エルフの五つ子とジオルグの依頼を受けた勇者パーティ雪月花と簡単だったダンジョン
ダンジョンと言われなければ、グリアの中でよくある田舎の風景と言う感じでのんびりした時間が流れている。
ウサギが飛び跳ねてたり、犬が走っていたりするがもちろん魔物。
ただ、冒険者では無い一般人でも倒せる程度の弱さだ。
少し進んでいくと小さな子供たちが戦っている、危険じゃないのか?と思ったけど大人も付いているようで修行とかなのかな?
邪魔にならないよう距離を取って移動していると声を掛けて来た。
「おーい、久しぶり。今日はカトリーヌさん一緒じゃないの?」
走って来る男の方を見ると雪村だった、あの距離で良く僕と分かったな……。
理由を聞いたら「妖精連れてる冒険者なんて他に居ない」と笑いながら即答されてしまった。
戦いが終わった子供たちと共に哲とシンも一緒に走ってくる、よく見るとエルフの子供だ。
僕の前に整列して1人の子供が話しかけてきた。
「お久しぶりです。その節は助けていただきありがとうございました。カトリーヌ様にもお礼をお伝えください」
その後、各自が自己紹介をしてくれた。
カイ・ガイ・カル・ルーン・ミル、厄災の時にカトリーヌが助けた五つ子だった。
顔つきも凛としていて話し方もしっかりしている。正直な話、最初は誰か全くわからなかった。
ピーフェに対して祈りを捧げている、この辺りも成長したなと思ってしまった。
「おれ……じゃない、僕たち12歳になったので戦い方を教えて貰ってるんです。まさかあの高名な雪月花の皆さんに教えていただけると思ってませんでした」
「ここって獣人エリアだけどよく来ることが出来たね。みんなまだ冒険者じゃないよね?」
他種族がエリアを跨いでダンジョンに来るには冒険者登録が必要と聞いたことがある。
それに、エルフは特に厳しくて冒険者になるにはランクC程度の強さが無いと登録させてもらえないと言っていた。
さっきの戦い方を見てるとその強さはまだないし、勇者パーティが引き受ける事でもないだろう。
「それが俺達への直接依頼なんだよ。変な爺さんが来てこのダンジョンで戦闘や夜営の訓練を依頼されたんだ」
「冒険者でも無い普通の人が、他種族のダンジョンに入れないのは知ってるから断ったんだけどね」
「そのエルフの爺さんが『その問題は俺に任せておけ』って言って、翌日には本当に許可が下りたんで驚いたよ。それで断れなくなってさ」
雪村たちがかなり驚いている、普通では考えられない特別待遇という事だ。
カイ達の説明では、5人が訓練したいと父親に相談したら「祖父の知り合いに頼んでみよう」と言って出て行き数日後には雪月花の3人が到着したそうだ。
5人にとっては曾祖父に当たる人なのだが、すでに亡くなっていてどんな人かも知らないそうだ。
哲とシンが子供たちに声を掛けて訓練に戻って行って雪村が話しかけて来た。
「その依頼主の爺さんが流幻の名前を出してきたんだけど知り合いか?ジオルグとか言う名前の爺さんだ」
「ジオルグさんか、その人は――」
僕は雪村にジオルグの素性を明かした、本人は隠したがっているがエルフの中では知られている事だし問題ないだろう。
「そうだったのか。まぁ、誰からの依頼でも責任を持ってやり遂げるけどな」
「哲とシンには話しても良いけど、子供達には依頼主の名前は言わない方が良いかもね」
雪村は「わかった」と言ってくれた。
でもジオルグがそこまでするなんて、あの子たちの曾祖父ってかなり偉い人なんだな。
子供たちと共に暫くここに籠って戦い方と休憩や見張りの安全確保のやり方などを教えるようだ。
厄災から2年近くが過ぎたのかと思うと、もう2年なのか、まだ2年なのかと不思議な感覚になる。
幼い子供が育って大切な街や人を守るために生きていく、次世代の確かな成長を見てほんの少し安心した。
みんなと別れた後、ダンジョンを進んでいく。
「手紙に移動加速魔法使うなって書いてたんだよな?このダンジョン無駄に広いから時間がかなりかかるぞ。どうせバレないしコッソリ使うとか駄目か?」
確かに魔法を使ってもバレないだろうし魔法自体を使うなと言われてはいないが、理由があると困る。
「初心者が多いし、もし使用して変な制約が掛かると困るだろ。ダンジョンだから普通と違う可能性があるからね」
ピーフェは少し文句を言っていたが、最終的には我慢してくれることになった。
ボソッと言われた「クリアするのに30日近くかかるのに」と言う言葉に驚かされた。
敵の数自体は比較的多いと言っても、弱いし冒険者の数も多いので僕たちが倒すほどは居ない。
実際リポップ待ちになる事もあるので倒し過ぎると迷惑になりそうで極力戦闘は控えて移動する。
このダンジョンは2階層だけと聞いているが2層目も強い敵はでてこない。
ジュリアの意図が全く分からないが、日数は結構掛かったけど苦も無く2層目にたどり着いた。
2層目も草原の階層だ。
敵が少し強くなるとは言っても冒険者なら問題ないレベルでしかない。
確か2層目では貰ったフード付きの服を着て他人に声を掛けるな、だったよな。
フードを被ってみたが地味な色で目立たなくて良いかも。
人気が少なくなっているからと言うのもあって魔物に襲われる回数も増えた。
道中の魔物を倒すときに、メリアルメの練習も兼ねて様々な武器で倒していく。
出口まであと1日くらいになった時に遥か前方で大量の魔物と戦闘している人影が見えた。
少し近づいて行くとフードを深めに被った1人の女性が戦っている。
打撃、蹴り技、身のこなしが綺麗で舞うような戦い方と言う言葉がピッタリだ。
(美しい戦い方でカトリーヌを思い出す。カトリーヌの方があの人よりかなり強いけど、女性1人って珍しいんじゃないか?)
気になったので声を掛けたかったが、他人に話しかけるなと言われているから我慢するしかない。
あまり近づきすぎて怪しまれても困るし少し距離を取って見ていた。
僕が進む方向に彼女も移動しているという事はクリアが目的としか考えられない。
少し気になった事がある、魔物がこちらへ襲って来ず彼女の方にばかり行くのだ。
僕の方を見ていた魔物さえも、吸い寄せられるかのようにフラフラとフードの女性に向かって行く。
魔法で引き寄せている感じは無い、もちろん闘気やオーラも出していない。
闘気やオーラを出せばわかるし、そもそも弱い魔物だと逆に逃げて行ってしまう。
1人で戦う女性の後ろを何もしない男が距離を置いてついて行く、他人が見たらまさしく金魚のフン状態だ。
回し蹴りをした反動でフードが少し外れて一瞬だけ顔が見えて僕の心がザワついた。
(今のってカトリーヌだよな?結婚の準備とかで首都に居るんじゃないのか?なぜ護衛もつけずこんな場所に……)
距離もあったし見間違えかも知れない。そう思う僕にピーフェが耳打ちして来た。
「おぃ、あの女ってカトリーヌじゃないか?話しかけてみようぜ」
「他人に話しかけるなって手紙に書いてあったし……」
「バーカ、真面目過ぎるぞ。他人じゃないから大丈夫だろ?婚約者なんだしさ」
そう言う考え方もあるのか、と少し感心しながらも僕は念のためフードを外さないまま女性に駆け寄って行った。
ピーフェが気を利かせて「おーい、カトリーヌだろ」と言いながら僕の横を飛んでいる。
こちらをチラッと見た女性はお化けでも見たように僕たちから顔を背けて走って逃げていく。
「ち……近寄らないで」
この声は間違いなくカトリーヌだ、追いかけて行ったが移動加速が使えないから追いつくことが出来ない。
出会いの頃から走るのは得意なようだ。
追いかけて行く僕たちを尻目にボスを一撃で倒しダンジョンから出て行った。
「あの声ってカトリーヌだよね。出たら待ってたりするかな?」
「知らねーよ。俺達みたいに『他人と話すな』とか言われてたんじゃないのか?さっさとクリアしようぜ」
復活したボスを倒してダンジョンから出て行ったが、彼女の姿はそこには無かった。




