだ。
神官はやはり地位が高いようですれ違う兵士が皆頭を下げていた。
試したい事と言うのはもちろん(散華)だ。
魔法で作られた案山子の様な物があって攻撃して壊れてもすぐ元に戻るので好きなだけどうぞと言われた。
何度試しても師匠のように光らないし威力も出ない、僕の闘気が弱いのか?と思った。
「幻妖斎様と叔父様の纏う闘気の強さはほぼ同じでしたわ、ただ闘気の流れが違う感じです」
カトリーヌがそう言った。
僕の場合は全身の闘気が拳に流れて集約している感じ、師匠の場合は全身の闘気が一気に消えて拳が光る感じだと教えてくれた。
何回試しても思うように行かない。闘気のコントロールは出来ているはずだしカトリーヌも見ていて惚れ惚れすると言ってくれる。
疑問がある。師匠の散華はミーリエにも光って見えたそうなのだ。
通常は闘気が使えない者には闘気は見えない。試しに僕の散華を見て貰ったが「拳を前に出してるだけで光は見えない」と言われた。
もっとスムーズに闘気を移動できるようにならなければ、今回のように魔法やオーラが使えない時に敵が倒せませんではお話にならない。
夜は食事会に誘われているのでもっと練習したかったが仕方なく切り上げた。




