勇者パーティに臨時参加することになった
僕たちはペリエスタと言う街の近くで夜営している。
明日には着くと思う。と雪村が言っていた。
街道に入ってからは魔物は全く居ないので安全だ。
3人がマリスのポーチを持っていることに驚いた、確かかなり珍しい者なんだよね。
「容量は大きくないんだけど、個別で持つことにしたの」
パーティの場合は大きめを1つにするか、個別で持つかで迷うそうだ。
3人分のポーチの金貨を合わせて1つにすれば5倍の容量になるのだそうだが個別の装備や緊急時の事も考えたと言っていた。
どうして冒険者になったのかと質問したら3人は顔を見合わせてから話しだす。
「私たちね、孤児院育ちなの。セイルーンて言う街の小さな孤児院だけど院長先生も厳しいけれど優しかったわ」
シンが口火を切り哲が続く。
「俺たちはその街で穏やかに暮らして一生を終えると思っていたよ」
「ある日、熱を出した子供のために院長は薬草を採りに行ったんだ、街の近くで安全な場所のはずだった」
「院長先生そこで魔物に襲われたの……ワイルドドッグって言う弱い魔物よ」
「今の俺たちなら一振りで倒せる、そんな弱い魔物でも街の人には脅威なんだ。だから冒険者になろうと決めた」
雪村が語気を強めた。
「最初は私の参加は反対してたのよね。『女を危険な場所に連れていけねぇ』とか言われてさ。でも回復魔法が使えたから半ば無理やりついてきたの」
「結果的には助かったよな、シンが居なかったら危ない時もあったし」
哲と雪村が口を合わせて言った。
「きっと院長もあの世で喜んで――」
「おいおい、院長先生は死んでねーからな!その時にシンが回復魔法使えるってわかったんだ」
え?ごめんなさい、勝手に死んだものと思ってました。
「今も孤児院で院長してるけどその時のケガが原因で片腕を失ってしまったのよ、あの時の私の力では四肢欠損は治療できなくて……」
ん?今は四肢欠損まで治癒できるの?
シュバイツの話では四肢欠損を治癒できるものは宮殿に仕えることも可能なほど稀有だって言ってたぞ。
「そこまで高位の回復魔法が使えるなら冒険者にならなくても良い暮らしができるんじゃ?」
稼いだお金で孤児院の子供を助けると言うのもありじゃないかと思った。
「ほら、この人達って無茶するじゃない?ケガされたら私悲しいし」
優しいんだなぁとシンを見つめていた。
「シンと哲は結婚してるからな、シンに惚れても駄目だぜ」
雪村がそう言うと哲とシンは恥ずかしそうに照れ笑いした。
翌日の昼前にはペリエスタの街の入り口に着いた。
他種族の者は入り口で入場審査があるそうだ。
冒険者はギルドカードを出せば通れるから楽チンと哲が教えてくれた。
「あんたらが勇者パーティ雪月花か、どうぞ」
僕達の番が来て3人のギルドカードを確認した門番がそう言うと周りが少しざわついた。
この3人って結構有名なのか?ランクCになるにはギルド推薦が要るらしいし信用もされているんだろうな。
「流 幻妖斎、ランクB……B!失礼しました。どうぞお通りください」
最後に僕のカードを見た門番の態度が急に変わった。
「流幻ってBランクだったんだ。滅茶苦茶に強い魔法使うから不思議じゃないけど驚いたぜ、トップのランクAだったとしても驚かないけどな」
あれ?ランクってSまであるんじゃなかった?
ユベリーナのガーラってランクAて言ってたからかなり強いんだろう。
無事に入国……と言うか森の時点でエルフの国ルギードだけど。
入国審査ではなく入場審査と言っていたな。
驚いたのは人間もそこそこいる、エルフは見たら一目瞭然なので逆に人間が目立つと思ったらそうでもなかった。
「ペリエスタってユベリーナから近いだろ?この辺りは安全だしエルフって森からあまり出たがらないから交易で人間が良く来てるんだよ」
哲が教えてくれた。そういえば行商人みたいな人間を街道で何度か見たな。
ここからどうしようか?
各部族の長に認められるため首都へと向かいたいけどパッと行って会えるわけではないだろう。
雪村たちに聞くとギルドで依頼をこなしつつ信頼を得た上で武闘大会での優勝が会える近道らしい。
「ギルドに行って何か良い依頼ないか見てみようぜ、流幻はどうする?」
「僕も行ってみるよ、受けられる依頼でもあればいいけど、無かったら初めてのエルフの街だし散策でもするよ」
ハイドに頼まれている特産品用のポイント貯まる依頼でもあれば良いんだけどな。
お昼過ぎと中途半端な時間なのもあってギルドは人も少なく依頼はあまり残っていなかった。
「雪村たちは街の近くで魔物狩り?」
「いや、エルフの森は守護者がいるから安全なんだ」
あぁ……あのゴーレムか。
「街の人の護衛とかの依頼も無かったな、今の所は平和なようで安心だぜ」
ポイントが貰える依頼ってどうやって見分けるんだろう?雪村たちに聞いてみたら簡単だった。
普通は貼りだされている白色の依頼の紙が青色なのだそう。
1枚だけあった、ペリエスタダンジョンの3階層のボスの討伐、緊急と書かれている。
3人が不思議そうにしてるので理由を聞いてみた。
「ペリエスタのダンジョンって9階層まであるんだけど3階層ならそこまで難しくないのよ」
「あぁ、ここのダンジョンは安定してお金が稼げるし低ランクに人気だからな、ちょっと聞いてみるか」
雪村が受付に聞きに行ったのでついていく。
「ボスが特殊変異個体になっていまして、Cランクパーティが半壊したのです」
雪月花と同じランクのパーティだけどボス結構やばいのかな?
「クリアを目指していて3階層だったため油断もあったそうです。グロウンラフレシアなのでなかなか対応が出来ず……」
対応が難しい強い敵なのかと思ったが理由はそうじゃなくCランクパーティなら普通なら対応が可能なのだと言う。
ただ、ここがエルフの国であるがために困っていると言う事で3人は納得している。
ペリエスタダンジョンの敵は花や木の魔物が多いのだそうだ。
「ここはエルフの国だ、エルフは草木を大事にする。ここのダンジョンにエルフがあまり入りたがらないのさ」
「他国の冒険者にしたら難易度のあまり高くないダンジョンには高ランクは来たがらないのよ」
「緊急って書いてる青紙にしては報酬も少ないからな」
あまり難易度高くなくて実入りが少なく高ランクは来ない。このまま放置していたら街自体が衰退しないかな?
「僕はこの依頼受けてみようかと思う、ダンジョンはちょっと興味あるし」
「流幻はエルフの族長に会いたいんでしょ?ダンジョンと言っても草木系の魔物を倒すとエルフに嫌われるわよ」
草木系の魔物を倒すとエルフに嫌われるのか……初耳です。
そう言っても困ってるなら何とかしたいと言う気持ちがあるんだよね。
「嫌われるから困ってる人を放置すると言うのもね……」
そう呟いたら哲とシンがこう言った。
「なぁ雪村、俺たちも行かないか?流幻のためにもさ」
「そうね、勇者パーティに着いて行っただけ、と言えば流幻のエルフからの印象はそこまで悪くならないんじゃない?」
雪村は仕方ないなと言う表情をして宣言した。
「勇者パーティ雪月花、緊急依頼受けてやるぜ」
その後、3人と一緒にギルの職員に各階層の情報と地図を貰った。
パーティ雪月花に僕がメンバーとして臨時参加と言う形をとることにした。
分配方法は1人25%の山分けで決まった、この辺りはキッチリして文句はない。
9階層まで行くと2-3日は掛かるそうだけど依頼の3階まででいいんじゃ?と思った。
「依頼は3階でも他の階でも変異体が居るかもしれないだろ?念のため見に行くんだよ」
確かに3階で討伐して戻ってきて他の階にも変異体が居ましたでは手間がかかる。
「一応確認だが流幻はダンジョン経験あるか?」
雪村が聞いてきた、哲とシンが高ランクの魔法使いだからあるに決まってるだろうと言っていたが僕が初めてだと言うと驚いていた。
ダンジョンでは先に魔物に手を出したパーティが交戦権を持つ。救援要請がない場合は手出し無用でこれだけ注意しろと言われた。
地球に居た頃MMOをやって経験があるからその辺りは理解できた。
今日は準備して明日の朝から出発する事になって食料やポーションなどを買い足した。
ダンジョンか、どんな所なのか気になる。みんなに迷惑をかけないようにしないとな……。