勇者パーティ 雪月花
シュバイツの所に来て1年近くが経過していた。
あらゆる事を知っている、生き字引とはまさしくこの事だろう。
知りたい事、聞くべき事は大体聞いたと思うのでそろそろ出発の時だと思っている。
記憶する事はほぼ無理なのでいつでも見返すことが出来るように紙に書いて残してある。
世界の成り立ち、各種族の歴史、魔物の生態など種類別に分けておいた。
もし聞きたいことがあればいつでも聞けとお墨付きもある。
もちろんその間も体術と短刀の訓練は欠かしていない。
更なる収穫もあった。僕の名前にピッタリだろうと魔法を利用した特殊な歩法を教えてもらったのだ。
「お主は魔法使いとして活動する事を勧める、武術は極力、最低限の護身にのみ使うようにした方が良い」
ここに来た当初シュバイツから言われた。
武神・疾風 流妖斎と言う名前の効果は絶大で武神の弟子と言う肩書はかなりの力を持つそうだ。
現在の疾風 流妖斎に勝てる者は5種族の中に誰もいないと言い切った。
その理由を聞いて僕は納得した。
「流妖斎が特別な不死者でチェインを2つ解除している、チェインを考慮しない場合の基礎能力値はお主よりはるかに上だ」
という事は師匠も帰還するつもりだったんだよな?結婚したから帰還しなかったんだろうか。
「流妖斎は60-70年前の10年間に23人の弟子をとった。そのうち22人は殺された」
武神の弟子を倒せば名声が上がると弟子たちが標的にされたんだという。
闇討ち・不意打ち・毒殺など22人が殺された方法は正当に評価されるべきでは無いが武神の弟子を倒したと言う名声はそれほど凄いものだったらしい。
そのような過去があり弟子をとらなくなったが最近また武神の弟子が出てきたと言う噂が流れている、見つかれば何をされるか分からないと言うのだ。
でも僕は不死なので(死なないか試したことは無いけど)大丈夫じゃないかと言ったのだけど。
「お主だけなら良い、もし親しいものが出来たりすると人質にされるなどの危険もある」
実際、近しい者が人質にされた例もあったそうだ、確かに他人を巻き込むのは困る。
ユベリーナでガーラやハイドと食事したりもしたので少し不安になった……。
「安心していい。冒険者ギルドのマスターや副マスターの関係者に手を出すバカは居ないだろう」
冒険者ギルドってそんなに権力あるの?
「そもそもユベリーナは安全と考えて良い、武神の庇護下にあるようなものだからな」
そういえば師匠は街の人に慕われていたな。
僕の姿も見られているがあの時と見た目が今はかなり違うので問題ないだろう。
特別な不死者の『自老不死』と言う特性だ。
8歳から80歳まで年齢を自在に変えることが可能なので今は20歳の時点の見た目にしている。
と、言う理由で護身用と言う名目で短刀は持っているが当面は魔法使いとして過ごすことにしている。
神樹トネリコの枝から作ったと始まりの杖と言うワンドとウェイズの血とシュバイツの神力を込めた糸で編まれた守護者の外套と言うフード付きのコートを貰った。
サラッと渡してくれたけど普通に考えて神話級の装備だよな……。
準備は出来た。
シュバイツに旅立ちを伝えたが、「気をつけろ」とだけしか言われなかった。
寂しそうにされると未練も出るから優しさなのだろうな。
ここから一番近いのはユベリーナだけど行ったことあるから最初の目的地のエルフの国ルギードのペリエスタって街に行ってみようと思う。
魔法を学ぶ目的は無くなったけど近いところからいろいろ回ってみよう。
街道までとりあえず行けば分かりやすいからそこをまず目指そう。
グリアって海を見る人って少ないのかな?この辺りは砂浜は無くて崖なので危ないんだろうけど。
岬のあたりは魔物も多いから冒険者とか魔物討伐に来ても良さそうだけど街から遠いし依頼もないのかな。
道中は魔法の感覚に慣れるため見つけた魔物は倒すようにしていた。
貰った杖を相手にかざし杖の先から魔法を飛ばす。
フード付きのコートに杖を持っているから見た目も魔法使いだろう。
遠くの方から戦闘の音が聞こえる。
少し離れた所で3人が大きな鶏のような魔物と戦っていた。
コカトリスだね、確か毒攻撃をしてくる。
盾を持って攻撃を受けるタンクと剣士、後衛は治癒士の3人パーティかな。
「くそー硬すぎる」「攻撃も重いぞ」「逃げた方が良いんじゃない?」
善戦してるが危ないのかな?コカトリスはかなり弱ってる上に全員軽傷しか負ってないように見える。
僕に気が付いた剣士が駆け寄って叫んだ。
「兄ちゃん、魔法使いか?あれを倒すのに協力してくれよ」
初級魔法だけど形式上の呪文を小声で唱える。
「風よ、敵を切り裂け。ウィンドカッター」
杖から飛び出した風の刃がコカトリスの首を刎ねた。
それを見た3人は「え?マジか!魔法つえー!」と顔を見合わせて騒いでいる。
彼らは武器をしまい剣士の男が挨拶してくれた
「ありがとう!助かったぜ!勇者パーティ雪月花とは俺たちの事だ!」
えっと……グリアって魔王みたいなのは居ないはずだよね?勇者って何するんだろう?
「ま、勇者パーティって言っても自称だし、各国を回って魔物討伐してるだけだよ」
「弱い魔物しか倒してないけどね~。倒した数と雪村の社交性でこう見えても一応ランクCなの」
盾役の男と回復役の女性が申し訳なさそうに話した。
コカトリスはBランクの魔物だ、謙遜したように言っているが実際結構強いだろう。
剣士がリーダーのようで紹介してくれた。
「俺は剣士で勇者の鵜藤 雪村。こいつは盾役の月元 哲也。そしてこいつは回復役の花矢 シン。お兄さんの名前は?」
武神の弟子と言うのは隠して、名前を名乗ておいた。
「僕は流 幻妖斎と言います。見ての通り魔法使いです」
3人がザワザワしていたのでなぜだろうと思ったら魔法使い自体が珍しく首都の冒険者ギルドばかりで田舎にはほぼ居ないそうだ。
「弱い魔物ばかり相手にする自称勇者パーティに入ってくれる魔法使いは居ないんだよ」
「ダンジョンに行く高ランクパーティに魔法使いは引っ張られるからね」
月元と花矢がそう呟いた、ダンジョン行きたいのかな……?
「何言ってるんだよ!弱くても魔物だ、倒して街の人が安心して笑える世界にする!そう決めただろ?」
鵜藤が自分に言い聞かせるように声を出した。
どこの世界も好奇心の強い若者はダンジョンと言う響きに胸高ぶるんだろうな。
「私たちはこれからペリエスタに向かうんだけど魔法使える人が居ると戦闘も助かるし方向が同じなら一緒にどうかしら?」
「花矢さんたちが良ければ是非」
僕もペリエスタに向かっているし一人だと寂しいから快諾した。
「改めてよろしく!俺の事は雪村、こいつの事は哲、彼女はシンとでも呼んでくれ、お前の事は流幻って呼ぶけど良いよな」
仲も良くて雰囲気の良いパーティで安心した。
街道に向かい進んでいるとホーンボアが5体いた。
素早く戦闘態勢をとる3人、慣れてるなぁ。
「ちょっと試したいことがあるんで待って」
僕はそう言うと呪文(的なもの)を呟き哲と雪村の剣と盾にエンチャント魔法をかけた。
「うぉ~魔法剣だ!」
雪村が興奮して叫んだ。剣には火の盾には氷を付与した。
突進してくるホーンボアを盾で防ぐとぶつかった部分が凍る、想定したように効果が出て安心した。
5匹は短時間で倒し終わった。
「良かったわね、2人とも念願が叶ったじゃないの」
シンが言っていた、やっぱり剣使う人だと魔法剣って憧れるんだね。
「おぅ、初めてで興奮したがエンチャント魔法は魔力消費大きいだろ?強い魔物が出た時だけで良いぞ」
「俺の方は盾にだけで良いからな、メインの攻撃は雪村がやる」
魔物を解体してそのまま食事して寝ることにした。