最後のひとり
第四試合はメルディスとフォーゲルの試合だ。
「さて、第四試合を開始します。メルディス選手どうぞ舞台へ」
観衆からの大声援に手を振りながら悠然と歩いてくる。
「メルディス様は皆様ご存じ前回の優勝者でこのシルマの街のマスターです!」
槍を持っているな、前回の優勝者がどんな戦いをするか見ておかないと。
「武術の部の最後の出場者、フォーゲル選手こちらへ」
「待て、試合開始前なら武器の追加や変更は可能だったな?」
審判に確認をして槍を準備させた。
槍を肩に担ぐようにして舞台に上がる。顔には仮面をつけていてよく分からない。
「フォーゲル殿は大会前日に欠場者が出たため緩衝地帯セントスより招待された謎の仮面選手です」
紹介された名前に会場がざわついている。
「セントスのフォーゲルってエリアマスターの霧の魔剣士フォーゲルか?」
「偽物だろ?あのフォーゲルなら武闘大会に普通は出ないだろう」
霧の魔剣士か、武術の部では魔法剣も使えないがどんな戦いをするんだろうか。
「それでは第四試合、開始です」
メルディスが槍を構えて叫ぶ。
「偽名を使うにしても別の名前にするべきだったな、槍は俺の得意武器だ、この俺が化けの皮を剥いでやる」
槍の連続突きを放つ、かなり速い。
前回の優勝者と言うのは伊達ではないな。
フォーゲルは全ての突きを手にした槍で防ぎきる。
「メルディスと言ったか、なかなかの使い手だがまだまだだな。槍とはこうして使うものだ!」
槍を横に振り距離をとった後に華麗な槍術を繰り出す。
捌ききれなくなり槍を打ち落とされたメルディスにフォーゲルが聞く。
「まだやるか?」
メルディスが降参して第四試合は終わった。
「30分の休憩の後に第五と第六試合を行います」
休憩時間の30分はすぐ過ぎて観客も興奮が収まらないと言った感じだ。
「それでは第五試合を開始します。ディール選手、カトリ選手舞台へどうぞ」
今回は同時に呼び出すのか。紹介は最初に済んでいるから効率的だ。
「初戦を圧倒的な力で勝利したディール様と戦わずに勝利したカトリ選手、今回はどんな戦いになるのでしょうか?それでは開始です」
合図とともにディールが距離をとる。
今回はどちらも素手での戦闘だ。
「悪いが俺は負けない、今回は最初から全力で行く」
懐に飛び込んで乱撃を繰り出す。
それに対してカトリは重心を後ろにして後屈立ち気味になり手首をうまく使って受け流している。
カトリって人は防御が上手いな、足運びも綺麗で派手さは無いけど美しく感じる、あとは攻撃だな。
ディールは激しく攻撃を繰り返すが大振りをしたところに的確にカトリのカウンターが入っている。
「なぜ攻撃をして来ない、俺をなめてるのか!」
カトリの重心が前に動いたと思った瞬間、蹴りがディールの頭に直撃した。
「ディール様、気絶のため勝者はカトリ選手!」
攻撃はその一撃だけだったがそれで勝負が決まってしまう。
カトリは強かった。
「第六試合、流 幻妖斎選手とフォーゲル選手舞台へどうぞ」
フォーゲルは片手剣を使うようだ。
「今回は波乱が続いていますがこの戦いはどちらが勝つのでしょうか?開始してください」
僕は短刀の2本構えだ、気を抜かないようにしなければ。
「お前は俺に勝てると思うか?今は絶対無理だ。それでも本気でかかってこい」
今は無理?僕の何を知っているのか。
「僕が勝ちます、あなたには負けない」
「ハッハッハ、僕がだと。自分の事を僕などと言う甘ちゃんに俺が倒せるか」
師匠の所を旅立ってから短刀2本を持ち本気で戦うのは初めてになる。
片手剣1本で全力の僕の攻撃を全てかわすのは不可能だ。
武神と言われる師匠に認められ、チェインで力も増している。
フォーゲルに対して全力で攻撃を仕掛けた。
数分間、僕の攻撃はかすりもしない、なんとか当てなければと心が焦る。
フォーゲルの懐に飛び込んで翔雷を使った瞬間、僕の方が弾き飛ばされていた。
仮面越しにも分かる憎悪と殺意に満ちた眼、闘気は空気を揺らすほどに強く膨れ上がっていく。
「お前は何を学んだ、闘気は武器に効果を及ぼさない。だから翔雷打つ意味がない」
なぜ翔雷を知っている?
「お前はこの世界に何を残す、人の真似事では限界を超えられぬ。型だけなら俺でも使えるわ!」
八双の構えをとった刀身が発光した……これは……オーラ?
振り下ろした剣は激しい雷の様に鋭く僕の右腕を切り落とした。
会場に観客の悲鳴が響き渡る、腕が飛んだのだからそうなるだろう。
今のは師匠の片手剣のオーラ技「轟雷」だ。
腕を片方なくしてで勝てるわけがない、僕は負けを覚悟した。
「オーラの使用は禁止です、よってフォーゲル選手の反則負け!治癒士を呼んでください、早く!」
治癒士が僕の腕を治してくれている、ちょっと変な感覚だ。
「総合の部でなくて命拾いしたな、聞きたいことがあるなら俺に勝てる程度には力を付けてからセントスへ聞きに来い」
そう言って立ち去って行った。
「決勝戦が明日行われますが棄権しますか?」
審判が僕に聞いて来たが、もちろん参加だ。
僕はそのまま屋敷に戻った。
結果は僕の勝利となったがあれは完敗だ、誰の目にもそう映ったはず。
なぜ師匠の技の名前を知り、使うことが出来たのか?あの強さの理由は?
師匠の弟子は60年前が最後とシュバイツが言っていたがフォーゲルは30歳から40歳くらいだろう。
分からないことが多い。
部屋で休んでいると大会の観覧を終えた轟鬼が訪ねてきた。
「体は大丈夫か?悪いことをしてしまったな」
「いえ、僕の力不足です……こちらこそすいません。」
「お前に合わせるために俺が呼び寄せたのだがあそこまでやるとは思ってもなかった」
轟鬼は少し申し訳なさそうだが、僕に合わせるためと言うのは?
「僕に会わせる理由があったんですか?師匠の技を知っていましたが何故なんですか?」
「あの男、フォーゲルはお前と同じなのだよ、異世界人で武神の弟子、それに本人の口からは聞いてないが不死者だ」
それなら師匠の技を知っていても納得は出来る。
「ジジィは23人の弟子をとった、22人は殺されたが最後の生き残りがあいつだ。正確には死ねなかった……だな」
シュバイツに聞いていたが残った1人が不死者だったとは知らなかった。
「元の世界に戻る方法があるからと世界中を回ったらしい、だが旅を突然やめてその圧倒的な武力で緩衝地帯セントスのエリアマスターとなった。今のあいつは俺を超えてジジィに匹敵する力がある」
師匠もフォーゲルも帰還方法を探しながら途中でやめている、なぜ最後までやりきらないか理由を聞きたいけどあの感じだと勝つまでは話してくれないだろうな。
「お前から不死であることや帰還方法を探していることを聞いて少しでも情報の足しになればとあいつに知っていることを教えてやって欲しいと伝えたら自分も武闘大会に参加すると言ったので参加することになったんだがこんな結果になり申し訳ない」
「力が及ばず彼に嫌われてしまいました」
僕の力を知って弱いと感じられてしまったのだろう。
「それは違う、お前の力は俺から見てもかなりのものだ。だが普段から気を張っておけとまでは言わないがお前は今の強さと不死である事に慢心して戦い方が甘い。出会った時のお前は強くなることに貪欲だった。それが今はどうだ、現状の強さで満足していないか?あいつはそれに腹が立ったのだろう」
師匠は「自流を名乗り自分を超えろ」と言ったが僕が使うのは師匠の技ばかりだ。
フォーゲルはそれを見て「人の真似事」と評価した。
武神と言わる師匠、今回のフォーゲルも僕よりも圧倒的に強い、その2人が途中で旅をやめるほどの難度ならそれを超える強さが無いと駄目だ。
「うむ、良い眼になった、明日は俺をガッカリさせるなよ」
「必ず勝ちます」
「ただ相手を殺害すると反則負けだからな、そこは注意しろ」
そう言って轟鬼は帰っていった。




