3つ目のチェイン解除
聖魔戦争中には最奥は隔離され誰も入ることが出来ず、もちろん攻撃も無理という事だ。
妖精王と言う存在は、それだけの地位という証でもある。
聖魔戦争は起こっていない期間に話が出来ればと思ったが、そもそもエッセン自体に僕が入ることは出来ない。
前回のように神の同伴であれば来ることは出来るが、妖精王への面会を神が認めないはずと言われてしまった。
「それなら、戦争が終わった後に天使や悪魔がそれぞれの王に『聖魔戦争を止められないか』聞いてみると言うのは無理なの?」
「聖魔戦争が終結すると普通の妖精から聖魔戦争中の記憶が消えるんだ。周りに戦争の話をしても信じて貰えず、俺は悪魔の中で嘘つき扱いされてるのさ」
そう言う制約があるのか、と思ったがこの悪魔は僕の事を覚えていた。記憶が消えるとか嘘ついてるのか?
疑念を持たれたことに気が付いたのか、即座に否定して来た。
「上位妖精に仕えてたって話しただろ?こう見えても上位妖精候補だったんだよ。落ちぶれちまってるけどな」
この悪魔の話では、上位妖精からは記憶が消えないそうで上位妖精候補だった自分も記憶が消えないそうだ。
「お前に頼みたい事がある。どちらかの勢力の妖精を全滅させてくれないか?戦う相手が居なければ戦争にならないだろ……」
声が震えているが、僕の心にその言葉が突き刺さった。
確かに相手が居なければ争いにはならない。
でも聖魔戦争は繰り返されるし、妖精が全滅しなくても終結はある。
誕生の樹から妖精が生まれてくる上に、創造神の結界があるから誕生の樹を壊すことは無理だ。
「光の領地に行って出来るだけ倒してきますよ。でも全滅させることは出来ないと思うので、そこまで期待しないで下さいね」
「あぁ、終わる条件が分からないが『戦争』なのだから数が減ったら終わる可能性もあるからな……頼む」
僕の目的、ロキの目的、そして妖精の願いが同じ道を示していた。
散策なんて言っている余裕はない、光の領地に急がなくては……僕はすぐに走り出していく。
「そうだ、君の名前は何て言うの?」
「妖精に名前なんてねーよ」
ピーフェも言ってたな、今度会った時には名前を考えよう。そんな事を思いながら駆けだした僕に手を振って見送ってくれた。
光の領地に入って移動加速で少しだけ奥へと移動する。
体が重くなってきたけど、これくらいの距離ならまだ耐えられる。
南下し中央へ近づくと天使の数が増えて行く。
アイギスの盾のおかげで攻撃はかなり防ぐことが出来て致命傷にはならない。
妖精の戦力はとても強力で中央に近づくと連携までして来る。
数体なら問題なく相手できると言っても、僕が今ここに残っているのは装備の力が大きい。
アイギスの盾の自動防御に守護者の外套の防御力、天と地の短刀とそれに加えてメリアルメ。
メリアルメは使わないつもりだったが左手の短刀に変えている。
前回、妖精の魔法を受けた時に納刀時の魔法吸収で助かったのを思い出したからだ。
不死である事に慣れて多少の被弾は気にしなくなっていた僕にとって防御面の不安がかなり軽減される。
攻撃が激しさを増していく中、僕の脳裏に2つ不安があった。
1つは「実戦で神剣を使用した事が無い」という事。
これに関してはそこまで心配は無い、かなり練習したし感覚も掴めている。
もう1つが少し問題で「使用までに攻撃を受けないか」と言う不安だ。
オーラを込めて制御するまでに数秒とは言え時間が掛かる、この場所でその数秒は致命的になる。
制御が崩れて『神力暴走』が起こっても聖魔戦争が終わると修復されるエッセンでは被害を気にしなくて良いと思う。
攻撃が直撃すると、ほぼ確実に地上に戻されるので今回もチェインが解除できない。
実戦で使うなら良い機会ではあるしロキが「楽しみが後になっても」みたいなことを言っていた、今回は試してみよう。
攻撃が止まった隙に神剣をポーチから取り出してオーラを込める。
キィィィン……共鳴音が鳴り響いたが、あの時のように光の柱になることは無い。
重さを感じなくなったので制御が出来ているという事になるけど、正直少し怖い。
神剣を振って攻撃をした時、どんな効果がどの範囲であるかを正確に知らないのだ。
先ほどまで攻撃をしていた妖精たちが何故か攻撃をして来なくなった……ように見えた。
極限の集中力で時間の流れが遅くなったように感じている、初めての感覚だ。
(攻撃できる範囲の天使を斬る)
強い意志を込め羽のように軽くなった神剣を持って回転切りを繰り出した。
何かを斬った感覚さえも無いまま、辺りは水を打ったように静まり無音の音が耳に響く。
まさか攻撃が失敗したのか?周りを見ると天使たちがすべて消えていた、そのすぐ後だった。
ドガーン!ボン!ボン!
少し遠くから激しい爆発音が多数聞こえる、闇の領地の方向からだ。
爆発音が聞こえる中、頭の中に不快な音が響き、体内にものすごい激しい力が駆け巡る。
この感覚はチェインの解除だ、手袋を外し手に刻まれた傷が1つ消えたのを確認した。
「これで3つ目か……」
呟いた僕は気が付くとセントスに戻っていた。聖魔戦争が終わったのだ。
あの悪魔の願いが今は叶った、かりそめの平和だとしても喜んでくれるだろうか。
チェインは解除できたが、時が経てば聖魔戦争は起こる。
悪魔のために自分がした事に意味はあるのか?僕のほんの少しの虚無感に襲われた。
街の人に聖魔戦争が開始されて何日経過したか確認すると47日目だと言う。
結構な爆発が起こっていたけど、90日の期限切れじゃないと爆発は起こらないんじゃないのか?
考えながら歩いていると、ロキが待っていた。
「神剣を使ったのだな。チェインが解け、お前の力が増している」
聞きたい事があると伝えると人のいない場所からいつもの真っ白な空間に転移した。
「あの爆発は何ですか?90日の期限での終了で起こるものじゃないですよね?」
悪魔から聞いた話をロキに話した。
「爆発?『リベレイテッド』の事だな。あれは聖魔戦争が終了した時に起こる現象だ。巻き込まれた妖精は消えるがエッセンへの影響は無いので安心しろ」
「消えるって……簡単に言わないで下さいよ!終了時に爆発を起こす必要は無いでしょう。そもそも聖魔戦争なんてなぜ起こるんですか?!」
つい感情的に叫んでしまったが、相手は神様なんだよな。
「聖魔戦争は人類の強化及び妖精との交流、そして天使と悪魔の切磋琢磨を目的としている。それは表向きの理由としての話だ」
妖精に会えて戦うことが出来る、確かに経験を積み強くなれる場所ではあるが……表向きの理由?
「聞きたいなら教えてやるが本当の目的は詮索しない方がお前のためだ。今の話をグリアの民に言えば耳にした者が消える事になる。覚えておけ」
ラルドやロキは、かなり重要な事をサラッと話してくるが他人に言えば殺すとかなら僕に言わなければ良いのにと思った。
リベレイテッドって何だろう?
チェインが解除できた今となっては歌を聞く以外に妖精界エッセンに行く事も無い。
歌を教えてくれた悪魔は戦いたくないと言っていた。
自分に関係ない事だと無視して良いのか?真実を知り何か出来る事があるんじゃないか。
「聖魔戦争が起こる本当の意味、終わる条件、起こさない方法、それとリベレイテッドの意味を教えてくれませんか?」
神が詮索するなと言った内容を聞き、後悔する事になる。
今回も最後まで読んでくれてありがとうございます。
次回「妖精界エッセンの秘密に残された希望と当たらない攻撃」に続きます。




