空の魔物も居るんです
ユベリーナのギルドへ着いた。
顔は若返っているのでフードで隠しておく。
受付でギルドカードを出して「獣人エリアの特産品の買取をお願いしたい、ハイドさんに推薦されたものだ」と告げた。
買取場所に移動すると買取の鑑定人とハイドが待っていた。
「幻妖斎殿、お久しぶりです。まさかこんなに早く来ていただけるとは思ってませんでしたよ。何をお持ちいただけましたか?」
「獣人の爪とカトーレイヌと言う花ですが大丈夫ですか?」
「もちろんですよ、獣人の爪は金貨50枚、カトーレイヌは状態によりますが金貨10-20枚です」
おぉ、師匠の所で倒した熊の魔物の素材が2匹で50枚だったからかなり高いな。
「鑑定いたしますので品物をこちらへ」
鑑定人の人の前に品物を置いた……「ギョェェ~」2人が大声で叫んだ。
「幻妖斎殿、不正を行いましたか?特産品の窃盗は重罪ですよ?」
真顔で聞かれたので武闘大会の優勝でポイントが入ったと伝えると納得してもらえた。
「これ全部買取で良いんですか?」
「僕は使わないので。両方で金貨60枚くらいになるんですよね?」
「はい?全部買取で良いんですよね?」
確か金貨1枚で1週間は宿に寝泊まりして3食余裕で食べることが出来るはずで1年分以上にはなるな。
ニコニコする僕に対して2人の視線が痛い。
「先ほどの買取価格は単品の価格ですよ」
「爪が100、花は50ありますね。総額で金貨6000枚になります」
「すいません、花を3本だけ返却してもらえますか?」
その場で金貨を用意して貰えたけどギルドってこんな大金を常備してるんだね。
カトリーヌに何かお土産でもと思って金平糖を買ったお菓子屋さんに向かってみる。
中に入ると店主のおばさんが居たので相談してみた。
「獣人の女性に渡したいんですけどお勧めはありますか?」
「今の季節は種類が少ないけど女性ならフルーツ系か花の蜜を使ったのがお勧めですよ」
お勧めされた4種類と商品化されていたサクサクミルク飴を3セット購入した。
本当はもっと買いたかったけどカトリーヌの好みに合うか分からないし。
「試作品だけど彼女さんにどうぞ、プニプニ飴だよ」
マシュマロだよ、このおばさん異世界人だと思うが聞かないでおこう。
転移魔法で戻りカトリーヌにお土産を渡すと喜んでくれた。
「帰るのが早いがジジィに挨拶はしてきたのか?」
「いえ、今回で自分の未熟さを痛感しました、今はまだ師匠に合わせる顔がありません」
そう答えると轟鬼は柔らかなまなざしで僕の顔を見て言う。
「あいつの弟子はお前とフォーゲル以外すべて殺された、不死だと分かっていても心配してると思うぞ。今回は良いが、たまには顔を見せに行ってやってくれ」
ジジィジジィ言ってはいるけど轟鬼なりに師匠の事は気にかけているんだろうな。
轟鬼に箱を2つ手渡した、カトリーヌにあげたものと同じものだが売らなかったカトーレイヌを1輪添えた。
「轟鬼殿の奥様とアルベール殿の奥様にと思って同じものを買ってきたのです、お二人ともカトリーヌを大切に思っていると思うので花も……高貴な方に1輪だけと言うのは失礼とは思いましたが差し支えなければ」
「本数ではない気持ちの問題だ。俺の妻も弟の妻もこういうのは大好きだから喜ぶだろう」
そしてこれからの事でいくつか説明があるらしく偵察隊長のジェームスが呼ばれた。
「ジェームスとは面識があるから紹介は不要だな、説明を開始してくれ」
ハッと返事をすると机に地図を広げた。
エルフ領ルギード内のおおまかな地図で都市の場所と街道が書かれている。
「シルマはここです、ここから街道を利用してペイシルに向かいます。馬車で2日程度あれば到着します。そこから街道は北東のペリエスタに続いていてペイシルからペリエスタまでは馬車で8日ほどです。これが正規のルートと呼ばれています」
サリエ達も言っていたルートの事だな。
「しかし首都グンフォスへ向かうにはこの正規ルートではなくペイシルから北進しワムード経由で向かう非正規ルートが最短となります」
「ちょっと待ってください、非正規ルートを使うと警戒されるんじゃないですか?僕はペリエスタからステルドへ最短距離だからと南下していたらエルフの守護隊に怪しまれましたよ」
そのまま森を抜けてこの街の偵察部隊に見つかって別室行きになったわけだし、と言うのを蒸し返すのはやめておいた。
「本来エルフ達はそのルートにも街道を作る予定でしたが途中の森に守護像があるため断念したそうです。非正規ルートと言っても守護像への接近をしなければ獣人であっても自己責任で通過は認められています」
守護像と言うとあのゴーレムか、近寄らなければいいだけなら問題ないだろう。
「ルギード内で名声を得るにはトリアーグ・ワムード・メディの3つの街で活動するのが良いと思われます」
トリアーグには闘技場が、ワムードは商業都市で物流の中心地、メディには高難易度のダンジョンがあると言われた。
「最後に最重要な事をお伝えします、ペイシルより西の森は『聖なる森』と呼ばれるエルフの聖域になっていて獣人の立ち入りは禁忌なので決して立ち入らないでください」
地理は苦手なので轟鬼に地図を貰えないかと言ったがそれは無理だ記憶しろと断られた。
翌日護衛のメンバーが決定し僕たちは馬車で旅にでた。
街道は快適で馬車はスイスイ進んでいく。
護衛の人が居るけど街道警備隊の人が付近の魔物は討伐しているので出番は無い。
馬を休めている間にカトリーヌと軽く手合わせをしているが護衛の人の視線が痛い。
夜は馬車の中で毛布にくるまって寝た。
何事もなく馬車は今日も進んでいく。
ペイシルに向かうためエルフの森に入って少し進んだところで急に外の護衛の人が騒がしい。
「何故こんなところに?」「エルフの街道警備はどうなっているんだ!」
魔物と遭遇したのかな?と思って馬車の外を見てみたけど魔物の気配はない、違う上か!
上空に魔物が飛んでいる。鷲?いや空飛ぶ馬か?
「あれはヒポグリフですね、街道沿いで出る魔物ではないんですけど、空の魔物の対策はしていないので逃げた方が良いかしら」
カトリーヌは落ち着いているように見えたが僕の膝の上に置いた手が少し震えていた。
「うわぁ~助けてくれ」
誰かが前足で胴体を掴まれて持ち上げられている。
護衛の人数は減っていないから商人とかの一般人か?
こちらに気が付いたヒポグリフが掴んでいた人を離し僕たちに対し戦闘態勢をとった。
「風よ集え、フロート」
落ちてくる人を風魔法で助けた後に退避するように告げた。
護衛の人たちが「魔法も使えたんですか?」と驚いているがそれどころではない。
魔法を使えば楽なんだけど森を傷つける恐れもある。
マリスのポーチから弓を取り出し矢を番える。
弓はかなり練習したので得意分野だけど自由意思で動く相手に使ったことは無い。
「ヒポグリフは素早いので矢は当てにくいですよ」
護衛の人たちは僕が弓を使っているのを見たことがないので心配そうだ。
魔法が使えるようになっているので矢にも魔法を付与できる。
光属性を強めに矢に込めて上空に放つ。
「外れましたね……」
カトリーヌが残念そうにつぶやいた。
そして続けて矢を放つ、避けられたのでもう一矢放つ。
「また外れましたね……」
「いえ狙い通りですよ、多分これで終わりです」
残念そうなカトリーヌに僕は自信ありげに伝えた。
ピュシュィーン。
空から流れ星の様に落ちてきた光の矢がヒポグリフを貫いた。
「速くて当てにくいなら死角から当たる位置に誘い込めばいいんですよ」
「あの技の名前はなんていうんですか?」
技と思ってないし名前なんて無いのだけど目を輝かせてこちらの答えを期待しているのが分かる。
「そ、そうですね。流星撃ちとでも言っておきましょうか」
師匠のネーミングセンスをどうこう言えない自分に気が付いた。




