妖精界エッセンの秘密に残された希望と当たらない攻撃
聖魔戦争に深く関わる理由は無い。
悪魔が歌を教えてくれたのは、見逃した礼だと言っていた。
妖精は死んでも記憶を無くすが転生するそうだ。
それでも好き好んで争っていないなら止めたいし。
そんな気持ちになるのは『グリア』と言う世界に愛着が芽生えて育っているからだと思う。
「良いだろう。望むなら教えてやる。異世界人である特別な不死者のお前への特別な計らいだ」
ロキは順番に教えてくれた。
「聖魔戦争が本当の意味は妖精の数減らしのためだ。妖精と人類のためでもある。妖精に自然死は無い上に誕生の樹から無限に生まれてくる」
妖精って寿命は無いのか、でも人類のためってどういう意味だ。
「妖精が増えると地上の魔素が濃くなる、強力な魔物が発生しやすくなるのだ、数を調整せねば地上が危険になる。そしてエッセンの領域が無限ではない事で妖精が住めなくなる」
転生すると言っても争わせて数を減らすなんて他の方法は無いのか?
「終わりは現存するレイスを除く妖精、つまり天使と悪魔を合わせて開始時の半数以下になれば良い。簡単な事だ」
どれ位の数が居るのか分からないけど、半数以下って熾烈な生存競争になる。
「起こさない方法は無い。妖精の転生や誕生を止めることが出来ないからな。早く終わらせる方法ならあるぞ、毎回お前が神剣を振れば良い」
ロキは間を置かず話し続ける。
「リベレイテッドは妖精に起こる現象だ。反属性の領地で体が重くなり動きが鈍るのは経験済みだろう?妖精も同じなのだ。反属性の力で自属性の力が体内に圧縮される」
「そうなんですね……って、爆発してましたよ!」
「力が圧縮されたまま聖魔戦争が終わると反属性の領地に居た妖精の圧縮が解け抑圧から解放されるが、その反動に抗えず爆発するのだ」
「それだったら、聖魔戦争が始まっても戦わず90日が過ぎればどうなるんですか?」
無理に戦わず待っていれば死ぬことが無いのではないか?と言う単純な疑問だった。
「開始されると天使と悪魔の3分の1が強制的に反属性の領地に配置され戻る事が許されない。戦わなければ双方が壊滅的な損害を受けるだけだ」
それだと戦争終了時に半分を下回らない、もちろん反属性に配置されたものを見殺しにしてしまう罪悪感はあるだろうが……生存率は上がる。
僕の考えは読まれているようで、鼻で笑いながらロキが言う。
「光がある所に闇が生まれる、闇が無ければ光も生まれない。つまり天使と悪魔は対を成す存在なのだよ」
どういう意味かと訪ねるとロキは不思議そうだ。
「ピーフェとかいうレイスに聞いていないのか?魂は2つが1つになって融合転生を起こす。つまり天使が死ねば悪魔が、悪魔が死ねば天使がランダムに選ばれ融合する」
「それは聞いてます。死んだ天使と悪魔の魂が融合するって事なんですか?」
「エッセンで突然消える妖精を見た事は無いか?死んだ妖精と反属性の生きた妖精の魂が融合する、仮に天使10体を倒せば、生きた悪魔10体が消えて魂となるという事だ」
ピーフェは魂が奇数になって余ることは無いと言い切っていたけど、まさかそんな残酷な事だったとは知らなった。
ロキやラルドが天使悪魔関係なく倒す考えなのは、どちらを倒しても反対側の妖精が消えるからと言う事か。
「そして安心しろ。聖魔戦争はしばらく開催されない。お前に神の歌を教えた悪魔は消えてはいない。上位妖精候補以上になった者は自身の死以外では融合相手に選ばれる事が無い」
悪魔の事はバレていたが、問題になる事ではなさそうで安心したけど聖魔戦争が開催されないって何故?
「神剣の威力で天使のほぼ全てが死滅した。数が戻るまでかなりの時間を要する。その間はお前の望み通り聖魔戦争は開催されない」
天使が死滅した……つまり悪魔もほぼ全て消えたという事になる。
転生と誕生があるので気にするなと言われたが、今話した話は天使と悪魔にはするなと念押しされた。
話を聞き終わり僕は後悔した。
出来る事が無いのだ。聖魔戦争を止める事も、悪魔にその事実を伝える事も。
元の世界に戻ると言ってもグリアに混乱が起きて欲しい訳ではない。
無理矢理に聖魔戦争を止めて地上に強力な魔物が出たり、妖精に住む場所が無くなったりという事も望んでいない。
自分の力なら何か出来る事があるんじゃないか、その考えが驕りであると気が付かされた。
望んで開いたパンドラの箱に微かな希望が残っているとすれば……忘却すると言う事実。
「質問には答えた。次はお前が応える番だ、幻妖斎」
こちらを見つめていたロキが発した声は2人しか居ない場所でハッキリと響いていた。
アイギスの盾を外して天と地の短刀を構える。
短刀で戦うのか?と聞いて来たロキに答えた。
「3つ目のチェインが解除されて初めの戦いなので慣れた短刀で行きます」
一気に切り掛かる、チェインが解除され能力は大幅に向上している。
ロキの攻撃が見えて防御が可能になっているのは自分でも驚いてしまったけど僕の攻撃が当たらない。
「少し開放するか」
その言葉の後からロキの攻撃速度が上がった、目で追えるが徐々に追い詰められ右手の短刀を薙ぎ払われてしまう。
取りに行ける距離ではない、そう判断した僕はメリアルメを片手剣に変化させ攻撃を繰り出す。
片手剣と短刀の変則的二刀流で、実用性の悪さからあまり使用者は居ないとカトリーヌから聞いている。
今回は神の金属メリアルメを使用している事もあり、重さがほぼ無いから出来る芸当だ。
全ての攻撃はロキの持つ片手剣1本で華麗に防がれてしまうけど、その珍しさからロキの顔は少し満足そうにニヤついている。
僕の脳裏にある思いがよぎった。
(ここで神剣を使えば勝てるんじゃないか?)
瞬時に距離をとり、神剣を出してオーラを込め制御する……自分でも驚くほどの速さで準備が出来た。
ロキに対して攻撃を繰り返すがまったく当たらない。
「能力が上がっても思考が何も変わっていない。俺の話を聞いてなかったのか?今日はここまでだ!」
ロキは剣を持ったまま両手を前に突き出すと、真っ赤な炎が黒色に変化し光りながら大爆発を巻き起こす。
この魔法は神炎の輝き……まさか自分が受ける事になるとは……僕の視界は真っ黒へ変わり全身に激しい激痛を起こし、ここから記憶がない。
目が覚めるとベッドに横たわっていた。
全身がまだ軋むように痛い、こじんまりとした部屋だけど綺麗だが誰も居ない。
「どこだ、ここ?確かロキと戦って……そうだ、神炎の輝きの直撃を受けたんだ。マズいんじゃないか?」
誰かが運んでくれたんだと思うけど、僕が不死者なのはバレたと思うし、神剣を持ったままだったはずだ。
神剣どころか天と地の短刀も無い……。
慌てて部屋を飛び出した僕が見たのは、見慣れた部屋と見慣れた女性。
グリオベーゼの宮殿内部、ジュリアの居室で彼女が本を読んでいたが僕の姿を見て飛び上がった。
「5日程前にロキ様が現れて『こいつを誰にも見られない場所に寝かせろ、目が覚めたらこの手紙を渡せ』と言って消えて行ったのです」
慌てたジュリアはお手伝い係の待機室に僕を押し込んで寝かせたと言う。
手紙を手渡してくれた彼女は安心したのか、椅子に崩れるように座り込んでしまった。
『装備はマリスのポーチに仕舞ってある。以前、投げかけた問いの答えをまだ見つけてないようだな。もっと成長しろ』
投げかけた問いって、攻撃が当たらない理由で答えは知ってるとか言ってたやつだったよな。
結局は答えが分からないまま今まで来ている。
ポーチを見ると神剣は収納されていて、天と地の短刀は鞘と柄が壊れたようで刀身だけが入っていた。
魔法を吸収すると言っても神の魔法は流石に耐えられなかったようだけど刀身は耐えてたのに驚いてしまった。
修復をお願いしないとだけど、イリジーン激怒しそうでちょっと怖い。
最後まで目を通してもらえて嬉しいです。
次回の話は「最大級の祝福を受けた結婚」




