サリエとの再会と森の守護隊
勇者パーティ雪月花と別れて2週間過ぎていた。
僕は南に向かっている。
エルフ領ルギードの別の街に行くことも考えたが3人はしばらくルギードに滞在すると言っていた。
哲が落ち着くまでは僕の顔や名前を見聞きしない方が良いだろう。
なんて言ってるが結局僕は逃げたようなものだ、何の説明もせずギルドへの報告も押し付けて。
南にあるのは獣人のエリアで(ステルド)と言う名前のエリアだ。
グリアに転移してきたときにシェスとアイゼンに聞いていたけどエルフと獣人は過去に揉めたことがあるらしい。
シュバイツに教えてもらったのもほぼ同じ内容だった。
激しい争いはエリアが神々によって8つに分けられた数万年以前の話で今は表立って争ってないけど些細な足の引っ張り合いをしているとの事だ。
ウェイズは不死者だから分かるけどシュバイツって数万年生きてるって寿命あるのかな?
ペリエスタの街を出るときに門番から街道を南西に進むとペイシルと言う街があると言われた。
ただ、かなり方角が違うので街道を使わずに南へそのまま進んでいる。
街道から離れているから魔物が少しいるけど今の所は今日になる魔物は居ない。
森自体は手入れされている感じだな。
沼地に入るとヒルが居るけど教えてもらった方法で対応できている。
日本に居た時はよくキャンプしていたから森は好きだ。
葉っぱを一枚ちぎって草笛にして楽しむ。
(そういえば昔はこんな事してよく遊んだなぁ)
そんなこと思いながら歩いていると小さな広場のような場所に出た。
台座の上に石の塊が乗っているので近づいて調べてみる。
「これって確か森の守護者とか言うゴーレムだよな?」
シュバイツと会う前に森で戦っているのを見たのを思い出した。
ピー。高い音を出して矢が飛んできた。
僕に当てる気はないと分かるほど離れた場所に着弾。
わざわざ矢に笛のようなものまでつけているから警告だろう。
矢が飛んできた方を見ると弓を構えたエルフが5人、その内2人はかなりの強者なのが一目でわかる。
「守護像様から離れろ、人間。次は当てるぞ」
当たっても死なないんですけど?とか言える訳もないし無駄に争いたくもない。
とりあえず両手を軽く挙げて石像から離れて止まり手を下ろして良いか確認してから下ろす。
1人のエルフが木から飛び降りて自己紹介と質問をしてきた。
「私はこの辺りの守護隊長ハインツだ。貴様ここで何をしていたのだ」
「以前見たゴーレムと同じようなものがあったので見てました」
僕の答えを聞いて「なぜゴーレムだと分かった?石の塊にしか見えないはずだ」と言ってきた。
「少し前にペリエスタの北東で戦っているゴーレムを見たことがあったので……確かサリエ?っていう人が操ってましたね」
5人が集まってひそひそ話している。
ハインツが台座に何かをすると石の塊が石像に変わったがまだ動いてはない。
「あれ?あなたも神官なんですか?」
確かエルフの神官しか操れないと言っていた気がする。
「人間よ、お前に危害を加える気はない、少しだけここで時間をくれないか?」
僕の答えを聞いてそう言ってきたので、「良いですよ」と答える。
1分もしないうちに台座が光り見たことのある美しい女性が降りてきた。
これぞエルフってイメージで何度見てもうれしくなる。
ペリエスタでエルフをたくさん見たけどこのサリエって人は別格に綺麗だ。
「ハインツ隊長、緊急事態とのことですが貴方たちで対応できないほどの強い魔物が出たのですか?」
「いえ、この人間がサリエ様とお会いしたことがあると言っているのでご確認に」
サリエがこちらの方を見る。
(まずいな、会ったって言ってもチラッと会話しただけ。あの時と見た目も違うから分からないと思うんだよね)
これは面倒くさい事になりそうだ……と思っていた。
「あぁ、あの時の強き人の子ですね、確か流様と言いましたか。マーダーベアの群れの討伐でペリエスタ近郊に出た時だったかしら?」
「僕の見た目あの時とかなり変わってるんですけどよく分かりましたね」
「闘気や強さで判断しているのよ、例えばそうね、そこの5人で誰が一番強いか?誰が一番若いか?あなたに分かるかしら?」
普通に考えると強いのは守護隊長と言ったハインツなのだろうが後ろに居る中の1人が別格に強く感じる。
年齢は同じくらいかな?あれ、髪型とかが違うだけで顔の造りだけ見ると同じに見える。20歳そこそこの好青年達と言う感じ。
「一番強いのは後ろのその人、若いのはその隣の人ですかね?」
僕が手で指し示すと全員がクスクス笑い出す。
「強い者は正解です、しかしあなたが若いと示した者は最年長で300歳を超えていますよ」
守護隊と言うのは3人で構成されるらしく今いるうちの2人は指南役だそうだ。
ハインツが最年少で隊長に任命され初任務のため熟練が数日はサポートについてると言う。
「他種族が見ると外見と言うのはそんな感じです、私があなたをあの時の人の子と認識できるのはその強さゆえですよ」
そう言われると今は装備などで分かる5人を顔写真や外見だけで判別は難しいかもしれないな。
「僕がサリエさんの名前を出したので確認するという事になったんですけどあまり名前を出さない方が良いですか?」
名前を出すたびに呼び出されていてはサリエも迷惑だろう。
「今回は守護ゴーレムに人が近づき神官である私の名が出たので確認するルールになっているので名前を出しても問題はないですよ」
ハインツも申し訳なさそうにしているが彼は守護隊長の任務を忠実にこなしているだけだろう。
「僕は少し前にペリエスタに居たのですがダンジョン内で結構な数の草木系魔物を倒してしまって……すいません」
エルフとは今後も友好関係を築きたいと思っているしハインツは最年少での隊長、サリエは神官なら地位もあると思う。
ダンジョン内でも印象が悪くなると言ってたからキッチリ謝罪しておいた方が良いだろう。
「え?何を言っているの?冒険者なら魔物を倒すのは普通でしょう」
守護隊の5人も不思議そうにしているので聞いた話をそのまま話した。
草木系の魔物を倒しても問題ない、ただ魔物ではない動植物をむやみに傷つけると印象は悪くなるが自衛や生活の範囲なら許される。との事だ。
この辺りの話が混同されてしまったのだろうと言っていた。
エルフが冒険者になるには最低でもランクCクラスでないとなれない種族の決まりがあるらしい。
そのためペリエスタのような低難易度ダンジョンに行くものが居ないため草木系の魔物も倒すと駄目と勘違いされるのだろうとハインツが嘆いていた。
「エルフって他種族からそんな風に見られてるのか、森のために木を間引いたり生活のために獲物も狩るんだが……」
イメージと実際って少し違ったりする、その少しが誇張されて変なイメージが膨れるんだろう、人間でもよくあることだし。
「人の子よ、あなたはここで何をしているのですか?街道はこの辺りに無いですよ」
「獣人エリア、ステルドに行こうと思って最短距離かなと南に行ってます」
僕の答えを聞いた守護隊の人たちは「変わった人間だ」とジロジロ見て呟いた。
「ペリエスタから護衛付きの乗合馬車でペイシルに行ってエリアを跨げば10日ほどでステルドへ安全に入れるはずなんだが……」
護衛付きの乗合馬車……そんな物があったのは知らなった。
「ここからなら街道に戻るより南下していく方が早いですね。ハインツ、エリアの境まで護衛につきなさい。」
サリエの指示にハインツは即「承知いたしました」と返事をした。
「ひとりで行けますし、ハインツさん初任務でサポートが付いてるんですから任務優先してもらう方が……」
「いえ!神官の指示は最優先任務になります。」
「ハインツは期待の有望株なのです、森を行く者の安全も守護隊の大切な任務ですからね。」
サリエはサポートの指南役にテキパキと指示を与えてハインツのみが僕の護衛につくようになった。
護衛と言ってもエリアの境には明後日の朝くらいには着くくらいの距離のようで安心した。




