依頼と葬儀
西の森に入って気が付いたのは綺麗に清掃などはされているがあまり手を付けられていないという事だった。
フロージュに聞くと聖なる森なので樹木の伐採などを極力行っていないと言われた。
森の中を走って行く僕に対してフロージュは木の枝から枝を飛んでいく、地面を走る方が早いと思うんだけど遠くが見渡せて索敵には良いというので仕方がない。
「止まって!もう少しで守護像のある場所になります、先行して数と場所を調べてきますのでここで待っていてください」
流石は索敵のプロ、手慣れたものですぐに戻ってきて数などを教えてくれた。
守護像の周りにサーベルタイガー2体がうろついている、少し離れた場所で2体が寝ていてベノムスパイダー2体は後方に居るが問題ない距離だそうだ。
フロージュは起きている2体を矢で倒した後に寝ている2体を倒すのが安全ではないかと言ってきた。
その方法だと問題点が少しある、矢が外れたり一撃で倒せない時に守護像に当たったりして傷がつく可能性も無い訳ではない。
「守護像に攻撃が当たらないように離れた敵から倒しましょう、フロージュさんは近寄らないでください」
木の陰から見ると寝ている2体は重なってはいないので狙うのは問題ない。
短刀と弓を用意して攻撃の準備をする、弓の連射は練習では3連射までは出来ていたが失敗しないようにしないとな。
弓を構えて矢を放つ。矢には光属性を込めている。
連射は成功して2体を仕留めた、寝て止まっている相手なので当てること自体は簡単だった。
守護像の近くに居た2体がこちらに向かってきたが短刀で切り裂く。
ベノムスパイダーは近寄ると毒切りを吐くので弓で射貫いて倒して終わった。
短刀で戦うとフォーゲルに言われた(人の真似事)という言葉を思い出してしまう。
師匠の短刀術は洗練されていて無駄がない、人の真似事と言われても改良の余地が無いと思ってしまう完成度だ。
フロージュが守護像の壊れ具合を調べていると中から光の玉が出てきた。
よく見ると羽が生えている……初めて見たけど妖精だよね?
「あんた強いな、おかげで助かったよ。こっちへ遊びに来たら魔物に襲われてこの像に隠れて逃げる機会を探してたんだ」
「妖精ですよね?名前はなんていうんですか?」
「妖精に名前なんて無いよ、俺っちはレイスだからそんなに力もないしね」
シュバイツに聞いた話では確か光の神を信仰する妖精が天使、闇の神を信仰する妖精が悪魔、信仰する神の属性を途中で変えた妖精がレイスって言うんだったよな。
「そこの人間、お前強いし使えそうだ。暫く付いて行くからな」
付いてくるのは確定なのね、まぁ害がないなら良いか。ペットみたいで可愛いし俺っちっていう初めて聞いたし。
フロージュは妖精を見て手を合わせて拝んでいた。もしかして信仰対象の存在なの?
「僕はこの後ワムードに行きますし獣人の連れが居ますよ」
「目的地はどこでもいいよ、それにお前『普通』じゃないようだしな」
妖精は僕の方を見てニヤリと笑ったがフロージュは意味が分からないようで助かった。
目立つのは困るが、コートのフードに隠れているから大丈夫かな?
「おい、お前!俺っちの存在は内緒にしておけよ」
フロージュは妖精の方を見て無言でコクコク頷いていた。
帰ろうとする僕らに妖精が聞いて来た。
「あれ?お前ら残りは倒さなくていいのか?北西に2体、南に1体まだサーベルタイガーが居るぞ」
「レイス様、そのような報告は入っておりませんが……探索してまいります」
戻ってきたフロージュが確かにまだいたと慌てていた。
他の場所も倒して欲しいと言われたので快諾して案内され北西の2体を倒した。
「特別に俺っちの力を軽く見せてやるぜ!くたばれゴミムシ」
南の1体を倒しに行くと妖精がそう言って手を前に出す。
白い氷と黒い氷が5つずつ剣状になってサーベルタイガーを取り囲むと一気に突き刺した、そして上空から黒い雷が落ちてきた。
「今は闇の神を信仰してるから闇属性を主にしてるが両属性使えるんだぜ!まぁレイスだから力が半減してるんだけどな……」
口の悪さは置いておいてあの氷の剣1本でサーベルタイガーを倒せる力は十分なほどに感じる。
「あれだけの力があればサーベルタイガー4体くらい自分で倒せたんじゃ?」
妖精は僕の耳に近づいてきてヒソヒソ呟いて来た。
「実は蜘蛛とか虫が駄目なんだ、内緒だぜ。威厳が無くなるからな」
好き嫌いは仕方ない、それにこれからのためにも先に知れて良かった。
力が半減してこの強さだと天使と悪魔ってかなり危ないんじゃ?それを1000体倒すとか何回死ぬんだろう。
ギルドに帰って報告をしたが横でフロージュがソワソワしている。
妖精を見たとか僕のコートに隠れているとか口止めされて言えないけど言いたくて仕方ないのだろうというのが目に見えてわかる。
怒らせてあの力で暴れられるとこの辺りも被害が出るだろうし。
「おかえりなさい、お待ちしてました」
宿に帰るとカトリーヌが出迎えてくれた。顔を見てホッと安心できるのは良いことだと思える。
「ちょっと話があるので部屋に来てくれるかな?」
いきなり見るとビックリされても困るからと妖精が顔を見せておくらしい。
フードから出てきた妖精を見てどういう反応を示すかと思ったが落ち着いていた。
「妖精さんですね、何度かお見かけしたことがありますわ、お話しするのは初めてですけど。お名前は何というのですか?」
「あ?俺っちの名前?レイスに名前なんて無いぜ」
カトリーヌの反応が薄すぎたからかちょっとすねたようだ。
「名前が無いと不便でしょう、私たちで何か考えませんか?」
「ピクシーとかフェアリーとかありきたりすぎるしなぁ」
「合わせてピクフェとかピーフェとかどうでしょう?」
その後いろいろ話してピーフェの方が言いやすくて馴染みやすいという事でピーフェに決めたけど良かったのか?
翌朝、ピーフェが「まだ出発しないのか?」と聞いて来た。
「今日はワムードまで護衛する人の知り合いの葬儀があるから明日出発するよ」
「ふーん、エルフの葬式か……ちょっと行ってくるかな」
亡くなった経緯を聞いたら場所を教えてもないのに飛んで行った、流石に葬儀で変なことはしないと思うけど。
僕とカトリーヌも良ければ来て欲しいと言われている。
彼女が獣人なのを知った上でだ。
僕が遺体を治したのをエガーレインと隊長が伝えたら「来て見送ってほしい」と言われたと言うので驚いた。
端でそっと見送ることにした。
エルフの埋葬は土葬と思っていたが火葬であった。
お骨は土に埋められ森へ還るという。
お別れが済んだ後、火葬場へ送られていき家族がその手で熾した種火を投げ入れるのだそうだ。
家族や知り合いがお別れを済ませ中に送られようとした時に光の玉が飛んできた、ピーフェだ。
その場に居たエルフが前で手を組みピーフェを見上げていた。
「勇敢なる森の民の魂が安らかに眠り森に還ることを我は神に祈り願う」
全員が目を伏せ祈りをささげると風が吹き、日の光が差した。
「種火と共にこれを投げ入れなさい」
白い炎の灯った小さな松明が渡された、種火と松明が投入され火葬は始まった。
「森の祝福がありますように……」
ピーフェはそう言うと空へ飛んで消えていった。
そして葬儀は終了した。
部屋に帰ると光る玉がフヨフヨ浮いていた。
「ピーフェ、さっきはありがとう」
「礼はいらないぜ、死者を弔うのは当たり前だ。全員には無理だが偶然居合わせたからな」
「エルフの死者はやはり森に還るのでしょうか?」
「地上に生きるものが死んだらその後どうなるのかは俺っちは知らね。転生するとか森や土に還るとか星になるとか、そこで終わりと言う奴も居るな。死んでみないと分からないが死は一度だけだから死後の世界の確認は最後の楽しみにして死ぬまで生きろ」
死ぬまで生きろ。僕はいつか死ぬことが出来るんだろうか?




