師匠は教え上手だった
目が覚めると辺りはすっかり明るくなっていた。
まだ寝ていてもよかったと流妖斎が言っていた。
朝から晩まで厳しい稽古を覚悟していたけど、最初の数日は軽く流す程度だそうだ。
「流妖斎様は――」言いかけると流妖斎がかぶせるように言ってきた。
「修行が無事に終わり旅へ出れば何と呼んでも良いがここに居る間は師匠と呼びなさい」
「はい、師匠はなぜ町へ移らずこの場所に居るんですか?」
「私は魔物を狩り、皮などを売って生活している。町の近くは大型の魔物がおらず狩場に近いここへ家を建てた」
なるほど、確かに狩りで生活するなら狩場に近い方が都合いいのかも知れない。
「それにここは妻がなくなった場所でもあるからの……」
僕に聞こえるか聞こえないかの声で思い出すようにつぶやいたのが聞こえた。
修行を開始するかと言われ始まった。
修行と言ってもとりあえず基礎体力をつけるということで日課が決められた。
水汲み・ランニング・瞑想だけ、結構簡単だ。
朝起きてご飯を食べ準備運動、水汲みをし完了後に息が整ったら昼食まで瞑想、ご飯を食べたら少し休んでランニング、終わったら晩御飯が日課。
準備運動と言ってもゆったりした動きで腕や体を伸ばしたりねじったりする程度。
体を動かしたときに筋肉がどういう感じでどこが動くかを意識すながら行うことと言われた。
水汲みは玄関脇に200リットルほど入る水瓶があり、1つ10リットル入るバケツを両手に持って湖まで片道200メートル、水瓶がいっぱいになるまで。
簡単そうだけどこのバケツ……1つ10キロあるらしい。さらに湖で汲んだら道中はバケツを地面においてはダメという条件付き。
ランニングは湖周りをとりあえず5周だそうだ。
歩くのは良いけど立ち止まるのは禁止。
瞑想は簡単そうと思ったけど長時間は結構つらい。
目を開けてはいけないという条件が付いているので寝そうになるけど定期的に師匠から小石が飛んでくる。
肉体的にはきついけど想像していたより簡単だった、正直これで強くなれるの?という感じでしかない。
ただ今は信じてやるしかない、僕はこの日課を毎日繰り返した……。
20日くらいが過ぎただろうか?
中年太りだった体はかなり絞られていた、体も慣れてきて日課にかかる時間もどんどん短くなっている。
瞑想中に師匠が投げる石を連続でつかめるようになったのを見て「そろそろ次の段階に移るか」と言われた。
身体操作と歩法の訓練だそうだ、家の中でみっちり説明を受けた。
身体操作で強くなれるわけではないが強くなるためには必要で、体幹・姿勢・呼吸法と足運びの歩法。
最初の数日は付きっきりで教えてもらい慣れてきたら空き時間に家の中の広間で練習するようにと指示を受けた。
この辺りは学生時代に柔道と剣道をしていたので慣れるのは早かった。
そしていよいよ戦い方だ。
まぁ、実践というわけではなく型の反復と師匠と組手を繰り返す。
今までの動きなどからメインで使う武器は短刀2本に決定した。
動き自体は柔らかく滑らかで手先が器用だけど片手しか使ってないので両手使いの練習もかねて最適であろう、という事だそうだ。
ガッカリした表情を読まれてしまったのか、師匠から「不満か?」と聞かれた。
「個人的には相手を遠くから突ける槍とか弓とかの方が安全だし、見た目だけならアイゼンたちのようなこれぞファンタジー!的な魔法剣が良かったな……」
「槍も弓も一通りの使い方は教える、弓はサブ武器として持っていて損はないと思うがお前はこの先一人で旅を始めるだろう?一人旅で弓のみは論外であるし槍は狭い場所や懐に入られると達人でもないと対応ができない。扱いは片手剣より慣れがいるが短刀なら移動時も邪魔になりにくい。それに魔法剣なら魔法が使えればどの武器でも使えるぞ?」
確かに少し考えるともっともな理由だ。
ちなみに師匠は魔力があまり大きくなく魔法適性も低いため魔法剣の類は使わないらしい。
魔法に関しては門外漢なので学びたければ別のものに聞けとのこと。
「私は素手で戦うので闘気だけでもいいのだがオーラ系なら使えるぞ」というので見せてもらうと手にした木刀の刀身がうっすら発光している。
闘気を大気中の魔素と反応させてコントロールするのがオーラというらしい。
説明を受けたのはこんな感じだ。
闘気で体を覆えば防御を強くしたり素手の攻撃力はあげられる、ただ闘気は物質に付与できないため武具使いはオーラにする必要がある。
木刀を手に持ち闘気を出しても木刀のままだがオーラにして木刀を覆えば名剣にも引けを取らない切れ味に代わるそうだ。
漫画のように武器にオーラを纏い攻撃時にオーラを飛ばすことは可能だがほぼ無意味とのこと。
闘気やオーラは肉体や物質を強化するためのものでそれ単体での攻撃力は皆無なのだそう。
実際、師匠の木刀を振ってオーラを飛ばしてもらって体に当たっても軽く押された程度の威力でしかなかった。
例外は投擲系らしく物質にオーラを纏わせ投げればほぼ確実に当たった人が殺せるレベルの武器になるらしい。
師匠クラスでもオーラを物質に纏わせて投げるのはかなり困難で2-3回行えばしばらく動けなくなるからあまり心配はいらない。
闘気自体は一般的に数か月で発現可能、ただしオーラにする場合はセンスや感覚のレベルの域なので独自で学ぶしかない。
という事でとりあえず闘気の発現とコントロールまでは面倒を見てやるから安心しろと言われた。
それから約1年、かなり動きは良くなったが強くなった実感はあまりない。
と言うのも師匠が強すぎるのだ、僕は全力で立ち向かうが軽くあしらわれる。
武器も片手剣・両手剣・槍・弓とメインとなる短刀2本を扱えるようになった。
中でも短刀は師匠も驚く上達ぶりだそうで普通はここまで扱えるようになるには10年はかかると言われた。
師匠の流派は(疾風流)と言うそうで弟子は今は居ないが若かりし頃は数名いてその全てがかなりの使い手になったそうだ。
その中に短刀を学んだものが居なかったため僕の上達を喜んでくれ技をいくつか教えてくれた。
(陣風)(翔雷)(回転剣舞・六連)(回転剣舞・八重桜)
なんだろう……技の名前が……師匠のネーミングセンスには触れないでおこう。
しかし数か月で発現可能と言われた闘気はまだ出すことが出来ない。
気になってそれを聞いてみたら、師匠との修行のみで実戦経験がないためだろうとのこと。
師匠を敵と見立てて本気でやることができない僕の甘さが原因で実は少し前に気が付いていたそうだ。
少し荒療治するかと呟くと「今日は山へ狩りに行くぞ」と言われた。