祝福
3日目はいよいよ決勝戦。
相手はカトリと言う人でかなり防御の上手い。
会場は満員で盛り上がっている。
審判の人が体調を心配してくれたが問題ないと告げた。
「これより決勝戦を行います。カトリ選手、流 幻妖斎選手舞台へお願いします」
舞台の中央で僕はカトリと握手をした。
「よろしくお願いします、やっぱり決勝で会いましたね」
声を聞いたのは予選で声を掛けられて以来だけどやっぱり女性の声。
「それでは決勝戦、はじめ!」
僕はこの戦いで木製の短刀を使用する。
相手を甘く見ているからではない、オーラが使えないが闘気は武器に効果がない。
真剣を使用すると殺害すると負けのためどうしても手加減する必要がある。
手加減せずに当てて勝つ。女性と分かっても大会に出るのだからその辺りは覚悟の上だろう。
「いきますよ~」と言うと向かってきた。驚いた、昨日より格段に速い。
闘気も使えるようだ、昨日の蹴りも凄かったけど格闘技術もかなり高い。
相手の攻撃を受け流すときに短刀をコントロールしてこちらの攻撃を当てる。
カトリが大振りしたのを打ち落として胴に攻撃を入れた。
普通ならこれで決まると思うが闘気で攻撃の威力が落とされている。
一瞬うずくまったがすぐに攻撃に転じてきたスピードも落ちていない。
両肩を思い切り打つ。
ボキ、バキと音がした、骨が折れたであろう。
魔法や回復アイテムの使用が出来ない以上もう終わりだとは思うが油断はできない。
「まだ降参しませんか?」
僕はカトリに問いかけてみる。
「そうね、私の負けだわ。降参します」
僕はすぐに治癒士を呼ぶようにお願いした。
「武術の部の優勝は流 幻妖斎選手に決まりました」
大歓声に包まれる中、轟鬼が立ち上がって拍手をしてくれた。
大会終了後に優勝と準優勝は表彰があるので残るように言われ内部の個室になっている控室に移動する。
表彰も部門別になるので準備が出来たら呼びに来ると言われた。
どれくらいの時間が経過しただろう?
カトリの治療は終わっただろうか?流石に大会とは言っても女性にあの攻撃はやりすぎたかな?
心配しているとカトリが治療を終えたようで挨拶に入ってきた。
「痛みはありませんか?」
僕は少し心配だった。
「また負けてしまいましたね、でも今回はきちんと攻撃してくれてうれしかったです」
「また負けた?誰かと僕を勘違いしてないですか?」
カトリはフードを取り「カトリと言うのは偽名です、お久しぶりですね」とあいさつをした。
見たことがある顔だった。確かユベリーナの良い所のお嬢様だったな。
「たしかカトリーナさんでしたっけ?僕の外見かなり変わってるのによく分かりましたね」
「カトリーヌです。闘気の質であなただと分かりましたわ。あの時はお名前をお聞きできなくて。また会えて嬉しいです」
女性の名前を間違えるなんて失礼なことをしたな、と思ったが1年以上前に一度会っただけでよく覚えていたなと思う。
手合わせしたときにかなりの強さだったし、何よりかわいい……から印象が強かったのもある。
「ユベリーナから大会のために来られたんですか?」
「ユベリーナ?」
「あの時ユベリーナの方へ馬車が走って行ったからユベリーナにお住まいなのかと思いました」
「違いますよ、私は――」
ドアがノックされて司会の人に「表彰の用意が出来たので舞台の方へ」と呼ばれた。
準優勝のカトリーヌが表彰され次は僕の番だ、フードを被ったままだけど良いのか?
「今回の優勝者には特別にダグラス様より記念品の授与があります」
「勝者、流 幻妖斎の栄誉をここに称える」
記念品は綺麗な彫刻の施された小さめのブローチだ。
何か一言と言われたので軽く挨拶をする。
「今回は優勝できました。修行をしてさらに強くなります、初めて大会に参加しましたがこれからもよろしくお願いします」
カトリーヌが「私も一言いいですか?」と手を挙げ司会の人が許可をした。
フードを取り素顔を見せたら会場中がざわめだす。
「私はこの方に以前戦いを挑んで負けています、そして今回も負けました。私は強い人が好きなので流 幻妖斎様と結婚いたします。お父様いいですよね?」
は? 2回しか会ってないし、いきなりすぎる。
そもそも個別で言えばいいのに武闘大会の表彰で言う事じゃないぞ……こっちの意見も聞かれてないし。
お父様って父親も見に来ていたのか、試合と言っても自分の娘を目の前で痛めつけた男と結婚なんてさせたくないだろうな。
会場中が大歓声で収まらない。公開逆プロポーズだし、そりゃ盛り上がるよ。
司会の人が「お静かに願います」と言っているが収拾がつかない。
轟鬼がこちらに歩み寄りながら「静かにしろ!」と叫ぶと会場が静まった、流石の発言力で助けられた。
カトリーヌは注意されるだろう。
轟鬼は僕の肩に手を置いた。
「幻妖斎、俺はお前の力は認めている、娘をよろしく頼むぞ」
「え?娘?」
「前回言いましたよね?私の名前はカトリーヌ・ライオネル。前族長ダグラス・ライオネルは私の父です」
あの時は走って行く馬車の中からだったのでカトリーヌと言う名前しか聞き取れなかった。
表彰も終わり僕たちは別室で待機するようにと言われた。
しばらくして轟鬼が入ってきた。待っている間は僕とカトリーヌは何も会話していない。
「カトリーヌ、お前が言っていた自分より強い人間と言うのは幻妖斎の事だったのか」
「はい、あの時はお名前をお聞きできなかったのです。お父様は反対ですか?」
「この男の強さは俺も認めるところだ、お前が良いなら問題はない」
えっと……僕の意見を全く聞かれないんですが?
それに轟鬼にはいつか帰還をめざしてると伝えたがそれ以外にも大問題がある。
「轟鬼殿、カトリーヌさん。申し訳ないのですがそのお話はお受けできません」
僕の返事は予想外だったようだ。
「俺の娘を気にいらないか?」「私ではダメですか?」
2人が同時に言葉を発した。
「轟鬼殿にはお話ししましたがカトリーヌさんにもお話しますね」
そう告げて僕は先日話した事を告げた。
異世界人で不死者である事、いつかは帰還する意思がある事、そのために旅をしている事などだ。
「もし帰還してしまうとカトリーヌさんを残していくことになり悲しませることになります」
それとこれはある意味、些細ではあるが族長の家系の2人には重要な事と思う内容だ……。
「異世界人で不死者の僕には子供が出来ません。お孫さんを見せられないですし、轟鬼殿は族長に連なる家系なのですから最初から子供が出来ないと分かっているのは大問題ではありませんか?」
「なんだそんな事か。それ以外に問題は?」
そんな事で済む話じゃないと思うんですけど、答えに困っている僕を見て轟鬼が話す。
「俺の子供は他にも居る。もう孫も居るぞ、そもそも結婚は2人の問題だ、娘がそれで良いと言うのなら何が問題となるのか」
轟鬼はカトリーヌの方を向いて「今の話を聞いてお前の意見はどうなのだ?」と聞いた。
「帰還すると言ってもすぐは無理なんでしょう?冒険者同士の夫婦は沢山います。子供は……仕方ないですわ」
下を向いて恥ずかしそうにしている。
「でも私の事が嫌いなら……仕方ないです」
一緒に居て疲れないし、強いし、僕のことを受け入れてくれている、それに正直タイプだ。
「お互いをよく知らずにいきなり結婚と言うのは、心の準備も必要ですし。結婚を前提にお付き合いと言うのでは駄目ですか?」
カトリーヌは「それで問題ないです」とにっこり微笑んだ。
「もし良かったらこれを。カトリーヌさんに似合いそうです」
武闘大会でもらったブローチをプレゼントした。
「ありがとうございます、大切にしますね」
武闘大会の翌日、獣王ダグラス・ライオネルの娘のカトリーヌが人間と婚約したと大々的に発表された。
相手が人間のため批判も予想されたが武闘大会の優勝者でありダグラスが認めているため街中が祝福ムードだった。
 




