表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
絆と束縛編
133/135

最大級の祝福を受けた結婚

「目覚めてすぐで悪いのだけど、大事なお知らせがあります」

 ジュリアが僕に話しかけて来た。


「結婚式が7日後、披露の宴が10日後に決定しています。娘は嫁ぐ身ですがライオネル家という事もあり他種族にも知らせてあります」

「え?急に決まりすぎてますけど準備は大丈夫ですか?」

 実は日程は前から決まっていて準備も整っている、僕が知らなかったのは聖魔戦争に行っていたから、と言われた。

 式は挨拶するだけだし、披露の宴も異世界人の僕よりカトリーヌを祝う人が多いだろうし座ってるだけだからな。

「何人か呼びたい人が居るんですが良いですか?」

 ジュリアは「もちろん」と快諾してくれた。

 他種族に知らせていると言っても正式な賓客が来る予定は無いという事だ。

 正式な次期族長のスピリエよりも盛大にはやりにくいんだろうな、と思ったけどカトリーヌも気疲れしなくて良いだろう。


 その日のうちに僕は転移魔法で各所を飛び回った。

 各種族の宮殿には知らせてあるのでそこは除外だ。

 まずはキュレリー商会のオリバーに報告へ、本来は師匠を先にするべきところだが実は彼がかなり根回しをしてくれていたのを最近知った。

 スピリエの宴にエケットが来ていた事や、天と地の短刀を制作する際に金貨が足りない事を知り「費用はキュレリー商会が出す」と言っていたようだ。

 結果的には師匠たちのおかげで助かったけど。各種族の首都で対応が丁寧だったのも、オリバーが随所で僕の事を持ち上げてくれていたと聞いた。

 次はもちろん師匠の家、次はユベリーナのギルドのガーラとハイド、ガーラに僕が若返っている事を怪しまれたが魔法と言っておいた。

(あれ?そう言えば以前、師匠の家に来ていたハイドに会った時に若返っている事を何も言われなかった気がする)

 シュバイツにも一応報告ついでにウェイズの居場所を聞きウェイズにも報告に行った。

 そのままセントスへ飛びフォーゲルに報告し、ラルドに大陸間転移をする旨を念のため伝えると「まぁ良いだろう」と言ってくれた。

 ドワーフのイリジーンとロイド兄弟に会ったついでに短刀の修復をお願いした後は、小人領のルオス鉱石店のエケットに報告した。

 雪村たちは何処に居るのかが分からないので困ったがギルド通信で連絡が取れて一安心だ。

 

 結果的にはハイドとフォーゲルとラエル、シュバイツとウェイズは不参加。

 ギルドのマスターと副マスターが同時に居ないのは問題になるそうで、フォーゲルはエリアマスターのため遠慮しておくと言われた。

 ラエルは友人の宴に参加すると先に決まっている、シュバイツとウェイズは……まぁ気まぐれだし、人類ではないから仕方がない。

 

 

 時はあっという間に過ぎて今日は結婚式当日だ。

 獣人の正式礼装を身につけたカトリーヌは綺麗に見える。

 普段は綺麗と言うより可愛い感じなので驚いたが結婚式と言う特別な魔法にかかっているんだと思う。

 僕の身内はグリアに居ない、会場内に居るのはライオネル家だけなので少し寂しい。

「俺っちが新郎の親族側に居てやるよ」

 何気なく呟いた言葉にピーフェが気を利かせて言ってくれて嬉しくなった。

 会場に近づき扉が開いても話し声もない、静寂が緊張感を高めてしまう。

「僕たちは結婚した事をここに報告いたします」

 棒読みの上に少し声が上ずってしまったが覚えていた言葉を告げ僕とカトリーヌは部屋に戻る。

 

 部屋に2人で挨拶に行ったが、ライオネル家が揃っていると絵になる。

 正式礼装の全員が何と言うか不思議な雰囲気を醸し出していて荘厳な絵画のようだ。

 ただ、全員が話しやすい。式までの数日を使って親交を深めていたという事もあると思う。

 


 そして披露の宴の当日、空は澄み心地よい風の吹く良い天気になった。

 広場には多くの人が集まっていて、カトリーヌが好かれているのを実感できる。

 来賓が居ないのでスピリエの時よりは警備が少ない。

 座ったまま居れば良いので気楽に構えている、異世界人の僕を祝いに来てくれる人は数名だ。

 

 広場まで僕とカトリーヌが歩いて行くと激しい喝采が鳴り響く。

 カトリーヌが知り合いを見つけるたびに手を軽く振っている。

 歩く速さを合わせてゆっくりと移動しているので、いろいろな意味で少し恥ずかしい。

 広場に設置された席へ座り周りを見ると人の多さに驚いた。

(異世界から来た僕がここに座っていられるのも異例なんだよな。二度と無い機会だし、しっかり目に焼き付けよう)

 一気に身が引き締まる気持ちになり、隣に目をやるとカトリーヌは、にこやかに笑いながらも目に涙が滲んでいた。

 そっとハンカチを渡すと、僕たちの席の後ろに獣人の正式礼装を着た轟鬼が小走りで走って来たのが見えた。

(あれ?披露の宴って親族は参加しなくても良いんじゃなかったっけ?)

 宴が始まろうとしたその時、馬車がこちらへ向かってくる。

 小さいながらも美しい装飾で、見た事の無い紋様が大きく記してある。

「あれはステルドのエリアマークですわ……どうして私たちの宴に……」

 エリアマークって領地固有の模様で最重要とか言ってったよな、そう言えば獣人領のマークは初見だ。


 馬車から降りて来たのは師匠で武神の礼装と言われる、あの服を着てこちらに歩いてくる。

 その姿を見た街の人は水を打ったかのように静まり返った。

 反射的に立ち上がろうとした僕とカトリーヌを手で制止し僕たちの前まで来ると大声で話した。

「この幻妖斎は私の子供のようなものだ。その子と友である轟鬼の最愛の娘の両名の結婚を祝いに来た。おめでとう、2人の幸せを心より願っている」

 その言葉が終わると大歓声に包まれ、僕の背後から轟鬼が師匠に聞こえるように呟いた。

「武神の礼装を着て来られると対応に困るんだがな……カトリーヌに対する最高の祝福だ。親として礼を言っておく」

 困ると言いながら嬉しそうなのは振り向かなくても声を聞けばわかる。

 師匠はそのまま馬車に乗り込むと帰って行ってしまった。


 この後は街の人達がお祝いの言葉を掛けてくれた。

 来賓が居ないため順番は適当のようだが、途中でシュバイツが「めでたい事だ」とだけ言って人ごみに消えて行った。

 ギルドマスターのガーラは「戦姫ジュリア様はどちらに?」とジュリアに会いたそうだった。

 駆け出し冒険者の頃から戦姫と言われる彼女を尊敬していたようで、宴の後に紹介すると大喜びして飛び跳ねてた。

 イリジーンとロイド・コデル兄弟も来てくれて、天と地の短刀は修復できるから安心しろと告げてくれた。

 雪月花の3人は任務が終わって孤児院に戻っていたそうで、院長のアリエスを連れて4人で来てくれた。

 このアリエス院長、かなり有名なようでいろんな人に話しかけられていたのに驚かされてしまう。

 師匠を除外すれば会場が一番騒然となったのは、オリバーとエケットが2人揃ってきた時だ。

 『商人界の双頭の龍』と言われるこの2人が公の場で揃って顔を出す事はほぼ無いと言うから分からないでもない。

 並んで来たのはどちらが先に行くかで揉めそうになったからだ、と後から教えられた。


 カトリーヌの人柄もあり多くの人が祝いに来てくれたので気が付くとかなり時間が過ぎて夕方になっている。

 1人の老人がフードを被って歩いて来た、顔はよく見えないけど知らない人だからカトリーヌの知り合いだろうな。

「結婚おめでとう、特別な者よ。久しぶりだな。私は火の賢者ボルドー、賢者を代表して祝いに来た。これからもステルドを……グリアを頼むぞ」

 老人はそう言うと人の中へと消えて行った、追いかけたかったけど立ち上がれないし、どうしようもない。

 魔法なのか顔がぼやけて見えていた、警護の人に探してもらったが見当たらなかった。

 警護の人が走り回ったからだろう、広場の周りに居た様々な色の小鳥たちが一斉に飛んで夕日の光に消えて行った。


 最後に1人の黒ずくめの男が近づいてくる……ロキだ。

 流石にこんな時に連れ去ったりしないよな、と少し不安になった。

「俺も祝ってやる」

 たったそれだけを言って帰って行ったがカトリーヌは満足そうに笑っている。

「神様に祝っていただけるなんて幸せですわ」

 よく考えれば神からの祝いの言葉は最大級の祝福だよな。


 式と宴が終わり、僕とカトリーヌは正式に夫婦となり大きな絆が生まれた。

 

今回も最後まで目を通していただきありがとうございます。

事実婚状態でしたが、正式に夫婦となりました。


次回

「セントスで見た犯罪者とフォーゲルの決意と覚悟」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ