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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
グリアの5種族 ゼルディア大陸編
20/135

バケモノ。

 人々から勇者と言われる雪村は巨大な魔物を見上げて震えていた。

 目の前にいるのは高難易度くらいからしか出てこないはずの魔物なのだ。

 こんな初心者向けのダンジョンに出たのだから困惑するのは仕方がない。


 幸いなのはボスのアタックゾーンに入る前だった事でボスは反応していない。



 サイクロプス。

 角の生えた一つ目の巨人で強い腕力を持ち、角と大きな一つ目からは魔法属性の攻撃を放つ。

 知能も比較的高く回復役や魔導士を狙う場合が多い。目玉が弱点。

 討伐には最低でもBランク3パーティかAランクパーティが必要。



(俺が時間を稼ぐ?こんなバケモノを相手にどうやって?最悪の場合ここで全滅だな……)

 こんなに弱気になってしまったのは3人でパーティを組んで以来初めて。

 シンの回復魔法は確かなので、時間を稼いで治療が終わればボスを倒してダンジョンから脱出できるかもしれない。

 雪村はそう考えている。


 Cランク冒険者と言えばかなりの実力なのは間違いない。

 今回は相手が悪すぎた。

「ウォロロロローン」

 サイクロプスがあげた叫び声で雪村は死を悟り後ろを振り返ってしまった。

 シンは懸命に哲の治療をしているが哲は気を失っているようで動かない。

 腕を消し飛ばされて痛みで気絶しているのだろう。

 


 僕が自分の体に些細な違和感を感じていた。

 (不死のはずだ、確かに死んでないし意識もハッキリしているが体は動かない。そして全身温かく感じる)

 まさか、すぐ体を動かす事は出来ないのか?

 目の前で仲間が殺されるのを見せられるのか?

 このまま自分だけが生き残って、これからもずっと大切な人の死を見続けて行くだけなのか?

 いろんな考えが頭の中を通り過ぎていく。


 サイクロプスはゆっくり歩き始め近づいてきている。

 雪村は迫ってくる巨人を見上げて震えているが逃げようとはしていない。

 死を覚悟し動けないだけなのか、シンへの時間稼ぎなのかは分からない。

 サイクロプスが手に持った武器をゆっくり振り上げる。


 体がやっと動くようになり、なんとか立ち上がれそうだ。

 (このままじゃ間に合わない。実践で使ったことは無いけどやるしかない)

 シュバイツから教えてもらった魔法と歩法を融合させた移動法。

 移動加速魔法を使って瞬間移動したように見せる、(エターナルファントム)と言う歩法で移動した後に残像が残って移動した軌道に沿って流れるように消えていく。

 僕の体が雪村の後ろに移動した瞬間、僕は雪村の体を横にずらした。

 

 振り下ろされた武器は地面にめり込み地形が変わるほどの威力で当たれば即死だったろう。

 目を開けて隣にいる僕を見て雪村の顔が安心と不安が混ざった複雑な表情に変わる。


「流幻……どうして?胸を打ち抜かれて死んだはず……まさか不――」

「シンの所へ行って2人が僕の方を見ないようにして欲しい。雪村もこっちを見ないでくれ」

「お前はどうするんだ?」

「あいつを倒す、もしも僕をまだ仲間だと思ってくれてるなら、頼む」

 雪村には不死者だとバレただろう。

 シンのもとへ走り出す彼がすれ違いざまにたった一言「すまない」と確かに言った。


 

 マリスのポーチから武器を取り出す。

 一対の短刀、銘をそれぞれ(鴻鵠)と(燕雀)と言う。

 師匠の所を旅立つときに貰ったもので「強力なオーラにも耐えうる名刀」だと言っていた。

 

 オーラは一般的に闘気と魔素を魔力で融合させたものでオーラの強さは闘気と融合時に使用する魔力の消費量で決まる。

 神龍の涙を飲んでいる僕は融合時に体内の魔力ではなく神力を使うのだそうだ。

 神力と言うのは無限の魔力とも言える神が使う力のため闘気の出力コントロールを弱めないとオーラが異常な強さになると言う。

 実際、シュバイツの所で使用したオーラはかなり強力だった。

 魔法に関しては想像して使うので威力を制御できるが「オーラはむやみに使うな」とシュバイツから言われている。


 獲物を仕留め損ねたサイクロプスは叫びながら地団太を踏んでいる。

 これ以上暴れられると3人に被害が出るとまずい。

 ダンジョン内には僕達しか居ない。

 雪村には不死だとバレたと思うし武神の弟子だと言うのはそれに比べたら些細な事だろう。


 倒したはずの僕が動いているのに気がついたのかこっちを睨みつけている。

 バチバチ……角から雷属性の魔法攻撃をしてきた。

 直線的な軌道なので避けるのは容易いが後ろの3人に当たらないようにしないと。

 雷属性は当たると体が痺れる、つまり最初の攻撃は目からの攻撃だと思う。


 サイクロプスは頭を少し後ろに倒して力を溜めている。

 最初にやられた攻撃がまた来る。魔法属性の攻撃なら魔法壁で防御可能。

 僕の前方と念の為に雪村達の周りにも魔法壁を作っておく。

 ピシュィーン……さっき聞いた音が鳴り響く。

 今回はこちらに届くことは無く僕の前で魔法壁に当たり消えていった。

 これで遠距離攻撃の対応は出来た。


 短刀2本を逆手で持ち構える、実戦は久しぶりだ。

 闘気を弱めにコントロールしてから神力を体に巡らせるようにイメージする。

 発動したオーラを武器に纏わせると刀身が激しく発光する。

 シュバイツの所でコントロールせずに使ったオーラよりも激しい発光。

 おかしい、今は闘気をかなり抑えているはず。


 もう一度エターナルファントムで今度は相手の足元に入る。

 体をひねるように下から上に切り上げる。

 師匠から教わった翔雷と言う技だ。

 短刀に纏わせたオーラの光が空に翔け上がる雷のように見えるので付いた名前と言っていた。


 その威力は凄まじく何かを切った感触すらないほど簡単に切れた。

 サイクロプスの体は真っ二つに分かれて赤黒い光を放って消えていく。

 魔物を倒して赤黒い光が出たのを初めて見た。

 出たアイテムはサイクロプスの角と目玉。

 

 左腕の肘から下が無くなっていたのに哲の腕はほぼ治っていた。

 実際にここまできれいに治ると思っていなかったので驚いていてしまった。

 意識はまだ戻らないようだ。

 

 治療が終わり僕を見たシンが驚いていたが雪村が咄嗟に嘘をついて説明する。

「流幻の幻覚魔法さ、死んだように見せて油断させてたんだ。おかげで助かったぜ」

 そんな説明で納得するわけがないだろうと思ったが心づかいがうれしかった。


「う……俺はここで何を……」

 哲の意識が戻ったようだ。

「哲!無事だったのね良かったわ」

 その声に反応してシンの方を見た時に僕の顔を見た哲が発狂したように叫んだ。

「バケモノ。その男はバケモノだ、胸を貫かれたのを見た、なぜ生きている!」


 哲は剣を握り僕に向かって切りかかってくる。

 雪村が羽交い絞めにしてシンが僕の目の前に立って守ってくれた。

「バケモノ……か」

 反論や否定は出来なかった。

「あんな目にあって錯乱してるだけだ、許してやってくれ!」

「精神的に疲れてるだけで少し時間がたてば元に戻ると思うわ!」


 あんな魔物に会って腕が消し飛んだんだ、確かに2人が言う通りだろう。

 でも、僕が居ることで哲の精神的な不安が強くなるのはつらい。


「サイクロプスのアイテムは倒した場所にある。ギルドへの報告は3人でやってほしい、僕はここまでだよ。短い間だったけどありがとう」

 ボスのヘルドラゴンフライをウインドカッターでズタズタに切り裂いた。

 悪いけど八つ当たりだ。出た階段に僕は1人で向かう。

 振り向くと決意が揺らぎそうで怖かった。


 後ろで2人が何か叫んでいたが内容は聞こえなかった、いや聞かないようにした。


 僕はまた独りに戻った。

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