特殊変異個体 グロウンラフレシア討伐
魔物が落とした品物を拾うのを手伝い終わったら「階段出てる」と3層目に行こうとしていた。
ちょっと……と呼び止めた僕に3人は「なんだ?」と不思議そうに言う。
「いや、いろいろ詮索されるのかと思ってたから」
そういう僕に雪村が代表して答えてくれた。
「仲間っていうのは何もかも全てを知っている必要はないと俺達は考えてる、正直驚いたけど流幻が話したい時が来たら話してくれたら良い。俺も哲やシンに話してないこともあるし2人もそうだと思う。生きてたらいろいろあるさ」
不意に飛び出した「仲間」と言う言葉に少しうれしくなった。
会って数日だけどそんな風に思ってくれてるんだな。
「僕も3人とは仲良くしたいし、友達になりたいと思ってる」
3人はそれを聞いて「俺達もだ」と笑いだしたので僕も笑ってしまった。
グリアに来て仲間や友人と言う関係になったことがなかった。
力をつけたり学んだり自分が不死者だとわかって悲観したりもしたけど人との出会いはやっぱり良いものだ。
「仲間……か。そんな関係はもう二度と作れないかと思ってた」
おいてくぞー。と3人は階段に向かっている。
言葉になった心の声は聞かれなかったようで安心した。
3層に来たけど見慣れた草原が広がる。
2層までと同じはずなのだけど蜂の魔物が居るね?
「特殊変異個体が出る前兆として魔物の生態系が変わる事例もあるからそのためだろう」
ギルドから貰った資料に「3層で新たにジャイアントビーが確認された」と確かに書いてあった。
ここのボスはグロウンラフレシア。
昨夜こっそりとシュバイツから聞いた情報を確認しておいた。
ラフレシアの亜種で巨大な花。胴体から伸びる触手で獲物を捕らえる、触手は再生速度がかなり速く動きも素早く麻痺毒がある。花の中央部を雷魔法で貫けば瞬殺可能。
一応事前に雷魔法も出来ることを伝えたけど「だから何だ」的なことを言われたので一般的な情報ではないのだろう。
神龍から聞きました!なんて言える訳がないので悪いけどこれは黙っておこう。
麻痺はシンが治療可能。素早い触手も事前に特殊変異個体だと分かっていれば対応可能だと哲と雪村は言っていた。
問題は触手の再生速度の速さだと言う。
倒し方は触手を切り落として再生前に花弁を切断した後に中央の弱点を攻撃するのが普通。
触手の再生速度は速いため時間と集中力が必要になる。
今回は高位魔法使いが居るから別の方法が出来ると哲が言った。
哲に「氷魔法も使えるよな?」と聞かれたのはそれが理由のようで、触手の切断部位を氷で凍らせると再生しないのだと言う。
哲と雪村にシンが身体強化魔法、僕が火属性の魔法を剣に触手を切断しやすくなるようエンチャントする、2人が触手を切った後に氷魔法で切断部位を凍結。
ここまで出来れば負けようがないと自信満々だ。
触手は6本、全部とは言わないけど可能なだけ凍結させてほしいと言われた。
「よしやるか!流幻、シン魔法頼む」
雪村の合図で強化魔法と武器と哲の盾にエンチャントをして2人が攻撃を開始する。
結構な速さで触手が振り回される、これに当たると麻痺するんだよな。
棒とは違って触手は柔らかいので鞭みたいで軌道が読みにくい。
それでも2人はなんとか避けている。
「行くぞ雪村!」
哲がそう言うと向かってくる1本の触手を盾で弾き飛ばした。
「これでも食らえー」
弾かれて伸び切った触手の付け根に雪村が剣を振る。
スパっと切断された触手はまだウネウネ動いている。
「シン!身体強化の掛け直し頼む、流幻、動いて狙いにくいが凍結頼むぜ。2本目切ったら哲の掛け直しだ」
雪村がこちらに近寄ってきて叫んだ。
「フローズン!」
凍結魔法で触手の切断部位を凍らせる。
「よし命中だ!ナイス!」
同じように2本目を切断して哲が近寄ってきて強化魔法の掛け直しと触手の凍結が済んだ。
順調に攻略が進んでいる。
3本目を切断して4本目にかかったところで事故が起きた。
哲が盾で弾き飛ばした触手が別の触手に当たってしまい軌道が変わって雪村に当たってしまった。
「まずいわ、グロウンラフレシアの麻痺毒は早く治療しないと……」
雪村に歩み寄ろうとするシンを「来るな!」と雪村本人が制止した。
「俺が時間を稼ぐ!シンは雪村の麻痺解除と治療!流幻は武器と盾のエンチャントを掛け直してくれ」
哲がそう叫ぶと雪村を盾でこちらに弾き飛ばしてきた。
哲の盾には火魔法がエンチャントされている、治療って言ったのはその為か。
シンは即座に魔法を唱えている。
回復系の魔法は高い集中力が必要で治療中は他の事がほぼ出来ない。
哲の剣と盾にエンチャントを再付与した。
雪村の派手さと攻撃力に隠れてイメージが薄いが哲は攻撃も強い。
触手も半分に減っているので対応できるだろう。
考えた通り哲が4本目を切断した、僕は即座に切断部位を凍結させる。
あと残り2本……何とかなるか?と思っていたが哲の動きが急に落ちた。
シンが掛けていた身体強化魔法の効果が切れたのだ。
なんとか避けてはいるけど疲労もあってかなり危なそうだ。
僕もサポートに入るか?と考えていた。
「治療完了したわ」
治療完了と同時に雪村に身体強化をかけた。
「哲、交代だ!」
雪村はすごい速さで走っていった。
数が減って避けやすくなったのか雪村はすぐに5本目を切断。
身体強化を掛け直した哲も合流した。
雪村は花弁の攻撃に移って哲は触手を相手にして切り落とす。
会話もなくスイッチ出来るのは信頼の証だろう。
6本目の凍結をした頃には花弁のほぼ全てが切断されていた。
確かに触手は再生してこない。
花弁をすべて切断すると弱点が露出した。
雪村が最後の一刺しをしてグロウンラフレシアの討伐は完了した。
ドロップアイテムは触手3つと容器に入った蜜5つだ。
これだけかと思ったけど特殊変異個体がドロップすること自体がかなり珍しいらしい。
かなり高額でグロウンラフレシアの蜜は応急献上品レベルと聞いて驚いた。
「とりあえず記録付けるわよ、集まって」
記録?と思ったらあまり見ない魔物は戦った後にメモをしているそうだ。
「魔物図鑑はあるんだけど時間経った記録で曖昧だったりするからね」
見た目や大きさ、戦い方や注意点など4人で話しながら書いていった。
「初の相手でちょっと苦戦したけどシンと流幻いたから助かったな、あとは9層までササっと終わらせて帰ろうぜ」
ササっと終わらせるってまだ3層だけど?
不思議がる僕に「ここの9層のボスでもグロウンラフレシアより弱いんだよ」と教えてくれた。
このペースなら今日と明日の2日で終わるぞと言っていたけど無理なく確実にクリアしたいな。
僕たちは7層に居る。湿地帯のような場所で移動しにくい。
4-6層は草原ではなく森林ゾーンでペリエスタ近辺の森みたいな感じだった。
低難度と言われているだけあってランクCの冒険者のパーティには問題ない場所だ。
回復や補助が必要ないので歩きながらシンと少し雑談していた。
3人の故郷のセイルーンの話や孤児院の事など……。
彼女は哲と雪村が冒険者を辞めるまでついて行くと言っている。
辛いこともあるけど哲との旅は好きだからね。と、のろけてくれた。
確かに好きな人との冒険なら楽しいのかも?と思ったけど僕には今の所そんな人は居ない。
「おい、7層ボスが居たぞ」
楽しそうに話している僕たちを睨みつけて哲が言った。
フォレストスネイルと言うカタツムリ。
普通に比べたら大きくクーラーの室外機ほどで動きも遅い。
「こいつは俺が倒す、みんなは下がってくれ」
哲が盾を構えて近づいていく。
弱いんだけど倒すと甲羅が破裂して近くにいると危ないのだ。
パーン。思ったより軽い音で破片も数メートル程度しか飛ばなかった。
階段の途中の安全な場所で休むことにした。
「順調に来たがここで休憩して明日9層の完全クリア目指そうぜ、終わったら勇者活動再開だ」
勇者活動って言ってるのね。
若いって良いなぁ……見た目だけなら僕も20歳だけど。