指輪の効果と武闘大会の予選
轟鬼の弟が族長と分かって帰還に向けてまたほんの少しだけど前進した。
「弟さんに面会したいのですが可能ですか?」
「無理だ」
え?無理って?まさか兄弟仲が最悪とか?
「弟は忙しい、それに族長と言うのは兄弟の知り合いだからと言ってすぐ会えるような軽い存在ではないのだ」
確かにそうだ、考えが甘すぎた。
「だが会う最短の方法は教えてやる。獣人は強い者へ敬意を払う。ステルド内での武闘大会の武術の部で完全優勝を3回しろ」
「優勝3回ですか」
「優勝ではなく完全優勝。判定勝ちが入ると駄目だそうすれば首都での大会に参加することが出来る。そこで優勝すれば面会できるぞ」
武闘大会について教えてもらった。
ステルドでは首都を含めて闘技場が4か所あり定期的に武闘大会が行われる。
冒険者Cランク以上で予選に参加可能、今回は6名の招待選手が居るため予選からは2名が本選に進める。
戦闘時間は15分で舞台から落とし30秒経過か相手に負けを認めさせるか気絶で勝利となる。
15分で勝負がつかなければ判定になり、もし相手を殺すと反則負けとなる。
完全優勝と言うのはこの判定勝ちが入らない優勝の事らしい。
武術の部と言うのは魔法禁止で総合の部は魔法使用可能、魔道の部は戦闘ではなく魔法の威力で勝敗が決まる。
「魔法使いで活動しているらしいが武術の部で正体がバレたくなければ偽名や覆面の使用も認められているぞ」
「師匠から貰った名前を偽りたくはありません、流 幻妖斎で出ます。」
よく考えたら流 幻妖斎と言う名前も偽名な感じがするが……。
「うむ、良い心がけだ。忠告しておくが武闘大会には女や子供も出るが手加減はするな。獣人には最も嫌われる行為になる」
あと3日で大会のはずだけど今から参加できるのかな?
「今回の大会は3日後らしいですけど今から登録して間に合うんですか?」
「今日中に参加登録すれば可能だ、ちょっと待ってろ」
轟鬼はそう言うと部屋を出て行きすぐ戻ってきた。
「参加の申し込みをしておいた、参加証はすぐ届くはずだ」
轟鬼と少し雑談をしているとダメルが入ってきて僕の側に来て何か紙を差し出した。
「貴様の武闘大会の参加証です、どうぞ」
受け取ると僕と轟鬼にお辞儀をして出て行った。
「当日それを持って参加者入り口にいけば問題ない」
なんとなく分かってはいるけど「貴様」と言われると違和感があると告げる。
「獣人が他種族に対する呼び方で上位の敬意を表すので慣れてくれ」
そう言われてしまうと慣れるしかない。
「もし、人間風情がと言われたら舐められていると思えば良い」
出会った時に轟鬼から言われましたよ……。
「質問ですがこの指輪って何ですか?見た瞬間に態度が急変したので気になって……」
「族長の指輪だな、各種族の長が実力を認めた他種族の者に贈る指輪だ。族長になった時10個だけ制作する物だ。指輪を持つ者への非礼は族長への非礼と同等とされる」
そんなに凄いものだったのか。
「ディールから報告を受けているが護衛隊長程度が族長の指輪の所有者を尋問部屋に連れていったと言う事実だけで軽くて隊長位の剝奪、最悪死罪もある」
「待ってください、指輪にそんな力があることを初めて知りましたし何かされたわけでもありません。ディールさんは職務をきちんとしているだけで――」
「話は最後まで聞け、今の俺は族長ではないのでそこまで効果はない。ディール本人が降格を申し出たが今回の事は不問とした。それで良いか?」
「もちろんです」
「そう言うと思ってたぞ。幻妖斎が権力を悪用する奴ではないと思っていたしな」
尋問部屋ってあの広くて快適そうな部屋だよな?あの部屋に連れていかれただけで隊長クラスが最悪死罪とか……轟鬼が族長を辞めていてある意味助かったかも。
「俺は族長を降りているから他種族には効果は無いが、ライオネル家の紋章が入っているので獣人に対してはまだ効果は発揮されるはずだ。獣人の街に入るとき門番に見せれば良いだろう」
「今日は帰るが準備を怠るなよ」
そう言い残して帰っていった。
闘技場の下見もしておかないとな。
ダメルとマヒームに案内してもらって見に行ってみる。
街のど真ん中に巨大な建物があり何かと思っていた、そこが闘技場だった。
「すごく大きくてビックリしました、結構古いですけど美しい造りですね」
「前々回の大厄災の時に巨大な隕石が落ちてきて街が壊れた際に復興のシンボルとして作られたのです」
「当時は他種族から無駄な建物と非難されたらしいですが今では街の誇りですよ」
大厄災か、シュバイツから聞いてるけど確か前回が100年ほど前と言っていたな。
前々回だと200年以上前の話か。
「武闘大会は3日に渡って行われます、初日は予選、翌日が本選、最終日が決勝戦で連日大盛況なんですよ」
「今回は本選からはダグラス様がご観覧になるので皆の気合が違います、ディール様も優勝を狙ってます」
ディールも出るのか、この大きい街の護衛隊長だからかなり強いんだろうな。
「貴様は武術の部に参加となってますが魔道の部ではなくて武術の部であってますか?」
外見は魔法使いだし心配してくれてるのかな?
「それで合ってますよ、武術の部で完全優勝目指します」
武闘大会初日になった、街は朝から大盛り上がりだ。
参加証を見せて受付番号「72」の札を貰い会場に入ると予選会にもかかわらず結構な観客が居た。
時間になり予選ルールが説明される。
参加は100名、50人の2グループに分かれて1グループずつ舞台に上がる。
舞台から落ちたら失格、最後の1名が本選出場。
1グループ目は番号1から50、2グループ目は番号51から100で別れる。
武器の種類、本数は無制限。大会本部から貸し出しも可能。
四肢欠損までなら首都から派遣された治癒士が回復するが命の保証はない。
種類を問わず魔法の使用、相手を殺害したものは反則負けとなる。
とりあえず49人を舞台の外に落とせばいいのね。
質問があれば、と言われたので手を挙げて質問した。
「オーラの使用は禁止事項に当たりますか?」
「武術の部ではオーラの使用は魔力使用を伴うため反則になります」
使うことは無いと思うけどオーラの発動に魔力を使用するため聞いたら会場がざわめいた。
50番までが呼ばれて続々と舞台に上がっていく。
「決勝戦で会いましょうね、楽しみにしてます」
番号10のフードで顔を隠した人から不意に声を掛けられた、この声は女性か?
戦闘が開始して1分も経たないうちに半分以上が脱落した。
大人数なのでとりあえず押し出せば良いので手当たり次第と言う感じだ。
開始から10番を見ているけど動きが滑らかで速い。
あまり積極的に敵に戦わず近くに来た相手だけを的確に避けて落としている。
残りが3名となった時に動いてポンポンポンと突き落として本選行きが決まった。
会場がすごく盛り上がっているけど人気の人なのかな?
2グループ目が始まる。
しばらくは様子見かな?と思っていたら大勢がこっちに向かってくる。
パッと見た感じ30人くらいか、ちょっと単純すぎるな。
僕は舞台の端の方に立っている、魔法が使用禁止のため後ろに回り込まれる心配はない。
30人が一斉に来ても連携もなく突っ込んでくるだけなら意味がない。
そもそも師匠の動きを見ているから遅すぎるし、隙が大きすぎる。
左前方からくる相手に向かって行って突き飛ばす、そのまま左側に居る数人を外に押し出す。
方向を変えて右側に居た相手をすべて場外に落とし、遠くで見ていた相手との間合いを詰めて落とす。
舞台上に一人だけ残ったが場外から異議が出された。
「そいつ強化か補助魔法使ったんじゃないか?」
もちろん魔法は使っていない、闘気で少し強化はしたけど武術の部だし問題ないだろう、闘気も駄目なら反則負けになるんだろうけどね。
審判が「こちらの方の魔法使用は確認されていません、よって72番が勝者となります」と宣言した。
予選これで終わり?
1日も時間とる必要なかったんじゃないか、と思ったがこの後に魔道の部と総合の部もあるそうだ。
さっきの10番と話がしたかったがすでに会場を後にしていると言われた。
宿、と言うか屋敷に帰るとダメルとマヒームも武闘大会の警備に行ってるので居なかった。
(やっぱり一人は寂しいなぁ)
今の屋敷が広すぎるのを除外しても寂しいし退屈だ、会話が無いとしてもそばに誰かいるだけで違う。
彼女とか友達とか欲しいなぁ……。
ただ、不死な上に地球へ帰還する目的だから自分の寂しさを埋めるためじゃ最後に相手を悲しませるだけだしな。
すぐは帰還できないと思うし世界を回って住みやすい場所で茶飲み友達とか作るのも悪くはないか。
パーン、パーン、パーン。火薬の音が3回なった。
武闘大会の初日が終了した合図だ。
明日はいよいよ本選か、流石に強い人ばかりなんだろうなと少し緊張した。
厄災とは数年の不定期で約1か月ほど魔物が活性化する現象。
魔物が凶暴化し変異個体も通常時より誕生しやすくなる。
貴重なアイテムを収集出来るため各地で冒険者の狩りが活発になる。
大厄災とは100年から300年前後で起きる。
通常は存在しない龍種が各地に現れ暴れる、隕石が降る、魔物が街に攻めてくるなど甚大な被害がでる。
出現した龍種をすべて倒すか1-2年で収まる。




