出会いの大切さ
シュバイツは僕にこう言った。
「ウェイズが何を考えていたかは我には推し量れぬので事実だけ言う。この星グリアが誕生し我が生を受けてから異世界より来るものが帰還した例は2例しか知らぬ」
さっき言っていた数千年前の2人の話だよね、と思ったら違った。
「創造神が強制的にゲートを開き移転帰還させた例とチェインを解除してエネルギーと魂をを流し込み転生させた例だ」
強制的にゲートを開けるなら異世界から来た人全員帰還できるんじゃ?と思った。
「先の例は移転先の星が魔力の流入に耐えられず滅んでしまったのだ。それを憂いた創造神はその方法を禁じた」
確かに帰還しても星が滅んでしまっては本末転倒だ。
しばらく時が過ぎた頃、ウェイズが創造神に「肉体創造分のエネルギーと魂を移転させ転生させれば安全ではないか?」と提案したのだ。
それには問題点があった、人が体内に蓄積できるエネルギー量では足りないという事。
我らが強制的にエネルギーを注入すればとウェイズは考えていたようだ。
膨大なエネルギーを蓄積すれば必要量に達する前に肉体が滅ぶと創造神が言った。
当時すでにウェイズの肉を食せば不死になる事は我らは知っていた。
ただ、異世界人が不死者になった例はない。
創造神はウェイズと我に伝えた。
「ウェイズの不死の力。異世界人にそれを与えシュバイツの神力で不死なる命に束縛を施し解除すれば肉体とエネルギーの強化が可能ではないか?」
善行著しいものを一人選び試した結果はその方法なら可能だろうと判明した。
エネルギーを蓄積しても肉体が絶えられた、ただそこで問題が起きた。
「その試しに不死者とされたものがチェインを解除した後に死ぬのを怖がったのだ」
確かに元の世界に戻れるかも知れないから死ねと言われて自殺できる人は少ないだろう。
我らがその者を殺すことも可能ではあったが悪行を行わない者を殺す理由がない。
結果その者は不死ではなくなり数年後に病死した。
その後、異世界から来た者に説明し協力者を探したがすべて断られてしまう。
やはり死ぬことに抵抗があったり、グリアでの生活に慣れ結婚したりで戻る必要がないと言う理由がほとんどだった。
ここまで聞いて僕は少し疑問に思ったので質問してみた。
「さっき『死者は生き返らない』と言っていましたが転生する条件が死亡と言うのはおかしくないですか?」
そう考えると言ってることが違うんだよね、明らかに矛盾してる。
「自殺や他殺で心臓の鼓動が止まる前に蓄えられたエネルギーに魂を内包させて転移するのだ、正確には死亡してはいない」
それなら死ななくても魂をエネルギーで包んで転移すれば……と思った。
蓄えられたエネルギーは命の終わりを察知すると増幅し魂を包んで体外に出る、その際に深く体に傷を負わないと体外に出ずに死んでしまうそうだ。
エネルギーの出口が必要っていう事か。
「それとチェイン解除の条件が難しいと思うんですがなぜもっと簡単にしなかったんですか?」
物を食べるとか手を叩くとか簡単な内容で解除できればもっと協力者は居たんじゃないかと言う疑問だ。
長距離移動が疲れたり神龍なんて見たら恐怖する人もいるだろう。
「当時は比較的簡単だったのだ、我もウェイズも創造神も他の神や妖精たちも居住している場所が決まっていて会うことは容易に可能だった。神の世界の扉も誰でも開けることが出来た。1000体の討伐は神剣を貸し与え、各種族の長に認められると言うのも帰る許可を貰うだけだった」
「チェインでエネルギーを蓄えるために大切なのは己の意思、最低これ位を帰還するための意思をもって行う必要があった、最初は移動時に我が同行し転移魔法で移動させていたから数日で終わった」
昔は簡単だった?ってことは今は?そう思い聞いたら結構大変らしい。
創造神は神の世界の扉を閉ざし、神々は別の神の世界を作りそこに移動した、妖精は妖精の世界を作った、各種族が繁栄したため各部族の長に会うことも困難になったそうだ。
そして今はシュバイツの協力も神龍の涙と知識の提供しか得られないらしい。
ある理由があり創造神に禁じられたらしいが理由は言えないそうだ。
「グリアに特別な不死者となった者が何人いるか知っているか?」
異世界からくる人間は結構いると聞いている。かなり昔からとしたら1万とかいるんだろうか?
「11人だ。最初の1人は病死した、2人は帰還した。現在グリアに居る特別な者はお主を入れて8人だけだ。ウェイズは不死となった者を見て楽しむような奴ではないと断言できる、楽しむどころか苦しんでいるはずだ」
「ここからは推測も混じる。ウェイズはお主の事を大切に思って帰還させたいと考えているはず。不死になったことを告げなかった理由もある」
その理由は特別な不死者となった者が自分が不死者だと気が付く前にウェイズからそのことを告げられるとチェインが付与できなくなる。
もし僕が考えたように玩具にして遊びたいならシュバイツに会わせチェイン付与させるはずがないと言うのだ。
「奴を信じることが出来ぬなら会って確かめればいい、偽りなく話してくれるだろう」
「我は異世界の者は可能であればすべて帰還させたいと願っている、叶わぬ願いではあるが望まぬ世界で死ぬのは本望ではないだろう」
多分本心だろう、ここで噓を言う必要はない。
特別な不死者となり帰還できる可能性がある人に知識と魔法を与えサポートしてくれているんだろうと考えるようにしよう。
「僕にあなたの知る知識と歴史を教えてください。少し時間がかかっても必要な時間だと思います」
ここで学ぶことは無駄にはならないだろう。知らないでは済まないことも増えてくると思う。
シュバイツは少し嬉しそうに見えた。
「古き昔、この場所は龍の岬と呼ばれていた。いつからか我を畏れ禁忌の岬などと呼ばれ、ほとんど誰も訪れぬ」
龍の岬……かそっちの方が良い名前だと思うんだけどな。
禁忌の岬なんて言われれば近寄る人も減るだろう。
「お主の世界では困っているものに手を差し伸べるのは禁忌なのか?」
まっすぐにこっちを見つめて話す子供姿の神龍の目を見て僕は涙がこぼれていた。
この涙はシュバイツが僕の心を浄化してくれる魔法を使ったんだ……と思うことにした。
悪い方に考えすぎていたのか、異世界に来てストレスや疲れもあった。
武神と言われる師匠から戦い方を学んだ、神龍から魔法と知識を貰った、ウェイズからは命を貰った。
僕も少し人の役に立てればいいなと思う。
地球に帰る日までこのグリアでの出会いを大切にしよう。